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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第二章 エボルブ・ブルード
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#30 ガントレットと鍛冶職人

「よーし。何から見て回るかなっと・・・」


 明確な目的を持たず、俺はラザール通りの散策を始める。レルやアリヤに案内してもらうという手もあったが、そこはゲームを愛する者の性というやつで、こういったものは初見で楽しみたいのだ。

 そんな感じで一通り店を見ていると、一軒の店が目に留まった。


「おぉ・・・これがアリヤが言ってたガントレットってやつか・・・」


 その武器屋のディスプレイに剣や槍などと共に堂々と飾られているのは、美しい銀色の小手。俺の腕の太さを五割増しにしたような大きさで、他に並ぶ武器にも劣らない迫力があった。


「お、それに目をつけるたぁ、お前さん見どころあるねぇ。」


 そう言って店から出てきたのは、この店の店主らしき人物。作業用と思われるエプロンと手袋を身に着けた、恰幅のいい男だ。


「普段ガントレットなんて人気のないもんはそうそう店の前に出さねぇんだが、こいつは中々の自信作でなぁ。頑丈な特殊な合金を使用して、必要のない部分はとことん削った。丈夫さと軽さを両立させた逸品だ。まぁこんなもん作ったところで、わざわざ剣やバトルアックスなんかから乗り換える奴なんていないんだがな。どうだ?いっちょ試してみるか?」

「え?いいんですか?」

「おうよ!気に入らなかったって無理に買う必要もねえ。店の裏に試し切り専用の丸太がある。そこで使ってみな!」


 ということで、店主がディスプレイからガントレットを取り出し、その足で店の裏まで店内から向かう。店の中にも、相当な数の武器が存在していた。しかも、そのどれもが今目の前にいるこの人が作ったものらしい。人柄もいいしおそらく、この数々の武具が立ち並ぶラザール通りでも、かなり腕利きの鍛冶師なのだろう。


「さ、着け心地はどうだ?」

「凄いです・・・つける前はどこかしら違和感を感じると思ってたのに、それが全くない・・・!」


 ごつい見た目に反して、ガントレットは俺の腕によくフィットしており、重さも想像の半分以下の軽量である。


「さ、武器の真の良さってのは使ってみねぇと分からねぇ。試してみな。」

「はい!」


 俺は目の前の丸太に向かって構える。高さは百五十センチほど。直径は四十センチくらいだろうか。プストルムの訓練場の物よりも一回り大きい気がする。そして、そんなことを呑気に考えていられるのは今のうちだけだった。


「・・・よし!とりあえず『身体強化』五パーセント!ハァァッ・・・!」


バキィィィィィィィィィイイイイン!!!!!


「え?」

「んな・・・」


 構えながら『身体強化』を発動させた瞬間、突如としてガントレットが甲高い音を鳴らしながら粉々に破砕した。


「魔力・・・いや、こりゃあ闘気か・・・?それだけであのガントレットが粉々だと?・・・いったいどれほどのパワーを内に秘めてるんだ・・・?」

「・・ご、ごめんなさい!!本当にすいません!!!まさかスキルを発動させただけでこんなことになるとは思わず!!ち、ちゃんと弁償はしますので!!!」

「・・・いや、構わん。試させたのは俺だ。それに、人が作った武器ってのはいつかは必ず寿命が来る。それがちと早かったってだけだ。代金の事は気にすんな。その代わりと言っちゃあなんだが・・・教えてくれねぇか。そのスキルってのはなんだ?」

「え?・・あ、はい・・・」


 怒鳴られると思ったのだが、あっさりと許されてしまった。特に隠すことも無いので、俺は店主に説明を始める。


「えっと、『身体強化』です。」

「『身体強化』?『身体能力強化』ではないのか?」

「はい。その『身体能力強化』が進化したスキルで、性能はそれよりも遥かに上。あと、身体能力だけでなく、それに比例して肉体の強度も上昇します。」


 俺は。『進化之石板(アドバン・スレート)』を確認しながら、店主にスキルの詳細を話す。


「スキルの進化・・・スキルを進化させることができる確率は一生涯かけたとしても十万分の一以下だというが・・・そしてお前さん・・・まさかそれは・・『進化之石板(アドバン・スレート)』か?」

「あ、はい。そうです。」

「伝説級の代物をこうも軽々と・・・一体何者なんだ?」

「俺の名前はあいざ・・じゃなくって・・・タク・アイザワ。アルデンに呼び出されて魔神討伐に駆り出された一般人です。」

「アルッ!?・・・無茶苦茶な話だな・・・だがまぁ、()()を見ちゃあ納得せざるを得んな。」


 俺は包み隠さずそう言うと、店主は多少戸惑ったものの、すぐに信じてくれた。この『進化之石板(アドバン・スレート)』には、それほどの価値と説得力があるのだろう。


「名乗ってもらったんだ。こっちも名乗らなきゃな。俺はガスター・サードル。ご存じの通り鍛冶師だ。改めて、よろしくな。」

「はい。よろしくお願いします。」


 俺たちはお互いに自己紹介をして、握手を交わした。


「最近ここらでも魔神の噂が絶えなかったからな。もしかしたら・・と思っていたんだが、まさかこんな子供がそうとはな。」


 そう言いながらガスターの話は続く。


「タク、もしお前がいいのなら、お前専用の武具・・・俺に作らせてはくれねえか?代金はいらねぇ。一年・・・いや半年で完成させてみせる・・・!お前が全力を出しても壊れないような至高のガントレット・・・頼む!俺に作らせてくれ・・・!」

「ガスターさん・・なんでそこまで・・・」

「魔神に挑む英雄の武具を作るなんて機会、これを逃したらもう一生叶うことはないだろう・・・それに流石のお前さんも、素手で魔神を倒すのは骨が折れるだろう。利害は一致するはずだ。頼む!」


 この返答には正直少し迷った。ご存じの通り、俺たちは三日後にアリンテルドを去る。半年後となれば、俺たちはとうに違う国にいるだろう。

 だが、一度去ったからって、戻れないわけではない。俺の場合、『身体強化』と『無限スタミナ』を併用すれば、離れた国にいても、かなりの速さで戻ってくることができるだろう。

 そういうわけで、こちらとしても願ってもない事なので、俺からもお願いすることにした。


「はい!よろしくお願いします!」

「承った!俺の全存在をかけて作らせてもらう!・・・そういえば、さっき五パーセントと言っていたな。もしよければ、百パーセントを出してみてくれんか?どのくらいの強度が必要かを見極めたい。」

「分かりました・・・ハァァァ!!!『身体強化』百パーセント!!!!!」

「グ・・・こ、これほどまでとは・・・!!!」


 『身体強化』で百パーセントは試したことが無かったので、また骨が粉々になることを少し覚悟していたが、肉体も同時に強化されているおかげでそんなことはなかった。だが動かなくても分かる。この状態は、今の俺には扱いきれない。

 今の俺がこの状態で少しでも動けば、制御が利かず、周囲の建物を破壊してしまう可能性がありそうだ。

 そんな『身体強化』百パーセントを見たガスターは冷や汗を流しながら驚愕するも、見極めを続けている。

 

「これだと普通の金属では無理だな・・・高濃度の魔力を練りこむか・・いや、それでもキツイか・・・更に相当な数のアビリティ付与(エンチャント)も必須だなこりゃあ・・・よし!もういいぞ!」

「はぁ・・・ふぅ・・・」

「ありがとな!あ、そういえば・・・少し待っててくれ。」


 そう言うとガスターは店の中に戻り、あるものを取ってきた。それは黒色のレザーグローブ。レルと同じような指先の部分がないタイプで、ごつくなく、自転車競技の選手が着けていそうな見た目である。


「伸縮性に優れ、ある程度の刃は通さない程の相当な防刃性も兼ね備えている。この先素手で獲物を持った奴と戦うのはきついだろ。ちとばかしの餞別だ。お前さんにやるよ。」

「ガスターさん。何から何までありがとうございます!俺、必ず魔神を倒します!ガスターさんの熱意を無駄にしないためにも!」

「おう!頼むぜ!」


 そうして、たまたま、いや、もしかしたら必然だったのかもしれない出会いを果たした俺は、貰ったレザーグローブを手に身に着け、その武器屋を後にした。

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