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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第一章 異世界転移・獣人殲滅戦線
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#20 獣人殲滅戦線その十四

 カロナールが死亡する数分前―――




「う~~ん・・・流石にキツくなってきたね・・・」

「だが悔しいことに俺達にはどうにもできん・・・お頭が来るまで何とか持ちこたえ・・フゥン!!」


 アールズとデイモンドは今もなおカロナールによって生み出された合成魔獣を街に近づけんとするべく奮闘していた。

 防衛する過程でどうしても相手を削らなければならないため、魔獣側もそのたびに再生して強化されている。それに比べて二人の方はというと、周囲で防御結界を張っている戦闘員の中に回復魔法の使える者もいるため、肉体的ダメージ的には問題はないのだが、集中力が必要不可欠なこの場面での疲労が凄まじい。決して負けることのない、だがしかし絶対に倒すこともできないというもどかしさ。二人はダリフならどうにかしてくれるだろうと信じ、精神面での安定を図っていた。


 そして、ついにその時は訪れたのだ。


「あ、あれは!」

「リ、リーダーが戻ってきたぞ!」


 森の方から走ってこちらへ向かってくるのは、他の誰でもない。アリンテルド最強の男。ダリフ・ドマスレットである。


「よし、全員!一時的に防御結界の維持を中断、リーダーが圏内に入ったら再展開を・・・」

「いや、その必要はねぇぞ。デイモンド!アールズ!ちょっと離れてろ!!!」

「「ハッ!!!」」


 ダリフの指示を聞いた二人は、速やかに大きくバックステップを取る。本来数百人単位での防御結界など、なかなか破れるものではないが、そのような常識はダリフ・ドマスレットの前では意味をなさない。 


「うぉおらぁっ!!!!!」

 

 短い掛け声とともに、ダリフは地面を蹴り更に加速すると、そこから軽く十メートルほど飛び上がり、防御結界をアクリル板かのごとくさも当然のように蹴り破る。

 そして結界内に降り立ったダリフは、一息つく間もなく構えをとる。

 右手に握る阿修羅を逆手に持ち替え、そのまま右腕を後ろに、左腕を前にして型に入る。


「ハァアッ!!阿修羅『破道』五の型ッ!『怒り月(ルナティック)()昇斬(アッパー)!!!!!」


 直後、ダリフは前傾姿勢で踏み込んだ。それは滑るような動きで、とてつもない速さであった。一瞬でまだこっちに振り向いてすらいない合成魔獣の足元までたどり着き、次の瞬間逆手に持った阿修羅で股から脳天までを切り上げ、魔獣は縦に真っ二つとなった。その後、剣技の余波と言えるだろうか。拳を突き上げたダリフの闘気が連鎖的に魔獣を飲み込み、その細胞をひとつ残らず消し飛ばした。


「ハハハ・・・・・やっべ・・・」

「全く・・・俺たちはとんでもない男に惚れこんでしまったとつくづく思わされる・・・流石だな・・」


 魔獣が消えた瞬間、周囲から歓声が沸き上がる。

 しかし、皆の笑みはは一同そろって少し引き攣っている。あの合成魔獣だけでなく、皆がダリフの闘気に圧倒されたのである。そしてそれは両翼トップも例外ではない。アールズとデイモンドでさえ冷や汗がまだ止まっていない。もはや笑えてくる強さである。


「よっと・・・お前ら、大丈夫か?」


 ようやく地上に着地したダリフは、二人の前で問いかける。


「お頭!つくづく思うんですけど!マジでどんなトレーニングやったらあんな出鱈目な強さになるんすか!?」

「そーだな・・・・・おっ!アールズがレイピア卒業して大剣二刀流とか始めたらできるかもな!ハッハッハッ!」

「できるわけね―でしょうが!!!」

「お頭、毎度のことながら、お見事でした。俺もいつかあんな風に・・・」

「お前もレル同様クソ真面目だからな。アールズよりかは上達が早いんじゃないかぁ?」


 ダリフがアールズを見て二ヤつきながらそう言うと、案の定アールズは「なんすかそれー!」と返事を返していた。


「ん?なんだあれ?」


 ふとその場にいた一人の青年の魔法士がそう呟く。それは葉っぱ程のサイズの小さな肉片。それはうねうねとうごめき・・・・・獣人の物と思われる体毛が少し生えていた。


「う、うわぁ!」


 青年はそのあまりの気味の悪さに後ろに下がるが、運悪く小石に躓き、その場でしりもちをつくことになった。

 そしてそんな青年なんてかまうことなく、肉片は急速に再生を始める。


「ひ。ひいぃぃぃっ!!!は、うわぁああ!!!」

「な、なんだ!?」


 その異変に最も早く気付いたのはアールズだった。そのコンマ数秒後にダリフとデイモンドも遅れて気づく。だが、気づいた時には、すでに青年の前に、先ほどまでとはいかないが、かなりの大きさの獣人が立っていた。

 そう。すべての細胞はダリフの闘気によって消滅したと思われたが、ほんの少し、あとほんの少しだけが残ったままであったのだ。闘気の放っていた時間があと一秒ほど長ければ確実に屠ることができていただろうが、そんなことを考えていても意味がない。


「ヤバい!間に合わない!」

「うわぁぁぁぁぁあああ!!!!!」


 青年が獣人に嬲り殺しにされる・・・とその場にいた全員が覚悟したが・・・


「ひぃぃぃぃ・・・・・あ・・・あれ?」

「グ・・・オ・・・・・」


 獣人はその場でピタリと動きを止め、黒いオーラを飛散させ、そのままその場で焼失した。


「な・・・一体何が・・・」


 その結果はダリフにも予想しえない物であり、考えられる答えはただ一つ。魔法発動者の死である。おそらく発動者のカロナールが死んだことにより、魔法にて活性化された細胞もそのまま死滅したのだろうとダリフは予想した。


「師匠ーーーッ!無事ですかーーーーーッ!!」


 森の方からこちらへ向かってくるのは、先程離脱する際に分かれた三人組であった。


 レリルドとアリヤに関しては目に見えるような問題は見受けられなかった。だが防具や服がかなりボロボロになっている。


「お前ら!よかった!無事・・・・・タク・・・その腕・・・」

「大丈夫です。ほんのちょーーっと無茶しただけなんで。」

「そ、そうか・・・何はともあれ、カロナールとかいうアイツは倒せたんだな!」


 そう言うと、三人の顔は一気に曇る。


「・・・すみません小父様・・・アイツは取り逃がしてしまって・・」

「あのキメラを倒したときの気の緩みを突かれました・・・ごめんなさい・・・」

「・・・・・まぁ問題ない。結果としては上出来だ。お前ら三人で協力してアイツの本気とぶつかって堂々と勝利したんだ。試合には負けたかもしれねぇが、勝負には勝ったんだろ?ならそれでいい。誰も死なずに帰ってきたしな。てなわけでお前ら三人合格だ!」


 ダリフは笑顔でそう言うと、近くにいたアリヤとレリルドの頭を撫でた。

 その言葉を聞いたレリルドとアリヤは、ぽろぽろと涙を零した。幼い少年と、少女のように。

獣人殲滅戦線、これにて終了です!


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