#36 神殺しの糧その三
タクが洞窟へ向かうために城を出て少しした頃―――
レリルド、アリヤ、ダリフ、フレイリアの四人は近衛騎士団の訓練場へと朝早くに集合した。
今日は近衛騎士団の訓練は無いので、存分に使うことができる。
本当は別々に訓練を行う予定だったが、ダリフがせっかくなら一緒にやろうぜと言い出し、特に三人も反対意見はないので、四人合わせて行うことにしたのである。
「味方の能力を把握しておくのも大切だろ?お互いの能力の特徴を知っておけば、戦闘中トラブルがあってもすぐにサポートやカバーができるからな。まぁそれを言えばタクがいたらもっとよかったんだが・・・まぁ多分大丈夫だろ!」
「まぁ・・そうですね。多分大丈夫だと思います。」
「あの子、いろんな意味で常識外れっぽいしね。もしかしたら最奥の雷巨岩魔の巨人に単独で突っ込んでいってたりして。」
「雷巨岩魔の巨人はAランク冒険者でも苦戦するほどの魔物よ?いくらタクでもそんな考えなしに・・・・・いや、どうかしら・・・?」
「まぁアイツは一人でも何とかするだろうし、俺たちも早速始めるとするか!」
ダリフがこの場を仕切り始めると、彼とフレイリアは二人にそれぞれ特訓内容の説明を始める。
「レルがやるのは、武器以外の生成だ。」
「ぶ、武器以外・・ですか・・・!?」
「そうだ。物質を生成する魔法ってのは極めて実例が少ない。できるかどうかは正直分かんねぇが、俺もお前も、おそらく「武器しか生成できない。」、「武器以外は出せない。」って思いこんでる節があると思うんだ。」
「た、確かに・・・!」
レリルドはダリフの言うとおりだと素直に頷く。実際、レリルドは剣、盾、槍、斧、銃など、武器に関連する物を出す訓練しか今までやってこなかった。それは彼の見つけた本『世界の銃の仕組み全図』の影響が強すぎたからであり、それを見る前までは、未熟だった故に上等なものは作れなかったが、確かに鉄塊や木の枝なんかも生成することができていたのだ。
「武器に絞ることで、それに関しちゃあ確実に一級品だけどな。だが手札は多ければ多いほどいい。それだけいろんなやつに対応できるってことなんだからな。」
「なるほど・・・やってみます!」
レルの方針が定まったところで、フレイリアの方も口を開き始める。
「・・・いよいよ教える日が来るとはね・・・アリヤは、これをできるようになってもらうわ!はぁッ!!」
フレイリアは剣を構えるかのようなポーズをとる。だがしかし、彼女の手には、剣は握られていない。だが次の瞬間。
「『火焔武装』ッ!!」
フレイリアがそう唱えると、彼女の目の前に突如炎が現れる。その炎は瞬時に形状を変え、すぐさま剣の形となった。ロングソードのような形ではなく、中国の柳葉刀のような形状のもので、それを包むような、あるいはオーラを放つような形で炎が静かに、それでいて力強く燃え滾る。
「何もない所から・・剣が!?」
「久々に見たなぁ。フレイリアのそれ。相変わらず熱いなぁ。」
アリヤは初めて目の当たりにする。自分の知らない『火焔武装』。
「これが『火焔武装』の真髄。炎の武器を顕現させ、それを行使する。この剣はちゃんと相手の剣を受け止められるし、ちゃんと物を切断できる。そこらの剣とできることは同じ。何なら、性能はこちらの方が遥かに上。」
「そうか・・・だからお姉ちゃんは二刀流の訓練を・・・」
アリヤは何度もフレイリアの戦いぶりをその目で見てきてはいたが、その全ては腰に携えた剣一本で完結していたのだ。なのでアリヤは、どうして訓練で剣を二本持っていたのかがずっと疑問であったが、この瞬間にようやくその謎が解けた。
「魔力を用いて武器を作る・・・私たちとレル君の魔法って、案外似てるのかもね。」
「でも、この炎の剣もあるのに、なんで戦うときはいつも剣一本なの?」
アリヤは率直に気になった問いを投げかける。
「奥の手、ってやつよ。いざって時のために、手札は残しておくべきですもんね?」
視線をダリフの方向へ向け、少しにやにやしながらフレイリアはそう答える。
「ハハッ!そうだな!お前にも手札の話は散々したし、嫌って程頭に入ってるよな!」
ダリフの散々というのは一般人の果てしないと同じなので、フレイリアもこの手の話を何百回、何千回とされてきたのだろう。
それを察したアリヤとレリルドは、ほんのりとした苦笑いを浮かべる。
「まぁ、お互い習得する内容は分かったな?じゃあ早速始めるぞ!」
「「はいっ!!!」」
始まってすぐ、レリルドはヴォルト城の大書庫から一冊のぶ厚い本を持ってくる。
「まずはこれから試してみます。」
「ほう。石、か。」
その本の内容は、石の種類、硬度、耐久性などが細かく記された研究資料をまとめたもの。レリルドの魔法は、武器にせよ、そのほかにせよ、生成する物の細かな知識が必要となるのだ。
「・・・・・よし。やってみます・・・生成ッ!!!」
レリルドは前方に掌を掲げると、生成する物のイメージを脳内に浮かべ、武器を作る要領で実行に移す。
作ったのは石の壁。縦二メートル、横一メートルほどのそれの生成を、レリルドは何と一発でやってのけたのだ。
「や、やった!成功・・」
ガラゴロゴロ・・・・・
だが、その石壁は生成された途端に崩れ落ち、跡形もなく消えてしまった。
「ま、初見でこれなら上出来なんじゃねぇか?それに、武器以外も生成が可能だってことも分かったな。」
「はい。次は他の種類の石でも試してみます!」
そこからレリルドの途方もないトライアンドエラーが始まる。
「うーん・・イメージが難しい・・・」
「今までは存在する剣に纏わせていただけだったから、慣れるまでは結構かかりそうね。でもあなた、こういったことに関してはかなり上達速いから、順調にいけば半日くらいでできるんじゃないかしら?」
「じゃあそれ以内でやってみせるわ!!!」
「変なとこで負けず嫌い出してんじゃないわよ・・・本当ならもっと時間をかけて訓練するものなんだからね?」
かつてノバルファーマ家では、炎の武器を『火焔武装』で作れるようになるには、通常十年以上の訓練が必要と言われていた。
家の中でもかなり突出した才能を持っていたフレイリアでさえ、先ほどの剣を作りあげるのに三年はかかったのだ。
できればもっと時間をかけて技を磨き上げたいところだが、明日の式典を終えたら、この場にいるアリヤもレルも、英雄の雛タクと共に魔神討伐へ向かってしまう。半日で習得なんて絶対に無理に決まっているが・・・
(この子の内に秘める才能は、私のそれとは訳が違う。なんたって、小父様の一之型を、一度見ただけで再現しちゃうんだから。)
そんな妹に対する期待を寄せながら、フレイリアは腕を組みながら目の前で挑戦を続けるアリヤを見つめる。
(・・・頑張りなさいアリヤ。私はこのくらいの技術しか教えてあげられないけど・・・信じてあなたの帰りを待つって決めたから・・・!)
「あ!お姉ちゃん!今ちょっといけそうな気がしたわ!私の中で、少しずつイメージが固まり始めてる!!」
「あら、随分早いのね?じゃあその今曖昧なイメージを確実なものにしなさい。」
「えぇ!ふんっ!!うぅ・・難しい・・・」
「一回頭の中でしっかりイメージを固めた方がいいんじゃない?少しのイメージだけじゃ、絶対に成功しないわよ。」
溢れ出る感情を押し殺しながら、その後もフレイリアはアリヤに何事も無いかのように助言を続ける。