#178 月光下の決戦その十二
あの夜から三日。俺は奴を倒すことだけを考えてきた。
奴の強みは魔法、そしてあの回避能力。
魔法の方は、主に人の身体を乗っ取る、物を魔力に変え取り込む、そして手を叩いて相手の魂を奪う。この三つだ。
一つ目に関しては特に対策を考える必要はない。なんせ今奴は、この国でも最高クラスの身体・・・この国で最も強い男ゼローグ・スタードリアスの身体を手に入れているのだから。今更ほかの奴に乗り移ることはないだろう。
二つ目もあまり気にする必要はない。どうやら人は取り込めないみたいだし、警戒することもないだろう。
そしてそれに同等する人の魂を取り込む三つ目だが、俺の予想が正しければ・・・・・
さてそしてもう一方、シムビコートの回避能力だが、天壮月光の夜の時にあまり反撃をしてこなかったのを思うと、おそらく近接的な戦闘能力はそこまで高くないはずだ。そうと分かればやることは単純明快。
奴が避けれないほどのスピードで、奴が耐えきれないほどのパワーで押しきればいいのだ。
「ふぅぅぅぅ・・・・・」
俺はゆっくりと息を吸い込む。
今俺の目の前にいるシムビコートは、あのよく分からん薬物のおかげかスピードとパワーが異常に跳ね上がっている。俺の想定していた何倍も。
その分なんかカタコトになってるし、多少脳に影響でもあるのだろうか?だが今はそんなことどうでもいいか。
戦いの最中ではあるが、俺は目を瞑り、意識を極限にまで集中させる。体の中に存在している闘気を感じ取り、その感覚に一時的に身を委ね・・・・・一気に支配する。
「はぁぁぁぁぁぁ・・・・・!!!」
客観的に見た場合、俺は今まで戦っている時は基本的に闘気を体外へと放出していた。その行いは相手に見せるオーラ量は凄まじいが、その分のロスがあまりにも大きい。
出すのではない。巡らせるのだ。
闘気を体内で無駄なく循環させる。頭や体を働かせるために酸素を取り込むように、俺の中で戦うためのエネルギーである闘気を体全体で回し続けるのだ。
闘気を巡らせた俺の体からはうっすらと真っ青のオーラが見える。そしてそれを更に包むような金色のスパーク。今俺の中でどのような化学反応が起きているのかは分からないが、原理などどうでもいい。そう、ただ強ければ、奴を圧倒できるほどの力さえあればそれでいい。
「ソンナヨワイチカラデ・・・コノワタシニカテルトデモオモッテイルノカ・・・!」
「勝てるまでやってやるさ、死んでも勝・・・っつ!?」
クッソ・・!やっぱりクソ速ぇ・・・!
シムビコートが見せたのは先ほどと同じような斬撃。またもや俺は斬られながら背後を取られてしまったようだ・・・だが・・・・・
「・・・ナゼ・・オマエハマダタッテイル・・・!?」
「そろそろ痛覚無効的なスキルが欲しいけど・・・ない物ねだりしてもしょうがないか・・・」
確かに俺はまたばらばらに斬られた。だがそれでもこの体は原型を保っている。
これのタネは闘気にある。いつもとは違い体を巡る闘気は、ほぼ百パーセント俺の体内に留まっている。そして斬られて断たれた気の流れはすぐにその繋がりを取り戻し、何とか体の部位と部位を繋いでくれている。要は人体接着剤的な役割を果たしてくれているのだ。
「あと、一つ教えといてやるよ・・・俺の『ヴァリアブル』は・・・削れるたびに加速する・・・!」
「クッ・・・!?」
散々ダメージ食らったからな・・!俺のトップスピードは段階をどんどん上げている。
この『ヴァリアブル』は、攻撃を食らうほど、衝撃を受けるほどに体内で巡る闘気を増幅させ、己の力にへと変換させることが出来る。
あの屋根の上での三日間の間に奴への対抗策として思いつき、そして少し訓練したのだ。結果、訓練のし過ぎで普通に反動でその場から動けなくはなったが・・・・・
まぁ要するに・・・今の俺はダメージを受けるたびにどんどん強くなるということだ。そしてそのダメージで俺自身が死ぬことはない。つまり・・・・・
理論上、この状態の俺は永久的に強くなることが可能というわけだ・・・!!
「はぁぁあああっ!!!」
先ほどまででは出来なかったであろう超高速のステップ。それにより奴の気を逸らす。そして奴の目が俺を捉えるのに遅れ、一瞬視線から俺が消えた瞬間―――
「・・!?ドコヘイッタ!?」
「ここだよ・・・!」
奴の背後に一気に回り込み、一気に攻撃を・・・
「ダロウトオモッタ・・・!!」
すでにシムビコートの剣は背後の俺の方に向いていた。
思えば、先の戦いでも、俺は奴の背後に回り攻撃を試みた。いなくなれば背後にいるだろう。奴はそう思ったのだ・・・・・
「―――と、思っていたので・・・!」
「!?」
ここで『闘気之幻影』発動・・・!俺は奴の視界から一瞬消える。
「ッチ!!コッチカ!!!」
「遅ぇよ!!!」
「グォアァッ!?」
もう一度回り込んだ俺にシムビコートの反応は追いつかず、奴の振り向き様の顎に俺の拳がきれいに入る・・・!
「まだまだッ!!」
殴る、蹴るというそれらの行為は、ただ相手に痛みを与えていると考える者も少なからずいるが、それはちょっと違う。
壁や床を殴れば手が負けて痛みが走るように、それは相手が人であっても変わらない。
つまり、削れる度強くなる俺の『ヴァリアブル』は、相手を攻撃する度にも、攻撃を受けた時と比べると僅かなものだが、それでも闘気を増幅させる材料にはなるのだ。
「グッ・・・キサマァァァアアア!!!!!」
負けじとシムビコートも自身の動きを加速させる。流石Sランク冒険者の身体だけあって、シムビコートの馬鹿げたイメージに体が追い付いているようだ。人間の限界を超えたそのスピードは、ヴァリアブル状態の俺でもまだ足りない・・・!
「なら、もっと早くなればいいだけだよなぁ!?」
「キサマガドレダケハヤクナロウト・・・シヌマデコロシツヅケテヤル・・エイユウモドキノヒナノブンザイデ・・・アマリチョウシニノルナアアアアア!!!!!」
そう言うと、シムビコートのオーラの量が更に増幅される。これでまだ余力が残っているのだから、正真正銘の化け物・・・
「でも、ドーピングに頼るような奴に負けてたんじゃ、いつまで経っても弱いままだ!!!来いよシムビコート!英雄擬きの底力見せてやる!!!!!」
こっちはこれから神を相手に戦わなければならないのだ。こんな薬物中毒者野郎に負けてられるほど、時間は残されちゃいないんだよ!!!!!