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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#179 月光下の決戦その十三

 今のアリヤの全てを込めた一振りの剣はその身を真紅に燃やし、夜の砂漠を淡く照らしながらも全てを焼き尽くさんとしているようだった。


「シュロロロロロ・・・・・」


 アリヤと相対している砂岩巨蛇(サンドサーペント)は舌を出しながらも一瞬それを警戒する。先ほどまで何度も食らい、それでもなお余裕の表情をしていたこの大蛇が、だ。

 爬虫類らしい緑色の身体をうねらせ、尾を震わせるその姿は、まさしく蛇の威嚇行動。だがそんなもの腹を括った人間に効果があるはずもなく、万全な状態のアリヤと戦うことを余儀なくされていた。


(魔力だけじゃない・・・意識も剣に込める・・・!)


 アリヤが目指すイメージは、剣との完全な一体化。

 当たり前のことであるが、剣というのはどれ程の業物であろうとも、物ということに違いはない。だから思い通りに動かせていると思っていても、その意識と現実には絶対にほんの小さなずれが生じる。そして達人同士、そして格上相手ではそれが顕著に表れてしまう。

 それは彼女自身も嫌と言うほどに知っている。そう。あれは数年前、レリルドと共にダリフに剣術の手ほどきを受けていた時のこと―――――






「やぁぁああっ!!!」

「お、いいじゃねぇか!力はまだまだだが、勢いと気迫は悪くねぇ!!レルはまだスピードに頼りすぎてるな。お前の持続力はよく知ってるが、それじゃあ決め手となる一撃には届かねぇ。」

「・・・決め手となる一撃・・ですか・・・?」


 その日もダリフ唯一の弟子であるレリルドは散々しごかれており、アリヤもたまたま予定が合ったのでそれに参加していた。

 基礎トレーニング、剣術指南、そして実戦訓練。ダリフの特訓メニューの質はヴォルト城の近衛騎士団の訓練よりも遥かに高く、そしてその厳しさも段違いだった。

 基本を繰り返し、身体能力、体力、そして技を磨く。シンプルでありながらも、その効果は凄まじいもので、昔は小動物のようであったレリルドでさえめきめきと成長して言ったほどだ。

 そしてそんな訓練の内の一つである実戦訓練。ダリフ、そしてアリヤとレリルドの一対二での模擬戦での途中、師の言葉を聞いたレリルドは剣を振るうのをやめてダリフに聞いた。


「そうだな・・・お前ら、百パーセント剣の強さを引き出すためにはどうすりゃいいと思う?」


 二人はその問いに対し、少しの間考え込む。


「・・・・・更に自分を鍛える、ですか?」

「剣術・・・技を磨く・・とか・・・」

「二人とも違うな。もっと簡単なことだ・・ずばり・・・・・剣になることだ・・・!」

「「・・・・・?」」


 一体どこが簡単なのだろうか。二人の脳裏にそんなことがよぎったが、事実そう唱えている男はアリンテルド最強の人間。なので二人はその答えが正しいのだろうということはなんとなく分からざるを得ない気がしていた。


「小父様・・・一体どういうことですか・・・?」

「剣・・いや体は、自分の思考したとおりに動く。でもそれには若干のずれみたいなのがあるんだよ。戦いの最中、その一瞬の内の立った一瞬・・・そんなタイミングぴったりに叩き込まなきゃならない時・・・コンマ〇・一秒のずれも許されないそんな状況で、そのずれってやつは牙を剥くんだ。」

「ずれ・・ですか・・・・・」

「そうだ。それが自分の体でもない剣であるなら尚更、な。ならばどうするか・・・そう。自分が剣になりゃあいい・・・!」

((だからどういうことなんだろう・・・・・))

「お前ら・・・でもどういうことっつってもなぁ・・・」

「師匠、さりげなく心読むのやめません?というかなんで分かるんですか・・・」


 自分たちの内心をいとも簡単に読み取ってくるダリフ。本当に心が読めるのではないかとたまに二人は思ってしまうが、その点に関しては今はいい。


「ざっくり言えば、剣に意識を集中させるんじゃなくて、剣に意識を込めるイメージをするんだ。剣に魔力や思いを込めるようにな。始めの方はまず無理だろうが・・・強くなって、剣にのめり込んでいくと、いつか必ず分かる日が来る。あの剣と一体化するような感覚は、剣士にとってはどんな瞬間にも勝る高揚感だぜ―――――」






 ―――――アリヤは、あの時ダリフが言っていた言葉の意味が、今なら少しだけ分かる気がした。

 かつてないほどの剣に対する頼もしさ。いや、少し違うだろう。まるで剣と共に包まれる感覚。いつもであれば火傷しそうなほどの火力であるのに、それすらも心地良いようなこの感覚。湧き上がる高揚感は、目の前の敵に向かう背中を押してくれているかのようで・・・・・


 なんというか、とてつもなく気分が良かった。


「はああああああ!!!!!」


 加速と共に、まるでアリヤ自身が炎に包まれているかのような、周りから見れば大蛇に向かっていくその炎弾は、ためらうことなくその身体に高熱の刃を振り下ろした。


「シャロロロアアアアアア!!!!!」


 先ほどまでと違い、砂岩巨蛇(サンドサーペント)があたかも苦しんでいるかのように叫ぶ。

 実際、先ほどの斬撃と違い、効果があったのだ。大蛇の想像の範疇を大幅に超えた炎刃は、その身体を焼き、切り裂くには十分の火力だったのだ。

 斬られた砂岩巨蛇(サンドサーペント)の傷口からは、何やらきらきらと輝く粒子が確認できた。

 それは硝子(ガラス)。砂漠の中に含まれていた珪砂が魔力の炎によって溶かされ、そして細かい結晶となったのだ。


「通用してる・・・!でも・・まだ何か足りない・・・!」


 確かに攻撃は先ほどよりも格段に通りがよくなった。砂岩巨蛇(サンドサーペント)の方の再生も先ほどに比べて遥かに遅くなっているし、圧倒的不利な状況を打破できたのは間違いない。

 

(剣と一体にはなれた気がする・・・でも・・・決め手となる一撃にはまだ辿り着けてない・・・!)


 あとはここからどうやってそれに辿り着くかだ。

 いくら再生能力が落ちようと、再生能力自体が機能しなくなったわけではない。それが残っている限り、生半可な攻撃で削り続けても、その命脈を絶つには至らない。とどめを刺すに足りるような強力な一撃、それが今のアリヤに必要であり、彼女が今一番欲している物だった。

 火力、剣圧に自信はあるアリヤではあるが、それでもまだ目の前の大蛇を仕留めるためには更なる火力が欲しい。


「小父様・・・私、この戦いで今までの何倍も強くなれそうです・・・!」


 決め手となる一撃に辿り着かなければならないという焦り、そしてまだまだ強くなれる事への喜びをかみしめながらも、今この瞬間アリヤは苦悩していた。

ガラスを作るには珪砂の他にもソーダ灰とか石灰石がいるみたいですが・・・魔法パワー的表現ということで・・・・・

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