#21 首都と騎士団の訓練
プストルム近くの平原、森で起こった突発的なイレギュラー。進行してくる獣人を一匹残らず排除する。後に『獣人殲滅戦線』と呼ばれる戦いから数日後。
思わぬ形で心身ともに消耗した俺たちは、アリンテルド出発を少し遅らせることにしたのであった。
正直に言うと、あの戦いの後俺たちは丸一日眠ったままだったとか。『無限スタミナ』があるので疲労困憊ということはないと思うが、あれまでの約二日間でいろいろありすぎたので、まぁ無理もないか。
今はプストルム内の救護施設で久々・・・というほど日数は経っていないし、傷の方もとっくに完治しているのだが、まぁとにかくのんびりしているわけだ。
レルとアリヤは特にひどい怪我は無かったようで、寝て起きたら施設を後にしていった。元気な奴らである。
そして、肝心の右腕の方はというと、まだ再生できていない。ダリフ曰く、肉体の欠損部分を再生させる魔法は存在するそうだが、どうもその使用難易度がとてつもなく高いそうで、この国では、かつて王国だった時代に王宮直属の魔法士団くらいしか使える者ではなかったそうだ。
そんなこんなでどうしたものかと考えていると、部屋にダリフが気持ちテンション高めな様子で入ってきた。
「よぅタク!元気そうだな!」
「いやこの状態は元気とかいう問題じゃないでしょ・・・」
「そうやって軽口が叩けている間は問題ねぇよ!それでタク、早速なんだが・・・ライルブームへ行くぞ!」
「らいる・・ぶぅむ・・・?」
と、言うわけで、反論の隙も与えられずに連れ出された。アリヤとレルも一緒だ。
ダリフの言っていたライルブームとは、アリンテルドの首都なのだそうで、地図上ではプストルムの右斜め上辺りらしい。
プストルムもなかなかに大きな町だったが、ここライルブームはそれの比ではない程に発展している様子であった。
辺り一帯に店という店が立ち並び、屋台もいたるところに設置されている。揚々とした雰囲気の街道では馬車が行き交い、人々が闊歩している。その中にちらほらと何やら制服のようなものを着た少年少女の姿が見受けられた。
「やっぱりこの世界にも学校はあるんだな。」
「ん?あぁ、修練士の子たちの事かい?六歳から十二歳までの間、アリンテルドの子供はみんなここにある修練学園に通うんだ。進路も冒険者だけじゃなくて、この街や他の街の店で働いたりだとか、成績が優秀な人は、元王宮直属の現アリンテルド最強の魔法士団とか、近衛騎士団なんかに見習いからだけど入団することもできるんだよ。」
「なるほどなぁ・・・」
要は相当レベルの高い小学校というわけか。この世界はそんな年から進路について考えさせられるのかと少し考えてしまったが、郷に入っては郷に従えと言うし、素直に理解しておこう。
「さて・・・んでダリフさん、これからどこに行くんですか?」
「お、そういや言ってなかったな。首相のところだ。」
「「「・・・・・え?」」」
いやお前らも聞かされてなかったんかい。こういったところに関して、ダリフは相変わらずである。
ライルブーム中央から少し東に位置する場所に優雅に佇む城。いたるところに細かな装飾が施されており、その姿は最近築かれたと言われても信じてしまうほどの洗練された美しさを誇っている。
このグラナディラ・ヴォルト城――少し名前が長いため国民からはヴォルト城と呼ばれている。――は、現在から約五百年前に、初代国王イルニウス・アリンテルドによって築城され、魔法による管理、修繕によって、現在までその姿を保たれ続けてきたのだそうだ。
歴史が好きなのだというアリヤの解説を聞きながら、俺たちはそのグラナディラ・ヴォルト城を目指した。
城門までたどり着くと、門番と思われる男性二人組は、ダリフを見た途端びくっとして、慌てた様子で敬礼する。
「ド、ドマスレット殿!よ、ようこそお越しくださいましたッ!」
「モラウス首相がお待ちです!どうぞ中へ!」
「おう!ご苦労さん!」
「「きょ、恐縮です!!」」
なんで突然ビクビクしだしたのかが疑問だったので、ダリフの後ろでこっそりとアリヤ先生に聞いてみることにした。
「なぁアリヤ、あの人たちはなんでああなってんだ?」
「小父様は年に数回、近衛騎士団に指南をしているの・・・地獄という言葉があれほど似合う訓練もなかなか無いわね・・・」
「そ、そういうことか・・・」
謎も解けて中へ進むと、早速噂の近衛騎士団と思われる人たちが訓練を行っていた。それぞれが手に握っているのは木製の剣、槍、短剣など種類は様々。各自得意な獲物を用いている様子だ。
どうやら二組に分かれている様子で、片方は一対一での試合形式。
「フッ!」
「ヤアァッ!!」
二人ペアが数十組おり、そのすべてで訓練とは思えないほどの激しい打ち込みが行われている。
そしてもう片方はというと・・・
「今日こそ・・・」
「よし・・絶対に勝つ!」
「行くぞお前ら!」
「「「おう!!!」」」
「・・・・・・・」
近衛騎士が真剣に囲んでいるのは、無言で佇む一人の女性。セミロングの赤髪がそよ風でなびき、美しい顔は集中モードに入っているようで、凛々しく、それでいて隙が無い。
その場のほんのわずかの間の静寂を破ったのは、まだまだ若そうな騎士の突き。その騎士は彼女に向かい、木剣を持つ右腕を目一杯突き出した。
「やああああああっ!・・・なっ・・・」
「甘いな。戦場で武器を奪われるリスクの大きさを考えろ!」
彼女は騎士の右手首をつま先で蹴り上げ、その反動で宙を舞った彼の木剣を自らの左手に収めた。そして彼女が元々右手に持っていたのも同じ木剣である。
「これが戦場ならとうに死んでいるぞ!」
「クッ・・・」
「負けてらんねぇ・・・全員かかれ!!!」
「「「ウオォォォォォ!!!」」」
「ふん・・・・・ハアアアアッ!!!」
四方八方から襲い掛かってくる、何十人もいるであろう近衛騎士を、彼女は二刀流の剣技で全てさばいていく。その流麗な絶技は、見ているこちらがうっとりするほどに美しかった。
それから数分後―――
「う・・あぁ・・・」
「畜生・・・今日も勝てなかった・・・」
「全員鍛え方が足りんな。いつも言っているが、どの武器においても、まず重要になってくるのは基礎だ。日々の基礎訓練を意識し、そこから応用に繋げていくんだ。分かったな!」
「「「「「ハッ!!!!!」」」」」
「・・・・・凄いな。」
俺は素直にそう思った。あの剣技もさることながら、魔法やスキルを一切使わずにあそこまでの動きをやってのける点は凄まじい。
「フレイリア!相変わらずだな!」
「あ、ダリフ小父様!ご無沙汰しております。あとアリヤにレル君と、キミが例の子か!」
「相変わらず訓練になると雰囲気が全然違うわね。お姉ちゃん。」
「お姉ちゃん!?」
「どうも少年!アリヤの姉のフレイリア・ノバルファーマでーす。よろしくねっ!」
こうして、思わぬ形でアリヤの実の姉であり、近衛騎士団団長のフレイリア・ノバルファーマと対面することになった。
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