#173 月光下の決戦その七
「っていうか、お前剣も使えるんだな・・・!」
「ハッ!この私にかかればどのような武器も扱うのは容易い・・!」
「そんなお前に良い武器を教えてやるよ、拳っていうんだがな?」
「そんなものお前以外使わないだろう・・!」
でしょうね!!
軽口を叩くついでにシムビコートの戦力ダウンを軽い気持ちで狙ってみたのだが、流石に無理だった。まぁ端から期待していないが。
にしても、ゼローグほどでは決してないが、それでもゼローグの身体を操っているシムビコートの剣術も中々の物であり、防戦一方となってしまっているのが現実だ。かと言って、下手に動けば腕を斬り落とされかねない。
(多少のダメージは覚悟するしかないか・・?奥の手その二はまだ使うべきタイミングじゃないし・・・)
俺の言っている奥の手その二。今使ってしまっても構わないのだが、使用後の反動がどうもできない。
『無限スタミナ』を持っている俺の身体をもってしても、体への負荷があまりにも大きすぎるのか発動後しばらくは筋肉が硬直して体の自由が利かなくなってしまうのだ。
それに、エンゲージフィールドの地下洞窟で思いついて少々練習したのが最後の発動だ。この実戦でいきなり使うのはかなりリスキーだ。
「さ、こっからどうすっかな・・・!」
「戦いながら作戦を考えるとは・・・何も考えず突っ込んでくるあたり、君は脳が筋肉で出来ているのかい?」
「誰が脳筋だ。いや割とその通りだけど・・・・・」
シムビコートのその言葉に何も返せないのが少し悔しい・・・・・
―――――一方その頃、タクの少し後方にて、
「ッ・・!『夜空之宝石』!!」
レリルドが戦っている相手は、二体の砂岩巨蛇、その内の一体。紫色の個体だった。体格差がありすぎるというシチュエーション自体は先のエンゲージフィールドでも経験していたものの、それでもレリルドは不利な状況に立たされていた。
しかし、それはそれで仕方のないことなのかもしれない。身長百七十手前のレリルドと、体長五十を超える巨大な蛇の怪物。普通に考えれば、単純な力比べでは話にならない。
「チイッ・・!足がっ・・!?」
更に彼を苦しめているのは、この紫の砂岩巨蛇の放つほんのりと黄色い煙。
それを吸引、またはそれに触れてしまった場合人の体に煙の成分が作用し、一時的に体を硬直させてしまう麻痺効果がある。それによって右足が思うように動かなくなってしまったレリルド、だがそれでも砂岩巨蛇は問答無用で彼の命脈を絶たんとその身を勢いよく前にへと進める。
(・・今はなんとか『夜空之宝石』で凌げているけど・・いつまでもつか・・・!)
蛇の突進を『夜空之宝石』によって防御、その間にタクから受け取っていたポーションを飲んで体の痺れを解く。これを少し前から延々とそれを繰り返しているレリルドは、必死にこの状況を打破できる突破口を探っていた。
「考えろ・・!僕は・・・ずっとあの二人に頼っているわけにはいかないんだ・・・!」
自分一人であろうと、目の前の蛇程度倒せなければ、今後の旅についていくことすらできなくなるかもしれない。
レリルドはこの時、エンゲージフィールド地下洞窟でのアリヤとの会話が脳裏によぎっていた。
いざという場面で何もできなかったと言うアリヤの言葉、これから先お荷物になってしまうのではないかというアリヤの不安。そしてそれは、レリルド自身にも当てはまるものであったのだ。
圧倒的存在の英雄の雛と自分の差を思い知り、己の非力さを嫌というほどに自覚した。どんどん強くなっていく敵。教えを破り、もしかすれば今後世界中を敵に回してしまうかもしれないというどこからか湧いてくる怯え。そして今後旅を進めていく中で、遅かれ早かれ訪れる神との戦い、そしてそれよりも早く、そして何度も、今も襲ってきている自分の生命の危機的状況。
「打破しないと・・乗り越えないと・・・!アリヤだって、今僕と同じ状況で戦ってるんだ・・・!!」
共に英雄の雛と旅をする幼馴染も、もう一体の砂岩巨蛇を相手に戦っているのだ。そしてそれは、おそらく今レリルドの目の前にいる個体とは別の能力を持っている可能性がある。
もし仮に、この二体の砂岩巨蛇が自然界でここまでの強さになったのではなく、シムビコートによって、人為的に強化させられたのだとすれば・・・・・
「まだ、何かあるかもしれない・・・!」
だが、このまま防戦一方では埒が開かないのは間違いない。レリルドは意識を集中させ、武器の生成に突入する。
「ハンドガンは論外・・スナイパーライフルは隙が大きいか・・・」
そうして生み出したのは、グラーケン戦でも使用したアサルトライフルのベレッタ ARX160。その銃身も、機構も、そして弾丸すらも魔力で作り出すそれは、ノンストップかつリロードの必要もない。一分間に七百発放てるそれを構えながら、レリルドは自分を守る『夜空之宝石』の防壁に蛇が激突した瞬間飛び出した。
「ふぅっ・・・!」
次の刹那鳴り響く銃声。聞きなれない者たちからすればあまりにも理解が追いつかず、聞き慣れていたとしても敵であれば恐怖の対象となるそれは蛇の体に直撃する。
銃弾は体を捉え、横一列に放たれるそれは、砂岩巨蛇の体をどんどん穴だらけにしていく。がしかし・・・・・
「・・・そう思い通りには行かないか・・・・・」
「シュルルルロロロ・・・!!」
あくまでも砂で構成された体は、撃たれた直後すでに再生を始めており、何百、何千と付けられた銃痕も、瞬く間にその全てが消えてしまった。
レリルドの唯一無二の武器。銃による攻撃が、あろうことか通用しないのだ。砂の肉体。それはレリルドとは明らかに相性が悪かったのだ。
「でも・・・この戦い・・お前を倒せたのなら・・僕はもっと成長できる・・!二人には、負けてられないんだ・・・!!」
まずは少しでも近くで敵の情報を探る。片手剣を手慣れた様子で生成したレリルドは、眼前の砂蛇をしっかりと見据える。
「人為的な強化個体なのだとすれば、グラーケンのように魔法を使ってくるかもしれないな・・・やってやる・・!たとえ一人でも・・・僕は戦える!!!!!」
たとえ選ばれた人間だろうが、同い年の男には負けたくない。
たとえ圧倒的な才を持っていようが、年下の女の子には負けたくない。
ないものはない。今ある自分の武器だけで、この場面を乗り越えて見せるのだ。