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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#176 月光下の決戦その十

 この砂漠に突如として現れた炎の兵団『傀儡魂之(ソルジャーズ・)捨駒兵(マリオネット)』の数は、 この場に約二千人ほど存在している英鎧騎士団の約三倍ほど。先のサーヴァンツ・フィーラーの理不尽な個体数を経験しているタクたちからすればさほど多い数ではないが、それは彼らの感覚が麻痺しているだけで、実際一般的な人間からすれば自軍の三倍の兵というのは相当な差だと言えよう。


「こいつらの身体は炎、武器よりも攻撃系魔法で迎撃した方がいいよ!でも生半可な水属性魔法は逆効果だからね!それなら地属性とかの方が効果アリだからね!!!」


「「「「「了解!!!」」」」」


 体が高温の炎であり、この奇妙な色を放つ人型の何かがどんなものかはっきりと分からない以上、下手な水属性魔法では効果がない。更に、最悪の場合水蒸気爆発などを起こす恐れがあった。そう考えたメルは、周りの騎士たちに注意を飛ばす。

 その情報の波はメルを中心にどんどんと拡散されていき、瞬く間に騎士団全員に伝わった。


「さぁ、ボクも活躍しないとね!!」


 そう言うと、彼女は得物である短剣を構え、近くの炎兵にへと向かう。


「ボクも攻撃系の魔法が使えたらよかったんだけど・・・ねっ!!!」

 

 嘆きながらも、メルはポーチから魔石を取り出した。それは英鎧騎士団の主要施設に厳重に保管されている魔石。

 属性は地。少し濁った琥珀色で、セラムではあまりとれない貴重品でもある。

 空中に放ったそれを短剣で叩き割ると、少し短めの刀身を土色のオーラが纏う。炎や雷の魔石と比べると地味ではあるが、戦闘において大切なのは見栄えではなくその能力である。


「そいやぁっ!!」


 メルはそれを炎兵の胸部中心を狙い突いた。人型の炎の中では今地属性のエネルギーが一気に巡り、内側からそのあふれる炎を消されていく。

 突き刺している間に感じる激しい熱さ。焚火に手を触れている感覚は、反射的に短剣を握る手を放したくなってしまうものだった。だがメルの手は柄を離れることはなく、更には更に握る強さを高め、奥にへと突きさす。そしてそれを一気に捻り挙げた。


「人ならとっくに死んでるよ・・・さぁ、まず一体撃破・・・」


 先ほどまでの人型の影は一つもなく、何の痕跡も残さぬままその兵はメルの右手に火傷を残して消滅した。


「ぐうぅぅっ・・・!たった一体倒しただけでこれかぁ・・・ボクもまだまだだね・・・!」

「隊長ッ!?大丈夫ですか・・・!?」

「ボクは平気だよ。それに、戦いはまだ始まったばかりだよ。ほらキミたちも!ぼうっとしてないでやるよ!タク君たちに任せっきりじゃ、英鎧騎士団の名折れだからね・・・!」


 そんな三番隊隊長、現総指揮を務める騎士の声をしっかりと胸に刻んだほかの騎士団員は、敵への雄叫びで彼女に応える。


 そこから始まる騎士団の魔法と敵の炎のぶつかり合い。

 騎士団が鍛えているのは、なにも肉体や武具の扱いだけではない。当然この世界。魔法が使えねば戦場では圧倒的に不利だ。そのため、日々魔法の修練も欠かすことはない。

 炎にそれ以上の火力で対抗しようとする者、雨を降らせ火を弱める者、雷を用いて炎の体を吹き飛ばす者などもいた。


「ってうわあああ!?」

「馬鹿野郎!炎に特大の風魔法なんて当てんじゃねぇ!!」

「いや・・火おこしの時風で火種が消えることあるじゃん?」

「火()だろうが!!!・・・・・ってあれ?火力が強すぎて敵の炎野郎共が一掃されてる!?」

「・・・ほ、ほぉら予定通りィ!」

「「「どこがだよ!!!!!」」」


 ところどころ予想外の事象も起こってはいるが、メルによって士気が上がった騎士たちは、様々な工夫を凝らしてどんどん敵の個体数を減らしていく。


「うん、このペースならもうすぐ片付きそうだね!」

「はい!隊長の鼓舞のおかげです!」

「このまま団長も取り返しましょう!!」


 そう少しの喜びを感じていたのも束の間だった。


 ゴッゴゴ・・ゴゴゴゴゴゴ・・ボコゴゴ・・・!!


「ってちょお・・・!?」

「また地震・・!?」

「この感じさっきと一緒・・・まさか・・!!」


 再び辺りを揺らす地震。そして再び現れる顔無しの人型炎。燃えるピクトグラムの人間のような姿の『傀儡魂之(ソルジャーズ・)捨駒兵(マリオネット)』は、再び騎士団たちの前に姿を現したのだ。


「でも・・あれ?止まってる・・・ね?」


 這い出て来てまた考えなしにこちらに向かってくるものだと思っていたのだが、炎兵はメルやほかの団員の想像とは全く違う行動を取る・・・いや、行動は取っていない。動いていないのだから。


「隊長・・・これは・・いかがいたしましょうか・・・」

「なぁんか気味が悪いけど・・・これで終わるはずなんてないだろうからね。動いていなくても変わらないよ!みんな!全力でやっちゃって!!」


 メルの指示に、団員たちは武器を構え、詠唱を始める。動いていないのなら、こちらとしては絶好の的。一気に殲滅できるチャンスだ。逃さない手はないだろう。


「しっかしなんだこいつら?急に直立のまま固まりやがって・・・」

「もしかすれば、こいつらを生み出した奴・・・おそらくはシムビコートだろうが、この炎の兵共を操るための魔力が底を尽きたのかもしれないな。」

「でもそれなら、なんでこの炎兵共も消えないんだよ。これもシムビコートが魔法で作ってんなら、操る以前にこれらが消えた方が自然だろ?」

「確かに・・・・・」


 団員たちは目の前の現状に疑問を浮かべ、それを共有し合う。あまりにも不自然で不気味な大量の硬直した人型の炎。

 それはただ止まり、刹那―――――






 なんの予兆もなく急に超回転を始める。


「はああ!?なんだよ急に!?」

「み、みんな落ち着いて・・!一体何が・・・?」


 メルは急いで自分の頭を回す。だが事態が事態だ。辺りは一瞬で混乱状態に陥り、考え上手く纏まらない。

 六千近い『傀儡魂之(ソルジャーズ・)捨駒兵(マリオネット)』はその全てが突如として横方向に急回転。人はやがて竜巻にへとその姿を変貌させ、砂漠はこの瞬間更に真っ赤に染まる。


「どんどん回転が強くなっていってる・・!さっきの人型は前座ってことか・・・!」

「このままじゃ竜巻は大きくなっていく一方だ・・・!やがてここら一帯が火の海だ・・・直近の街からもかなり離れているとはいえ、このままでは・・・!」

「しまった・・!全方位を隙間なく囲まれてる・・!逃げ場はどこにもない・・・!隊長!!!」

「・・・・・みんな、ここからの命令はたった一つ・・・腹を括るよ!あと絶対に死なないように!!!」

「ってそれ二つじゃないですか!?・・・でも―――」


「「「「「了解!!!!!」」」」」


 肌寒い夜の砂漠から一変。シムビコートによって作り上げられた炎のステージで、彼女らは奴の思い通りに踊るのか、それとも―――――

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