#183 月光下の決戦その十七
「・・・落ち着いて・・イメージを形に変える・・・!」
今自分が行使しているのは魔法。それは常識が通用しない力。故に、それに囚われ始めたら終わりだ。レリルドはそう自分に言い聞かせ、使える魔力は片っ端から使って最善を尽くす。
「シャロロァァアア!!!」
「くっ・・・!」
とはいえ、いきなり戦力差がひっくり返るほど世の中は甘くない。
砂岩巨蛇の猛攻は今も留まるところを知らない。このまま長期戦に持ち込めば、不利となるのはレリルドの方であった。
「けど、思った通りだ・・・再生が遅い・・・!」
先ほどレリルドが奴に食らわせた戦斧による一撃。奴の側頭部に命中したその傷は、それから少し経った今でも完全には回復しきっていない。
先ほどまでであればすぐさま回復してしまっていたが、今回は少し違う。
「魔法だ・・・!魔法による大きな一撃は、こいつにも効き目がある・・・!」
魔力で形成された砂岩巨蛇の体は、魔力を介した攻撃でなければ通用しない。
この大蛇は、本来魔法を使えないタクには倒せないものなのだ。無論彼の攻撃はどれも強力ではあるが、それだけでは無理なことだってある。先の本来の姿形をした砂岩巨蛇を倒すことが出来たのは、単にタクの運がよかっただけなのである。
『闘気波動砲』とて魔法ではない。ただ闘気を固めて解き放っているだけに過ぎないのだ。物理的に消し飛ばすことが出来たからよかったものの、普通であれば砂の大蛇は何ともない顔をしてたちまち再生してしまうだろう。
対して、レリルドが『武器生成』によって生み出した武器は、しっかりと魔力によって生成されたものだ。その効力は間違いない。
「大砲用意・・・!」
レリルドは、大砲を十門一気に生成。横一列にずらりと並べ、それらを同時に発射する。
たちまち大きな爆発音が砂岩巨蛇の周りで響き渡る。そしてすかさずレリルド自身も前方へと走りだす。その光景はまるで、軍隊の突撃を連想させる。
だが、レリルドはただ一人。たった一人でそこまで凄んで見せた。それは確かに、英雄の雛の眷属の肩書に恥じることのない姿であった。
「せぁぁぁあああっ!!!」
今度は槍。大木に等しい大きさのそれが、砂岩巨蛇の腹を穿つ・・・と思いきや・・・・・
「チッ!躱された!」
砂岩巨蛇は咄嗟に身を翻しそれを間一髪で回避。何とかその命を繋いだ。先ほどまでとは全く違う人間の技に警戒しながらも、臆することなく大蛇は攻撃を続ける。
レリルドの方も、それらに『夜空之宝石』で対応。旅を始める前にレリルドが編み出したそれは、現在でも最強の防御力を誇っている。無論それは砂岩巨蛇に対しても同じであり、迫りくる攻撃の悉くを無効化することに何とか成功している。
「ぐうっ・・!?いつの間にっ・・!?」
だが、麻痺煙だけはどうにもならない。知らぬ間に足元に広がっていたそれに足がやられ、何度も地面に膝をつくことになっていた。
だが、レリルドも感じていた。少しずつ耐性ができていると。
しかしそれも、ほんの少しだけ。多少麻痺状態でもやられた箇所を動かせるようになっているというだけで、ポーションを飲まないと完全には動くことが出来ないのは変わらない。
「ゴクッ・・ゴクッ・・・動け動け動け・・・!!」
すぐさまポーションを飲み下し、レリルドは迫りくる大蛇の攻撃を間一髪で避ける。自分の腕が未熟なのか、それともこの強すぎる能力の制限なのか、『夜空之宝石』は二つ同時に生成することが出来ない。一度すでに作ってしまっており、それを消して再生成する時間がなかったために、レリルドは身の回避を選んだのだ。
「こっちに来るんじゃない・・・!」
そのまま走りながらベレッタを発砲。大蛇の目を狙うも流石に狙いが定まらず直撃することはなかった。
「ッ・・・やっぱり、こいつのペースに乗せられたら終わりだ・・・!」
獲物を仕留めるまで執拗に追いかけてその喉元に嚙みつかんとする。まさに蛇。
「『夜空之宝石』だけじゃ対応しきれなくなってきてる・・・だけどこれ以上の防御の方法なんて・・・・・防御・・・防御か・・・・・!」
そこで、レリルドに天啓が舞い降りる。最強の盾『夜空之宝石』。そして誰かが言った。「防御こそ最大の攻撃である。」と。
「・・・そうだ。僕が作れるのは、武器だけじゃない・・・!」
『夜空之宝石』がそうであるように、レリルドの物質生成魔法は武器を作るためだけのものではない。それが物質であるならば。そしてレリルド自身がその構造を理解しているのであれば、どのようなものでも作ることが可能・・・・・という、「可能性」を今は秘めているだけのものに過ぎないが、それでも彼の伸びしろはまだまだこの程度ではない。
「シュルロロロ!!!」
「ハアッ!」
次にレリルドが生成した者は、大盾。思えば、タクと初めて共闘したあの夜も、ダリフの攻撃の余波から身を守るために使用したもの。その時でさえかなり大きかったそれであるが、今回彼が生成した盾のサイズはその程度遥かに上回るほどの大きな物だった。その大きさ、おそらく十メートルほど。巨人の盾と呼ぶのが相応しいものだった。
大蛇の攻撃を受け止める最中、レリルドは片方の鼻の穴から血をたらりと流した。流石にこれほどまでの大きさの盾。作るのにはかなり無理をする必要があった。だが、それはしっかりと盾として機能し、生成した主であるレリルドを守る。
「性能に問題がないなら・・・それでいい・・・!」
盾の内側。砂岩巨蛇から見えない位置でレリルドは無数の石を生成。それらを足場とし、盾の天辺にまで駆け上がる。そしていとも簡単に十メートルの壁を越え、その先の大蛇にへとその身をダイブさせた。
「はああああああああ!!!『夜空之宝石』!!!!!」
レリルドはそこから『夜空之宝石』を生成。場所は砂岩巨蛇の脳天。ど真ん中だった。
(砂岩巨蛇・・・魔力によって体を形成しているそうだけど・・そうだとしても、どこかに必ず核が存在しているはず・・!そしておそらく・・それは脳にあたる部分・・・!)
思えばこの大蛇、あれだけ攻撃を受けているが、意図的なのか本能であるのか。脳に干渉する部分への攻撃を避けている様子だった。
先ほどの戦斧の攻撃も、ギリギリ脳へとは届いていなかった。
(この『夜空之宝石』は、今僕の扱える魔力を全て注ぎ込んだ、もう一段階上の強度を誇るもの・・・・・もう二度と再生できないように、固めてやる・・・!)
その『夜空之宝石』は、脳天を中心に半径五十メートルにも及んだ。そしてそれは、大蛇の身体を全て覆えるほどの大きさ。
いつの間にか先ほど生成した盾も消えており、レリルドの魔力全てがこの『夜空之宝石』にへと集約している。
「いいぃっっっけえぇぇぇぇぇ!!!!!」
それは、一気に地面にへと押し込まれる。それは次第に大蛇の身体すらも押しつぶし・・・地面には美しい夜空を反射させたかのような床が一時的に広がった。
成長性だけなら、タクよりも上かもしれない男。