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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第二章 エボルブ・ブルード
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#35 神殺しの糧その二

「で、どうしてこうなった・・・」


 俺を取り囲むのは、今まで出てきたものよりもちょっと強そうな見た目の岩の魔物。こちらも体に魔石を含んでおり、弾けている電気のようなものは先の奴よりも威力が高そうである。

 だが、先程獲得したスキルのおかげで、それらの心配をする必要がなくなった。そして、危惧するべき問題ははそれではない。この圧倒的な数。

 この相当な広さの洞窟の魔物を全集結させたのかと思うほどの個体数。軽く五百はいそうだ。

 

 なぜこのような状況になったのかというと、少しさかのぼり数分前。

 新しく手に入れたスキルを試してみるため、この雷岩魔の洞窟の更に奥へと進んでいた時、たまたまそこが脆かったのかは分からないが、地に足を付けた瞬間に一気にその部分が崩れ、丁度この高さ二十メートルほどの空間の中心へと落下してきたというわけだ。ああなんという運の悪さか。


「周りのもどうにかしなきゃいけないが、奥のあれ・・やばそうだな・・・」


 目の前に見える魔物の奥でひっそりと、いや、ひっそりというにはあまりにも存在感を放ちすぎているそれは、身長十メートルはありそうな岩の巨人、のような形をした魔物。

 人型というにはかなりごつごつとしており、他の岩の魔物と同じく顔も存在していない。どんな形かと聞かれたら、三秒くらい悩んで人型と答えるような感じのフォルムである。

 関節部分は可動フィギュアのようななっており、指も三本だが存在している。勿論だが喋らないので、辺りには岩がこすれる音しか聞こえない。薄暗い中のこの音はかなり不気味である。

 ちなみに、洞窟内の光源だが、そこら中で魔石が輝いているので、暗くて何も見えないということはない。

 

ガラゴロゴロ・・・・・


 そして少しの間止まっていた魔物たちが、一斉にこちらへと襲い掛かってくる。とはいっても、動きはかなり遅めなので、この数でも落ち着けば対処は可能だ。


「フウッ・・!『身体強化』十パーセント!」


 俺は近づいてくる岩を、時には殴って、時には蹴って、時には敵を一体つかんでぶん投げたりなどして片づけていく。

 進化した『身体強化』は十パーセントでも相当な力が出せるので、まだ調整は難しいものの、こういった魔物相手ならば相当なアドバンテージとなる。『神の第六感』を用いてもダリフには勝てなかったが、この程度の魔物ならばどうということはない。


「でも結局闘気って何なんだ?オーラみたいなのが出てんのかな?」


 そんなことを戦いながら考えてみる。仮にそのオーラが出ていたとしても、自分では確認することができない。そして、そういったオーラというものは、そもそも自分で出すものではなく、相手が自分を見て感じる何かなのだろう。


 そうオーラについて勝手に解釈した俺は、ふとあることを思いついて、即座に実行に移す。


「よーし!・・・はぁぁぁぁぁぁ・・・・・」


 右手の拳を思い切り握り込み、溜め方も分からない力を溜めようと試みる。イメージはストーン・アーツの効果により今もなお増幅されているであろうエネルギーを右手に集めるイメージ。魔石のエネルギーがどのようなものかはなんとなく分かっている。伊達に十時間魔石を貪っていたわけではないのだ。


「お!かすかだが感じた・・よし・・・はぁぁ!!」


 感じたエネルギーを即座に拳へと集約させる。すると、俺の拳が自分でも目視が可能なエネルギーを纏う。その色は取り込んだ雷属性の魔石のような鮮やかな黄色。

 溜めた後どうすればいいか分からないが、ここまで来たら勢いで何とかするしかない。


「・・ッ!!オラァァァ!!!!!」


 俺はそのまま全力で右腕を前へ突き出し、掌を目の前にいる魔物たちに向ける。


ドゴォォォォォ!!!


 放たれた闘気は魔物を次々に飲み込んでいき、前方にいた岩の集団は全て跡形もなく消えた。


「すげぇぇぇぇぇ!!!!!」


 思わぬ形で全男子の夢をかなえてしまった俺のテンションは一気にマックスゲージへと到達する。幼稚園のころから密かに持ち続けていた叶わぬ夢の一つが今日この瞬間に叶ってしまった。


「おぉ・・偶然にしてかなり汎用性の高い技を編み出してしまった・・・なんか名前考えるか・・・うーん・・・ストーン・アーツとかけて・・・・・うん。『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』!シンプルでいいや!」


 技名も決まり、周囲の魔物もあらかた片付いたので、特に動く気配がなかったため少しの間放っておいた岩の巨人に視線を向ける。


「気分もいいし、いつでもいいぞ!!」


 なんとなくそう叫んでみると、それに呼応したかのように巨人の体の魔石の輝きが増し、岩の体が動き始める。


「よし、行きますか!」


 俺は巨人に向かってスタートを切る。巨人の目の前で飛び上がると、すかさず岩の剛腕がこちらへめがけて飛んでくるが、俺はそれを空中で体を捻りながら体勢を立て直し拳を蹴り返す。

 弾かれた巨人の拳は少しひびが入った程度で、相当なの耐久力があることが分かった。

 そして巨人は右腕を後ろに弾かれたままの状態でこちらへ向かい頭突きを食らわせに来る。流石に頭突きが来るとは思っていなかった俺は体の前で両腕をクロスさせてガードの構えを取ることしかできず、頑強な岩に思いっきり弾き飛ばされた。『身体強化』で肉体の強度は上がっているものの、かなりの激痛が俺を襲う。これが進化前の『身体能力強化』であったならと考えるとぞっとする。


「いてて・・よっと。」


 この世界に来てから痛みへの耐性がかなり上がった俺は、すぐさまその場に立ち上がる。


「出力上昇!!」

 

 『身体強化』の出力を引き上げ、もう一度 巨人へと突っ込む。胴体の中心部分を全力で殴ろうと思ったのだが、左手で受け止められる。


「クッ、やべっ、まずッ・・・」


 一瞬脳裏によぎってしまったことがすぐさま現実へと変わる。

 俺は巨人の左手に包み込まれてしまう。巨人の握力はどんどん上がっていき、それは留まることを知らない。普通の人間ならばすでに握りつぶされているだろう。


「・・・・・ぁぁぁぁああああああ!!!『身体強化』百パーセント!!!!!」


 咄嗟に現時点で制御不能な百パーセントへと出力を引き上げる。巨人は咄嗟に握りしめる拳を緩めることができず、膨張してゆくこちらの闘気 (おそらく)によって砕かれる。粉砕の連鎖は続き、巨人の左腕を完全に破壊した。

 そして、空中に投げ出された状態の俺のターンはまだ終わらない。


「はあああああ!!!!!」


 そのまま出力を変えることなく、先ほどと同じように俺は右拳に力を溜める。先ほどの初撃でコツはかなり掴むことができた。後は力任せに放つのみ。


「喰らえぇぇッ!!!『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』!!!出力最大だぁぁぁぁあああ!!!!!」


 全開で解き放った闘気の威力は、先程の比ではない。あっという間に空間すべてを飲み込み、壁をも突き抜けてゆく。


「ふぅ・・・・・やば・・・」


 確実に過剰な威力。完膚なきまでのオーバーキルだった。巨人どころ周りの岩たちも余波()()で消滅しており、『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』が壁を突き抜けていって出来上がった超巨大な横穴は、果てが見えない程に遠くへと突き抜けていた。

 これが後に全貌が明らかになる、アリンテルドで突如発生した大地震の原因となった出来事となることを本人はまだ知らない。


「出力には気を付けないと・・・ん?」


 突如俺の脳に信号のようなものが送られてくる。おそらくストーン・アーツの効果だろう。感じる内容は、恐怖と混乱。


「・・どっちから・・・ッ!?街の方からだ!!」


 初体験のはずなのに、確信できるほどに行使できる。これもスキルの性質の一つなのだろうか?

 いや、そんなことを考えている暇ではないかもしれない。


「・・・どうか詳細をあまり確認せずでの初使用で、俺が勝手に認識を誤っていただけにしてくれよ・・・」


 俺はすぐさま助走をつけて飛びあがって落ちる前にいた場所まで戻ると、全速力で来た道を引き返し、ライルブームへと帰還を急ぐ。

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