#18 獣人殲滅戦線その十二
そこからは、なかなかにこちらが優勢となっていた。
「ふんッ!」
レリルドは俺の要望通りに同種合成獣の注意を引いてくれている。お気に入りなのであろうベレッタとやらをあらゆる方向から打ち続けている。たとえ魔法で生成したとしても玉切れはしっかりあるようで、レリルドは十五発撃つたびに一瞬ベレッタを消してもう一度生成という流れを繰り返している。『武器生成魔法』ならではのリロード方法といえよう。あの熱愛っぷりからしておそらく本人はあのリロードの動作も行いたいだろうが、まぁ戦闘中だし、効率重視なのだろう。
「やぁあああああっ!!」
アリヤは俺が(かなり無理して)奴の体に負わせたダメージが入っているであろう部分を炎を纏わせた剣で次々と斬撃を叩きこんでいく。思った通りその部分にはダメージが通るようで、先程までと比べて著しく再生が遅くなっている。着実に奴の命(死んでるけど。)を削っていることを実感できる。
「グ・・・」
「よし!このまま畳みかけるぞ!」
「うんっ!」
「さっさと決めちゃいましょう!」
そのように高い士気を保ったまま、獣人に攻撃を浴びせ続ける。
与えた打撃、斬撃、銃撃は数知れず、向こう側の再生速度が落ちてきているのか、連撃による傷が徐々に目立ち始めてきた。
「グ・・グオ・・・」
同種合成獣も俺が感覚器官を『神の第六感』に奪われている間になぜか満身創痍になっているようで、つい先ほどまでの威勢は消え去ってしまっていた。だが落ちたとしてもまだまだかなりの再生スピード。完全に倒すまでには至らない。
「ヒョ・・・ヒョホホホ・・・・・!」
「ん?どうした変態?」
すると突然先ほどまでおとなしかったカロナールが、冷や汗をだらだら流しながら吹っ切れたかのように笑い出した。
「ヒョホホホホホホホ!いやはや末恐ろしい子供ですねぇえぇええッ!どうやら我が芸術ではもはやあなた方には及ばないということでしょうか・・・・・否ァァァァッ!たとえ腐ったとしてもこれは私の最高傑作とも呼べる作品ッ!どれだけ攻撃しようとも!細胞がひとつ残らず消えるまで再生を繰り返すのですッ!さぁッ!タオセルモノナラバ!!!タオシテミルガヨイデスヨオォォオォォオオオッッッ!!!!!」
「なっ・・・・・」
俺は絶句した。実は天然なのかコイツ?絶望しすぎて開き直ったのか?と。
要はこのキメラの細胞一つ残さないレベルで消滅させればいいわけだ。できるかどうかはさておき、わざわざ攻略方法を教えてくれるとはこちらとしてはうれしいが、わざとではなさそうだが、敵に塩を送るのはいかがなものか。
「・・・レル!一旦ストップ!」
「分かった!でもどうしたの急に?何か考えでもあるの?」
「ちょっとな・・・アリヤ!一回俺が打ち込んでない部分に炎の剣で斬ってみてくれ!」
「了解っ!・・・今のところ私だけ良い所ないもの!奥の手出しちゃうんだから!」
「ん?なんだ奥の手って?」
「なんだろう?」
レリルドも知らない奥の手?一体どのようなものなのだろうか?
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・」
「な・・あの呼吸の仕方は・・・!?」
集中モードに入ったアリヤの呼吸の仕方、隙のない構え。どこか既視感を感じるその雰囲気は、先程のダリフの物と酷似していた。
集中力が高まっていくにつれ、アリヤに荒ぶる炎が纏わる。そしてその炎は彼女の剣に吸収されていき、すべての炎が剣に集まると、灼熱の刃は紅色の輝きを帯びており、尋常ではない程の熱を蓄えているのが伝わってくる。
「いくわよ・・・阿修羅『破道』一之型・改!『微笑み月の焔流星』!!!」
刹那、アリヤが放つのは神速の一閃。剣を振った瞬間に爆発したかのように刃を美しい炎が纏う。
刃は同種合成獣の右腕と肩を繋ぐ関節部分にぴったりと食らいつき、そのままキメラの片腕を斬り落とした。
「ふぅ・・ふぅ・・・やっぱり燃費悪いわね・・・威力も小父様と比べたら雲泥の差だし・・・」
「凄い・・・とうとう習得でしたんだね!アリヤ!」
「なーーーーーーーー」
「ヒョハァァァァアアアアアッ!!!?」
またしても開いた口が塞がらくなってしまった。リアクションがカロナールと同レベルというのが癪に障るが、それは置いておこう。
まさかアリヤもダリフと同じ技が使えるとは思いもしなかった。しかし・・・
「俺が攻撃していない部分でもその炎の剣で細胞ごと焼き斬れるのではないかと思ったんだが、これじゃあ上手くいったのかあの剣技が凄いのかが分からな・・・お?」
同種合成獣の断面をよく見てみると、まだ炎が消えずに残っているではないか。魔力のおかげで普通の炎とは違うのか、断面を継続的に焼くことで、再生に必要であろう細胞の活性化が行えていない。この時点で同種合成獣は炎に弱いということが確定したので、あとはこいつの再生が追い付かない程一瞬で全ての細胞を燃やし尽くす方法だが・・・・・
「アリヤ、大丈夫か?」
「はぁ・・ハァッ・・・全然問題ないわ・・!」
「よし。お前は今後はもう少し後先考えて大技を打ちなさい。」
まぁ無理もないだろう。むしろあれだけの大技を打っておいて何ともなさそうなダリフがおかしいのだ。あれだけ集中力が必要な剣技。相当な体力を消耗するだろう。
だがこれで相手の戦力を大幅に減らすことができた。後はこのまま削り切るのみだ。
「そういえば、レルって炎系の魔法は使えるのか?」
「いや、僕は武器生成だけだよ。魔法は一人一人それぞれに得意な属性や系統があるんだ。僕やタクは自然の力は使えないから、無属性ってことになるね。まぁタクは魔法自体が使えないそうだから、そういった分類には含まれないだろうけどね。」
「ほぅ。なるほどなぁ。」
つまり現在この中でアリヤだけが同種合成獣の要ということになるが、あの疲弊具合では少し厳しそうだ。なにか他に方法はないものか、そんなことを考えながら、俺はアリヤに質問を投げかける。
「アリヤー?アリヤの『火焔武装』ってその剣以外にどんなものに付与できるんだ?」
「ふぅ・・えぇっと・・・生物以外には何にでも付与できるけど・・・一体どうしたの?」
「ふむふむ・・・・・いいこと思いついた。」
レリルドとアリヤはタクの不敵な笑みを見て嫌な予感がしたが、そんなことをタクは知る由もなく続ける。
「レル、今お前が身につけているグローブを片方もらってもいいか?もちろん後でお礼もするし、代替品も用意するから!」
「え?いいけど・・・」
「ありがとう。それからアリヤ、なんか燃料になりそうなもの持ってないか?火力が上がるような・・・」
「うーん・・火薬ならあるけど・・・?」
「逆になんであるんだよ!!!」
アリヤ曰く、撒いて爆発させるだけで牽制にもなるようで、戦闘の幅が広がるため何かと重宝するそうな。
それを聞いた俺は右手に俺の手のサイズにもぴったり合うグローブを嵌め、譲ってもらった片手で持てるほどの火薬を握りしめた。そして攻撃の構えを取り、目の前でうろたえている様子の獣人を見据える。
「よし!アリヤ!俺のつけているグローブに『火焔武装』を施してくれ!!!」
「・・・・・はぁぁぁああ!?いや!?まさかとは思ったけど、正気なの!?腕が吹っ飛ぶわよ!?」
「炎と火薬、そして俺の『身体能力強化』!多分相当の威力が出せる!俺今結構ハイになってるっぽくてさ!痛みへの恐怖よりもワクワクが勝ってんだよ!よぉし!行くぞぉぉぉぉおお!!!!!」
俺は笑みを浮かべながらアリヤに向かって叫ぶ。勿論レリルドとアリヤは相当引いていた。
「タク・・・なんて男なんだ・・・」
「あぁもうっ!!どうなっても知らないんだから!信じるわよ!タク!!!『火焔武装』ッ!!!」
直後俺の手の甲に赤色の魔法陣が現れる。
「この一撃で最後だ!出し惜しみなんてしない!!!」
スキルに頼りすぎるのはよくないことはなんとなく分かっている。だが今はそうしないと戦えない。痛み。苦しみ。熱さ。この世界で唯一、魔法が一切使えない俺がそんなもの気にしていては、この先絶対に戦っていけない。常識なんて捨てろ。こんな体ぶっ壊してしまえ!!!
直後、握りしめた右拳を炎が纏う。
「はぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
「さっきまでと違う・・・凄まじい闘気!!」
試した事なんてない。こんな授業中にパッと思いついた技。だができるという確信があった。
「『身体能力強化』百パァァァァァセントォォォォオオオ!!!!!」
「百パー!?どれだけ無茶してるの!?」
俺は『身体能力強化』で右腕のみを強化した。そんなことできるのか試したことなんてなかった。だができない気がしなかった。
(・・・・・死体になってまで大暴れして・・・疲れたろう。後はゆっくり休め。)
「燃え尽きろ!!!!!『 穿焔』ァァァァアアアアア!!!!!!!」
俺は渾身の最後の一撃を、同種合成獣に向かって全力で放った。
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