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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第一章 異世界転移・獣人殲滅戦線
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#17 獣人殲滅戦線その十一

 カロナールの秘策により、同種合成獣(セーム・ド・キメラ)の一度死した魔力炉は暴走を始める。

 本来一度生命活動が停止すると、魔力炉もその役割を終え、二度と魔力を貯めることはなくなる。

 ただし、何事にも例外があるのだ。

 その例外の一つが不死(アンデット)系の魔物。不死感染者(ゾンビ)や骸骨の魔物が有名どころだろうか。

 奴らは、人間や動物が死んでいるが魂は残っている。または取り残されている状態で現世を彷徨う存在。再生不可能な攻撃を受けなければ永遠に生きられる体を手に入れた代償に生物としての思考回路を失ったまさに生きる屍。

 その中でも相当に上位の存在であれば魔法も行使できるし、極稀に思考回路が生きている存在がいるといった噂もある。しかし、やはり共存は不可能ということで、各国のギルドでは人型であろうとも、自我があろうとも討伐対象となっている。

 同種合成獣(セーム・ド・キメラ)は、分類としては(コープス)系といったところだろう。元々死んでいるうえに、魂も残っていない。カロナールの禁断の魔法と技術によって人工的な魔力炉のようなものを組み込まれ、あたかも生き返った()()()()()()怪物。

 細胞は不完全ながらも生きているので、生み出された犬獣人(ドッグマン)胡狼獣人(ジャッカルマン)狼獣人(ウルフマン)は死のオーラを少し発しながらも生きているのだ。魔法使用者の操り人形として・・・・・


「ヒョッホォオォオオオウッ!!!!さあっ!我が秘術『限界超越強化(オーバークロック)』の発動時間ワァズカ十秒!あなた達の余命はそれ未満ッ!だれにも止めることなどできないまさに処刑時間(タイム)!!!あの街もろとも消えるのですうぅうッ!!!・・・・・・なぁっ・・・」


 カロナールは絶句した。散々喚いた一秒後に。目の前の光景を見て。


「ゴオオオオオォォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!!」

「・・・・・・・・・・」


 確かに、間違いなく禁忌とされる魔法を付与した私の同種合成獣(セーム・ド・キメラ)()()()()()この広大な森やプストルムの街を含むここら一帯を更地に変えることも容易いほどの私の芸術的なまでの化け物の放つ乱打が、()()()()()()()()()()()()

 内容はともかくとして、魔法の達人とも呼べるカロナール本人にも見えない程のスピード。一秒間に五千発以上打っているであろう拳を、あの黒髪の男は無感情かのような面相で躱し、いなし、反撃さえ食らわせようとしている。ありえない。只の人間にできる芸当ではない。と。


「・・・・・おかしくなったのはあの時からだ・・・突撃を繰り返し・・何か吹っ切れたような態度をとったかと思えば、急に感情が消えたような顔になり・・・あ・・・あ・・・・・あああああああああぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!」


 カロナールは発狂した。無理もなかろう。絶対的な自信を持つ究極の奥の手をあっさり攻略されたのだから。目的のダリフ・ドマスレットでもない。たった一人の青年に。

 もう発動からすでに約七秒が経過している。それでも同種合成獣(セーム・ド・キメラ)の攻撃は一発も入らない。おそらくあと三秒間もこの光景が続くだろう。

 この時点で自らの作戦が完全に失敗したことを悟ったカロナールを襲ったのは尋常ではない程の焦り。と絶望。自尊心はズタズタ。築き上げてきた研究も、決して長くない年月をかけてよみがえらせた最恐最悪の魔法も意味をなさなかった。

 それと同時に、謎の尊敬の念が沸き起こった。自分の知恵で覆った境界の遥か外側を行く青年の強さに。


(・・・・・!・・・パンチの物量が急に上がった・・だが出力を上げれば問題はない・・・『身体能力強化』七十五%・・・)

「ギュギャアアアアアアアッ!!!!!!」


 タクは無意識下で思考し、無意識下で全ての途方もない連撃をかわし続ける。

 そしてあっけなく十秒が経過し、同種合成獣(セーム・ド・キメラ)の放つオーラが元に戻った。


「グルルルルル・・・・・」

 

 たとえ生きていなくとも、元は生物。更に特攻前提と言える強化魔法をかけられ、肉体が所々ボロボロになっている。


「ひゃぁっぁああああああっ・・・・・なんということでしょぉぉおおぉおう・・・!」


 にやけ顔が完全に消えたカロナールは、その場で膝をつき悲観していた。計画の思わぬ所に仕掛けられた落とし穴にまんまとかかったかような絶望感が彼を襲う。


「・・・・・っと・・・!あ!元に戻った!・・・・いっった!ヤバい体痛い!」

「・・・も、元に・・・・・?」

「もうわけわかんないわね・・・」


 感覚器官が元に戻ったのはいいが、無かった間に一体何があったのだろうか。

 ダメージがありそうな獣人、なぜか落胆しているカロナール、絶句しているレルとアリヤ、そしてこの体の先ほどよりも更に酷い激痛。意識のない間、おそらく眼前の同種合成獣(セーム・ド・キメラ)と戦っていたのだろうが、あいつにダメージを与えるほどの攻撃・・・一体無意識下で俺は何%出していたのだろうか・・・?


「それで・・・タク・・あと一分くらいあるけど・・どうする?」

「あと一分?・・・じゃあ『神の第六感』(あのスキル)は一分間限定か・・・?」


 今のところ自分からしてみれば、五感が奪われ、気が付けば敵がダメージを受けている状態になっているという感覚。だが他の者からすると、もしかしてとんでもないスキルなのだろうか。

 まだまだ分からないことが多いこのスキル。戦いが終わったら戦闘中どんな感じだったか二人に聞いてみよう。


「いや、もう十分だ。ありがとう。二人とも。」


 あと一分も最初はやるつもりだったが、やったところで最初の一分と大して変わらないだろうし。『神の第六感』がどんな感じなのか少しでも知れたので良しとしよう。


「そんで、分かったことだが・・・まずパワー。これはもちろんながら犬獣人(ドッグマン)なんかとは天と地ほどの差があった。食らうのは冗談抜きでなるべく避けた方がいい。あとやっぱり硬い。ほかの獣人をあっさり倒せるレベルの攻撃でも歯が通らないこともある。多分だけど、俺の『身体能力強化』五十%以上レベルの攻撃じゃないとダメージは入らない。でもちらほらボロボロしてる部分。あそこには多少威力が無くても入りそうだな。他には、攻撃以外の動きは遅い・・・くらいかな?うん。そんなところだ。」

「あ、あとさっきまでの数分の間だけかもしれないけど・・・アイツ一度も魔法を使っていないわね。もしかしたら使っていないだけかもしれないけれど。」

「そうだね。死体だけど、もしもカロナールが魔力炉をも復活させているのなら、油断はできないね。」


 二人もたった数分で、冷静に思考を巡らせていた。戦ってみないのにそんな風に考えられるとは、やはり踏んできた場数が段違いなのだろう。これから俺も二人を見習わないといけないな。


「よし!でっち上げで作戦を考えた!」

「でっち上げって・・・大丈夫なのそれ?」


 言い方が悪かったせいかアリヤに突っ込まれてしまったが、短時間なりに意外とちゃんと考えたのだ。


「レルは獣人から少し離れて奴の周囲を回るようにして銃で可能な限り撃ちまくってくれ。要は撹乱役だな。最悪俺に当たるのは・・・正直滅茶苦茶痛いだろうから極力やめてほしいけど・・・まあ大丈夫だ!でもアリヤにはどんなに状況が悪くて焦っていても絶対に当てるなよ!」

「分かった。もちろんアリヤにも、タクにだって絶対に当たったりなんかしない。これでも毎日練習しているんだからね!」

「オッケー。んで、俺は獣人がレルの攻撃に気を取られている間に攻撃を叩きこんであんな感じにボロボロになっている部分を増やす。アリヤはそこを集中的に攻撃していってくれ。頼めるか?」

「えぇ!任せて!この剣と一緒なら、私はなんだってやってみせる!」

「ありがとう・・・・・この作戦での最終決戦だ!奴を削り切って、カロナールをぶちのめせば俺たちの勝ちだ!・・・・・行くぞ!!!」


 作戦も佳境を迎え、俺たちはこの戦いに終止符を打つべく、本格的に同種合成獣(セーム・ド・キメラ)討伐に身を投じた。

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