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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第二章 エボルブ・ブルード
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#24 最強の男と英雄の雛

 『神の第六感』発動直後、以前と同じようにあらゆる感覚が遮断される・・・と思っていたのだが。


(あれ・・?目が見える・・・!?・・・が、やっぱり体は動かないな。)


 この現象も先程の進化によるものなのだろうか。前回発動した際には視覚や聴覚、痛覚など、感覚と呼べるものは全て感じることができなかったのだが、今回は見ることだけは可能となっている。

 だがやはり、他の感覚器官はもちろん、最適解で動き続ける体を意のまま操ることはいまだ不可能のままであった。プロのVRゲーマーのプレイ動画を見ているような気分である。


「ハァアアアッ!!!」


そんな直後、ダリフが始めからフルスロットルで攻撃を仕掛けてきた瞬間でいつも通りの思考ができなくなった。


(な・・・はや―――・・・・・左からの横薙ぎ・・斬り返し・・もう一度最初の方向からの横薙ぎ・・と見せかけてのフェイント。斬撃を当てようとする直前で体を右にターンさせてそのまま袈裟を落としてくる。直後に少し後ろに下がっての連続突き・・・)

「ほう・・・」


 ダリフが先ほどの笑みを崩すことはなく、一秒間に百なんぞ優に超えるような斬撃の嵐が、止まることなくタクに襲い掛かる。

 視覚が戻ったのは良いが、『神の第六感』に脳のリソースをほぼ全て委ねているせいで、視覚情報が全く頭に入ってこない。つまり、現時点では何の意味もなさないのだ。

 『神の第六感』は文字通りの神の力。普通の人間には発動させることすら無理に等しいのだ。

 だがタクはそれを、進化した『身体強化』による常人より遥かに強靭となった肉体と、『成長限界超越』によるまさに付け焼刃と言えるその場での成長により、同種合成獣(セーム・ド・キメラ)戦の時よりも効率の良い動きをしているのだ。


「どうしたタク?能面みてぇな顔しやがって!」

「・・・・・・・」

「・・・ふむ・・・・・・感覚を研ぎ澄ませ、それに従い動いているって感じか?」

「・・・・・・・」

「へっ・・じゃあ・・・もうちょっと上げてみるとするか!!!」


 そう言うと、ダリフのギアが何段か上がる。斬撃の物量は先ほどまでの数倍。攻撃パターンは先ほどまでの比ではない。


「ハァァァァアアアッッッ!!!『天空覇者の乱舞(セレスト・ラッシュ)』ゥゥゥッ!!!!!」


 繰り出されたのは阿修羅『破道』ではないダリフの剣技。その絶技は、普段から修練に励んでいる近衛騎士団にも把握できるものではなかった。


「なんて剣技だ・・あの大剣を・・・しかもあの技・・・修行では一切見たことない・・・!」

「ねぇ・・・アリヤ・・見える?・・あれ・・・」

「微かにしか・・・お姉ちゃんは・・・?」

「あたしもそんな感じ・・・もうこれは私たちの模擬戦への考えを改めた方がいいかしら・・?」


 そんな風に呟く傍らで、モラウス首相はフレイリアに答える。


「フレイリアよ。お主の考えはそのまま保っておきなさい。あの戦いは、次元が違う。」


 最も、その片方は実力ではなくスキルのおかげなのだが。


 そう外野で話している間も、俺たちの攻防は続く。

 ダリフが攻撃し、それを『神の第六感』で躱し、いなし続ける。そうしているうちに模擬戦開始から約二十秒が過ぎた。


「ヒュウッ!これがアルデン様から授かった力か!すげぇ!俺の剣がここまで手ごたえがないのは久しぶりだな!俄然燃えてくるぜ!」

「・・・・・・・」


 そうダリフが発言するが『神の第六感』発動中の俺には一切聞こえることはない。


(現時点でのある程度の把握は完了・・・迎撃開始・・・・・む・・・)


 俺の意識外で、俺はダリフに回転効率重視の拳を叩きこむ。


「ぬぅ・・・フウッ!ハッ!!」

 

 だがしかし、ダリフの方もそれらすべてをはじき返す。ある時は大剣の面で、ある時は左手で、ある時は額で俺のことごとくを打ち返す。


(左の鳩尾・・失敗。右肩の関節部分・・失敗。即座に七か所に打ち込む・・・クソッ、全部弾かれた。)


 現在四十三秒経過。両者とも一撃も入れることができずにいた。


「タク、俺は残り三秒の時点で勝利を決める。」

「小父様が勝利宣言を!?」

「・・あたしの知る限り、いままで小父様が勝利宣言をして・・・」

「・・・その通り以外になったことはない。」


 第三者すら認める絶対的な勝利宣言に、外野の騎士や魔法士もざわついている。


「ぬぉぉああッ!!!」

「・・・・・・・」


 勝利宣言後、ダリフの速度がさらに上がる。阿修羅による七連撃。そこから縦方向の回転切り。そのどの一撃も一撃必殺の威力。

 

(いったん下がって体制を立て直・・グウゥ!?)


 空を切った回転切りはそのまま地面にたどり着き、その地盤を極薄の板材かのように叩き割り、その衝撃は結界の外にまで十分すぎるほどに伝わる。砕かれた地面は地割れを発生させ、結界内の足場をことごとく崩壊させていく。


(クッ・・・ならば!)


 俺は身を捻り地面の方を向く、そして落下の勢いでそのまま全力で崩れた地面に向けて拳を放つ。

 地盤を崩されたのならば、また固めればいいだけの事。


(先ほどの出力には耐えられなかったか。)


 その一撃でまたしても俺の右腕がイカれる。右腕自体は残っているものの、指先から肩までの骨が粉々になっている。だがしかしこちらも先ほど進化させたスキル『自己再生』のおかげで即座に元通りとなった。


「ふぅぅぅぅぅ・・・・」


 凹んで少し地上から下がってしまった結界内でほんの少し反響するのは、集中モードのダリフから察せられる阿修羅『破道』特有の呼吸音。大技が迫ってくる瞬間は間近に迫っていた。


(前方から飛び込んでくる。ギリギリまで引き付けて回避。そこから反撃・・・・・に・・・)


 瞬きした瞬間。十メートルは優に離れていたダリフが、眼前に迫る。

 俺はとっさにダリフに最速の掌打を繰り出すが、手ごたえはない。そしてその瞬間、ダリフが蜃気楼のように消えた。


(な・・・一体どこへ)

「ここだ。」


 声が聞こえてくるのは、俺の真後ろ。背中に張り付きそうな距離にその男は突然にして現れた。

 『神の第六感』の思考回路をもってしてそれに気づいたころには、すでに俺の首元直前に刃が向けられていた。横方向もダリフの腕に囲まれており、まったく動けない状態となった。


「・・・・・阿修羅『破道』六之型。『眠り月(ルナティック)()幻影(ファントム)』・・・勝負あったな。」


 そう言ってダリフは微笑する。この時点でこちらの負けは確定してしまったのだ。


 試合残り時間―――三秒で。

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