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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#174  月光下の決戦その八

 結論から言えば、レリルドの予想は外れていた。


 レリルドが現在戦っている砂岩巨蛇(サンドサーペント)は、その体のどこからでも放つ事のできる麻痺煙という本来備わっていない特殊な能力を有していた。その能力は砂漠の大蛇を彼らよりも見て来ているセラムの騎士団でさえ知らないものであり、戦っている様子を見ているその彼らも、どう対処すればいいのかが分からずにいた。


 そもそも、騎士団、もといセラムで日々戦っている者たちの想像する砂岩巨蛇(サンドサーペント)という存在は、つい先ほどタクが消し飛ばした個体そのものである。

 一瞬で退場してしまったためにレリルドとアリヤはあの小さい個体はそこまでの強さではなかったと思っているが、騎士団の面々から見ればそれはありえない光景であったのだ。


 砂岩巨蛇(サンドサーペント)は砂色の大蛇、体長はおよそ十五メートル。砂漠の砂に魔力、そしてこの砂漠で生き絶えた生物の魂の欠片が集まってその体を構築している。どれだけその体に武具で傷をつけようと、それはただ砂を殴るだけの行為に等しい。そう。そもそも奴の体に武器の類は通用しない時点で対抗法は限られてくるのだ。


 であらば、魔法職ならなんの問題もないと思われるかもしれないが、実際はそんなこともない。生半可な魔法では武具同様地面の砂を用いて再生されるのは必至。


 ()()()砂岩巨蛇(サンドサーペント)の攻略法は、砂岩巨蛇(サンドサーペント)の体を地面の砂と切り離した状態で空中にて蛇の体を魔法によって完全に消しとばすこと。無論タクはそんなことは知らなかったが、『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』が地面の砂ごと蛇の体を吹き飛ばしたおかげで砂岩巨蛇(サンドサーペント)は地震の体を再生することができないまま消滅させることができたのだ。


 さて、そろそろ話を戻そう。レリルドが外した予想というのは、アリヤが戦っている緑色の砂岩巨蛇(サンドサーペント)も、何かしらの特殊な能力を有している、ということだ。

 だが、実際は違った。アリヤが戦闘を始めてからというものの、レリルドと戦っている個体のように、なんらかの異能を発動する気配がない。

 それもそのはず、この緑の個体は、そういう類の力を何一つ有していないのだから。

 

「・・ッ!!くっ・・・!!!」


 それでも、アリヤがこの蛇相手に苦戦を強いられている。

 たとえ剣が効かなくとも、アリヤのそれは、片や魔力の炎を纏っており、もう片方はそもそも剣自体が魔法によって生み出された代物。再生されることに目を瞑れば、斬撃によるダメージというものは確かにあるのだ。がしかし・・・・・


「かっっったいわね!!!鋼鉄でも斬ろうとしてるみたい・・・!」


 その圧倒的な強度、パワー、そしてスピード。この砂岩巨蛇(サンドサーペント)は、特殊な力を持たない代わりに、蛇本来に備わっている身体の性能、潜在能力、パワーや頑強さなどをシムビコートによって底上げされている。


 アリヤは、どちらかといえば魔法士相手よりも近接武器で戦う剣士などを相手取る方が得意だ。武器()()を使う者はこの世界にはいないが、得物を扱う分魔法攻撃や魔法による妨害などはおろそかになる傾向がある。剣魔一体とも呼べるアリヤの剣は、そういった相手を自力で圧倒し、そのまま押し切る戦法をよく使う。


 だがそれでも、目の前にいるのは、魔法士でも剣士でもない。そもそも人ですらない。

 力勝負では体長五十メートルの大蛇に歯が立つはずもなく、渾身の剣撃でさえ体にほんの少しの傷をつける程度のことしかできていなかった。


「シュロァァァ・・・・・!」

「想像よりも骨があるわね・・・!面白いじゃない!!」

 

 レリルドと比べて、アリヤは好戦的だった。圧倒的不利なこの状況下でも、その口角は上に上がっていた。だが、どれほどの心構えだろうが、危機的な場面であることに変わりはない。


「私はまだまだこんなもんじゃないわよ!!」

 

 そこから、アリヤがスタートを切る。

 蛇の顔面にめがけ、炎を纏わせた愛剣であるマリアを振り下ろす。


 ガギィィィィン!!!!!


「ッ・・!」


 恐ろしく硬い皮膚、そして筋肉。砂岩巨蛇(サンドサーペント)はまさに肉の鎧を纏っているといってもいい。そんな蛇の体に弾かれるも、それで止まるほど、アリヤ・ノバルファーマの剣は柔ではない。


「ハァァァアアアア!!!」


 そこから左の炎剣で横薙ぎ、その勢いを利用して右回転、そのまま両方の剣で同時に蛇の鼻先を叩く。金属製の南瓜(かぼちゃ)でも切っているかのような感覚だが、手は緩めない。絶え間なく剣を振り続ける。

 刺突はしない。下手をすれば剣が折れる可能性があるからだ。


「ッ・・あああああああ!!!!!」


 集中力、そして連撃の速度を引き上げる。手だけではない。足を動かし、脳をフル回転させる。出せるものを出せるだけでは、目の前の存在には勝てない。


(・・・こいつを倒すためには・・今の私じゃ足りない・・・)


 繰り出し生み出した傷はみるみる砂で埋められ、顔だけでなく体の先今でも広げていたそれは、努力も虚しく消えてしまう。それは並大抵の人間のメンタルを砕く程度容易なことであった。


(・・・・・今の私にない剣圧・・そして火力が必要・・欲しい・・・!!)


 そう。並大抵の人間であるならば。

 アリヤ・ノバルファーマという人間は知っていた。限界を超えて強くなるキーとなるそれは、極限の中にしか存在しないということを。


 それは戦いの中、己の中の心境の変化、葛藤、他にも様々。そしてそれらを乗り越えた時、人間は百五十パーセントを普段の百パーセントにへと置換することができる。窮地を命を賭け突破することで、人はどこまでも強くなれるのだ。


 アリヤは二振りの剣を構え直す。


「何も強くなったのは・・・タクだけじゃない!!!!!」


 まだまだ潜った死線の数は少ない。年齢的にも人生経験があるわけでもない。強くなったとはいえ、目の前の大蛇に届くほどでは決してない。


 だがそれでも、生半可な経験程度では、この先はおろか、ここから進むことすらできずに終わってしまう。そんな結末を、果たして彼女は受け入れるだろうか?答えは聞くまでもないだろう。


「二人に負けてられないもの・・・これくらい一人で乗り越えなくちゃ、私はこの先も自分を変えられない・・・!」


 抗うのだ。目の前の理不尽な強さに。

 競い、そして勝つのだ。共に旅する仲間に負けたくないのは、三人とも同じだ。

 戦うのだ。その先にアリヤの望む全てはきっとあるから。


「あああぁぁぁぁぁ!!!!!」


 強くなるのだ。負けないために、足を引っ張らないために、そして、世界を救えるほどの魔剣士になるために。

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