#180 月光下の決戦その十四
あの、本っっっ当に申し訳ないのですが、四章の初期、英雄騎士団が英雄守護団となっていました。皆様にはそのまま英鎧騎士団として覚えていただくと共に、そのあたりの部分は全て修正しておきます。大変申し訳ございませんでした。
「・・・それで、これどうするんですか?隊長。」
「サリトスほんっと冷静だよねー・・・」
炎に包み込まれたこのような状況であっても自然な声色で隊長であり総指揮でもあるメルにへと尋ねる一人の騎士。黒の短髪に整えられた眉。見た目からしていかにも真面目そうな男であった。
「それが私の唯一の取柄ですから。」
「もう少し私的な感情を見せてもいいんじゃないかな?」
「竜巻はじわじわと大きくなっています。このままでは取り返しがつかないことになるかと。」
「分ぁかってるよ・・・」
紅蓮の竜巻にへとその姿を変えた『傀儡魂之捨駒兵』。そもそも実体と言えるそれがなかった奴らだったが、ついに生物と形容できる特徴すら失ってしまったそれらを見ながら、メルは「むむむ・・・」と唸りながら考える。
「サリトス君!何か考えはあるかね!?」
「こんな状況で呑気な事言わないでください。」
このような状況ですぐにいい案など思いつくはずもなく、焦りながらもメルはサリトスに遠回しに助言を求めた。が、帰ってきたのは冷静なツッコみ。
「・・・・・」
「なんですかその何か言いたげな顔は。」
この状況でそこまで落ち着いてられるのもどうかと思うけどなー、とでも言いたいような目でサリトスをジーっと見つめるメルであったが、サリトスが言っている事は何も間違ってはいない。兎にも角にも、今は落ち着いていられる場合でもないのだ。
すでに現状騎士団のほとんどはメルの命令によってある程度の落ち着きを取り戻せて入るが、未だ取り乱している者も決して少なくない。
「でもそうですね・・・とりあえず、あの炎の兵共のエネルギー源はシムビコートの魔力で間違いないでしょう。つまり簡単な話、シムビコートが死亡すればこれらは全て収まります。まぁ、いくらあの英雄の雛だろうと、後数分で奴を屠るのは中々厳しいと思います。」
「まぁ、そうだろうね・・団長の体も取り戻さないとだから・・・どちらにせよ、ボクたちで何とかするしかないわけだ。この国を守るボクたち英雄騎士団が、なにもかもあの子に頼るわけにもいかないしね。」
実力では及ばないかもしれないが、それでも大人として、今までセラムを守ってきた意地と誇りが彼女らにはある。国を担う役目を押し付けるわけにはいかないし、それを奪われたくもない。その考えだけは皆共通していた。
「えぇ。ですので効果的なのは、この炎の全ての魔力を奪う・・・これでしょう。先ほどは炎の兵自体が小さかったので消し飛ばすという手段が使えたので何とかなっていましたが、今は規模が規模です。その手はあまり有効的ではなくなりました。大量の水で一気に消化するというのもやめておいた方がいいでしょう。隊長も分かっていたでしょうが、シムビコートの怪しげな魔力の炎に魔法で生成した水などかけてしまったら、特殊な反応で水蒸気爆発を引き起こす可能性もあります。更に自然に発生した炎でないので、仮に鎮火できたとしても再び燃え上がる可能性も―――――」
「・・・っあああ!長い!命令だ!簡潔に纏めよ!」
「・・・・・・・」
サリトスの長ったらしい説明が億劫になってきたメルは、少し険しい顔をしながら隊長権限を存分に発揮する。
「・・・とどのつまり、これを消すには、シムビコートから供給されているであろう魔力の遮断。それから、遮断している間に今ある炎を消し飛ばし、そして魔法に使われた魔力を消滅させるか奪えば、この状況を突破できるはずです。」
このサリトスという男は常に冷静だった。だからこそこのような危機的状況であろうとも、常日頃と変わらない柔軟な思考で物事を考え、そしてそれを纏め上げ言語化して仲間に的確に伝えることが出来る。戦力としても中々のものだが、それ以上に知力に長けていた。
「なるほど、つまり・・・・・」
「えぇ、あなたの出番ですよ・・・・・ハーレンツ隊長。」
「全員聞いてくれ!これより一時的に、ハーレンツ隊長に変わってこのサリトス・クルルアが指揮を取らせてもらう!」
「うおっ・・!サリトスさんだ・・・!」
「こういう時のこの人ほど頼もしい人も中々いないぜ・・・!」
サリトス改め、英雄騎士団三番隊隊長補佐サリトス・クルルア。その冷静な判断力と戦術を練る力は騎士団内でも高く評価されており、突然の指揮官の交代であっても反対する者は誰一人としていなかった。
「おいワレット、お前の魔法で私の思考を騎士団全員にリンクさせろ。」
「っええ!?何人いると思ってるんすか!?」
「いいから早くしろ。このまま火で炙られたいのか?」
「こんっの鬼畜上司・・・!分かったっすよ・・・!!『思考共有』ッ・・アア!!」
サリトスから言い渡された非常な指示であったが、指名された騎士はその役割をしっかりと果たす。
彼の思考を脳内に直接送り込まれる騎士たちはその情報に全神経を委ねる。
「・・・よし、今お前たちが見ているイメージは、騎士団で極秘開発中だった大規模多人数構築式対決戦魔法専用技『滅魔之超台風』・・・その構築式と発動イメージだ。」
「相変わらず長ったらしいねー・・・ってサリトス!それほんとに超極秘だから!言っちゃダメな奴だから!!」
「こんな事態です、罰なら後でいくらでも受けますよ・・・ともかく、三分やる。全員、これを頭に叩き込め!!!その後発動準備に移る!!!!!」
「「「「「三分!!!?」」」」」
突然の情報開示、更にそれを三分で覚えろというあまりにも鬼畜なミッション。落ち着きを取り戻しつつあった全員に再び焦りの感情が芽生えた。
「団長がシムビコートからなされているであろう魔力の供給を食い止めているそのタイミングでこれを放つ・・・・・一応言っておくが、ミス即ち死だ。総員、命を賭けろ!!!!!ただし死ぬんじゃないぞ!!!!!」
「「「「「了解!!!!!」」」」」
サリトスの少し矛盾したような必死の訴え。言いたいことは各々色々あったが、それでもそれ以外の案が思いつかない以上、セラムを守る剣であり盾、誇り高き英鎧騎士団の一員である彼らは、一人の男を信じ今自分たちに出来ることを精いっぱいやるべく、まずは脳内に送られたイメージを覚えられるだけ頭に入れる。
「それではハーレンツ隊長・・・お願いします。この作戦は、あなたにかかってるんですから。」
「うん。必ずやり遂げるよ・・・!」
「・・・・・『離脱跳躍台風』。」
メルは一人、サリトスの魔法によって炎のステージから離脱する。騎士団の面々をそこに残して・・・そしてその面々を必ず救い、炎の竜巻を攻略するために。