#25 鼓舞とちょっとした昔話
動けば死が訪れる状況の、あまりにも長い三秒後。スキルメインの思考が終了し、自分の意識がようやく覚醒した瞬間。
「・・・・・ん・・んなっ!?」
「模擬戦終了!勝者、ダリフ・ドマスレットッ!!」
気づいた時には予想通り試合は終了しており、どうやら俺はダリフに敗北したようだ。一応神からもらったスキルなので、無敵の力かなにかと思っていたが、それは過信しすぎだったのだろうか。
そして首元には、剛剣の研ぎ澄まされた刃。結界内の地面はなぜか陥没しており、恐る恐る後ろに目を向けると、口角を吊り上げたダリフが佇んでいた。
「お、戻ったな。まさかスキルだけであそこまで人格が変わるとはな。」
「じ、人格?っていうか、早く剣収めてください!」
「おっと、すまんすまん。」
ダリフは謝って首に刃が当たらぬよう、ある程度慎重に大剣を背中に戻した。
「んで、人格っていうのは?」
「ん?おう。お前。戦ってる最中、感情が消えたかのように真顔でよ。ずっと真顔で眉一つ動かしてなかったんだ。お前もしかして多重人格か何かか?」
「いやないない・・・」
俺は即答で返して手を横に振っておいた。
「さてと・・・レルーッ!さっきの試合って試合どんな感じだっ・・・た?」
ここから少し高くなってしまった地上にいるレリルドに向かって話しかけたが、返答は帰ってこない。しかも、目と口が開きっぱなしで、愕然としている様子。隣にいたアリヤも、フレイリアも、その他大勢の方々もみんな揃いも揃って同じ様子。只一人、モラウス首相を除いて。
「皆の者。よく見たか?あれが我が国最強の男。もとい、元第二十二代目近衛騎士団団長、ダリフ・ドマスレットの実力!その力は前線を引いてもなお健在!しかも、奴の本当の実力はこの程度のものではない!皆、あのような馬鹿者のようになれとは言わんが、一つの到達点として今後さらなる精進に励むことを祈っておる。以上だ。全員直ちに持ち場に戻れ!」
「「「「「ハッ!!ありがたきお言葉ッ!!!」」」」」
その言葉に、地上に残っていたすべての者が王に向かい跪く。それにしても・・・
「って・・・ええ!?小父様が元近衛騎士団団長!?」
「しかも、あの『空白の二十二代目』!?どんな文献にも一切乗っていないのに!?」
と、ノバルファーマ姉妹が驚愕する。というかやっぱりあの人は秘密が多すぎる。いや、あの性格からするに、おそらくはただただ言ってないだけだろうが。で、レリルドの方はというと。
「はは・・・うん・・・ハハハ・・・・」
放心状態である。
城の人は全員持ち場に戻り、三人も少し落ち着きを取り戻してきたところで、俺たちは初めにダリフが言葉にしていた城の会議室に移動し、それぞれ近くの椅子に座った。当然、首相は一番奥である。いわゆる上座ってやつだ。
「・・・それにしても珍しいですね。師匠が六之型を使ってる所なんてすごく久々に見ましたよ。」
「あぁ、初見の奴なら大抵は出し抜けるからな。それに、あの状況で俺らがもう一度正面衝突したら、張ってあった結界が粉々になって、城の一部が吹き飛んでただろうよ。」
ダリフの話によると、どうやら初めに張っていた何百もの結界は、俺たちの衝突による衝撃波でかなりの枚数が割られていたようで、最終的に残っていた結界の枚数は十枚を切っていたそうだ。
「それよりも・・・モラウス首相!小父様が元近衛騎士団長というのは本当なのですか!?」
「自分も、先代からもそのような話は伺っておりません。」
「そうであろうな。そのことを知っておった二十三代目はそれに関して二十四代目に教える前に亡くなってしもうたしな・・まぁ知っておるからと言って特にどうとかは無いのじゃがな・・」
ちなみに、フレイリアは二十五代目であり、入団したのも二十四代目の世代なので、知らなかったのも無理はないだろう。
「それに、俺が団長だったのはたったの三日だけだ。記録も文献も俺が面倒くさくなりそうだったから残させなかったんだ。」
いやそれくらい残しとけよ!と軽く心の中で突っ込んでしまったが、まぁ、うん。もうそういう人なのは嫌というほどわかっているので、もういちいち気にするのはやめておこう。
「でもなぜ三日だけなのですか?」
レリルドが首相にそう尋ねる。
「今から約三十年前。この国が共和制を取ることとなったきっかけの大戦。その最中に当時の二十一代目が命を落としてな。年が年なので酷だとは思ったが、当時頭角を現し始め、実力も信頼もトップクラスであった若かりしそこの馬鹿者にその戦場を託したというわけよ。」
「首相、試合後の発言の時もそうでしたけど、いちいち馬鹿者なんて言わなくてもいいじゃないっすか!?」
「やかましい!幾度となく重ねる遅刻!欠席!重要書類の未提出!そしてその態度!昔から何も変わっとらんわお主は!」
なんか騎士団長というよりかは高校生のような理由だ。
「まあまあ、その辺はとりあえず水に流してもらって・・・よし!今後についてこの場で話し合おうではありませんか!」
「あ・・誤魔化した・・・」
柄にもないセリフで話を切り替えたダリフであった。だが会議室に移動してきた理由には当てはまるため、特に誰も反対意見は言わずに真面目な会議が始まったのだ。
「まぁ本題はそこよねー・・・レル君。話にあった、カースウォーリアーズ・・だっけ?あたしは初めて聞いたんだけど・・・」
「僕たちもその時に初めて耳にしました・・でもあのカロナールとかいうやつは、相当な使い手でした。何万もの死体を同時に操り、思いのままに組み合わせて化け物を生み出す・・・襲われていたのが師匠のいるプストルムじゃなかったら・・・・・おそらく厳しかったと思います。」
カロナールをボスとして、裏ボス的存在であった同種合成獣は右腕を犠牲にしながらなんとか撃破したが、今考えてみると、その手前で遭遇した最上位級狼獣人数百匹。ダリフがあの場にいなければ、おそらく俺たちはほぼ間違いなくあそこで詰み・・・仮にそうではなくとも相当な足止めを食らっていたことだろう。
「それでは、まずその者共について話し合うとしよう。」
そこから本格的に、国の今後に関する話し合いが行われる。