#172 月光下の決戦その六
そろそろ章末あたりに、軽いキャラ紹介とか置いた方がいい気がしてきました・・・
もし投稿した時はまたその時の最新話の前書き辺りでお伝えいたしますので、その時はよろしくお願いします。
俺が結構破壊してしまった月儀の遺跡から少し出た場所、そこにシムビコートは立っていた。さながら、砂漠の要塞の守護者かのように。
「三日ぶりだな・・!会いたかったぜ・・・!」
「そうかい?正直、僕はもう君には会いたくなかったのだがな。」
怒りを隠すことのない俺に対し、飄々とした態度でシムビコートはそう返す。まぁ俺の目に映っているのは、俺を嘲笑っているような表情のゼローグといった感じなのだが・・・
「よし。結局ムカつくからとりあえずぶん殴る。」
「ふふ・・・英雄の雛殿は随分と短気なようだ。」
『身体強化』六十パーセント。常人なら絶対に対抗できないであろうそれで俺はシムビコートに突撃する。右のストレート・・・と見せかけて右足を振り上げ攻撃するも、初撃は見事に躱された。
「その程度・・フェイントにもなっていないよ・・・がら空きだ。」
「クッソ・・!?」
直後、シムビコートは左手で俺の右足を掴み、そのまま奴から見て左にへと投げ飛ばした。受け身を取り損ねたが、地面が砂なので硬い石よりかはダメージは少ない。
だが、それ以上にこの地面はキツい・・・!思う存分暴れられるのは良いとしても、走りづらいわ靴の中に砂は入るわで思ったよりイライラする・・・!挙句の果てに今俺が履いているのがブーツだから余計に中の砂抜きづらいし!
だがまぁ、そんなことは置いといて・・・
「せっかくあるんだ・・利用もしないと・・・なっ!!」
俺は地面を思いっきり殴る。同時に砂漠の砂がこれでもかというほどに舞い上がり、シムビコートの視界から俺を完全に消す。
更に『闘気之幻影』を発動。これで奴は俺を完全に見失ったはずだ。
「視界を封じたか・・!だが甘い・・!姿は消せても、魔力炉の中に貯めているそれのオーラは消すことなどできない・・・何ッ!?グオォッ・・・!」
「・・・っっっらあああ!!!!!」
側方に回り込みそこから最短距離でシムビコートのわき腹に俺の拳がめり込む。甘いのはどっちだって話だ・・・!
「悪いな。俺、魔力炉持ってないんだよ・・・!」
「ゴフッ・・・なるほど、それは流石に想定外だった。」
「俺も魔法使いてぇよチキショウが!!!」
もはやほぼ八つ当たりの勢いで追撃にへと移行する。だがしかし、これがどうも当たらない。相変わらずの回避能力だ。
「蹴り、突き、膝蹴りから裏拳・・・全て見える。人間とは、体の出来が違うのだよ。」
「・・・ッ!やっぱりそうか・・・!!」
今のシムビコートの発言で確定した。こいつは見てくれとは違い人ではない。ということは、やっぱりカロナールも人ではなかったのだろうか?いやあっちはなんとなく見てくれでそう思うが・・・
とはいっても、攻撃というものは当たらなければ意味がない。このままでは捕まえるどころか奴を弱らせること自体が困難だ。
「でも、お前も避けてるだけじゃ俺は倒せないぞ・・!どうせ何やっても倒せんだろうがなぁ!」
「煽りか?だがそれもそうだな・・・!」
煽ったつもりは・・・まぁほんの少しはあるが・・・だがしかしそれは事実だ。スキルのおかげでどれだけ潰れようが斬られようが再生してしまう俺の肉体は俺自身でも死ぬことを許されていない。今思えばほぼ呪いのような力だが、それに何度も救われているのも事実。今更とやかくは言うまい。
それはそうと、俺のその言葉をシムビコートは肯定した。ということはつまり・・・
(・・・来るか・・!)
「はあっ!!!」
直後、ゼローグの身体、そして剣での連撃が俺を襲う。
「素手で剣は防げるのかい!?」
「ああもちろんともォォォ!!!」
「冗談は死んでから言えばどうだい・・・!!」
生憎冗談じゃないんだなこれが。
流石に真正面から対抗するのは無理だが、腹の部分を弾けば直撃は避けられる。そしてたとえ刃にあたったとしても、俺にはこれがある・・・!
「マジでガスターさんには感謝しねぇとなぁ!」
ライルブームで鍛冶職人のガスターから選別として貰い、今日のここまで愛用しているレザーグローブ。防刃性に優れたこれであれば、剣相手でもなんとか耐えられる。
とはいっても、今奴が握っているそれは、ゼローグの愛剣。黒鋼の骸骨騎士が身に着けている『ヴァルカヌスの剣』、そのレプリカ。
模造品ながらもこの国でもトップレベルの性能を持つその剣。流石に何度もそれから放たれる斬撃を受けては、このグローブでもただでは済まない。被弾覚悟で攻撃を打ち込むという作戦もあるが、それは最終手段だ。あの斬られた時の激痛は、何物にも代えがたいものなのだ。
考えても見てほしい。普段の日常生活の中でも、分厚い図鑑の堅い紙とか、あとはカッターなんか。ああいうので指を切ってしまったとき、たったそれだけでもズキズキと痛むし、ある程度治るまではそれが続くだろう。
剣で斬られた時、その痛みはそんなものの比ではない。あんなもの何度も食らっていては、まず俺の精神がどうにかなってしまいそうだ。
(というかあの剣・・『身体強化』で強度が上がっている体をいともたやすく斬りやがる・・・この国最強の男が使ってるだけあって、やっぱ切れ味は相当だな。)
『身体強化』は『身体能力強化』とは違い、発動者の肉体もスキルの出力に比例して増していく。つまり、本来生半可な武器では俺に傷一つ付けることはできないということだ。
まぁつまり何が言いたいかと言えば・・・・・
「これはちょっとやべぇな・・・!」
「おっと、笑うほどの余裕はあるようだね・・・!」
「ねーよ馬鹿が!!!」
やられっぱなしも癪だ!俺は斬撃の嵐の中を掻い潜り、シムビコートに再び拳を叩きこもうと試みる。真正面に落ちてきた剣。俺はその腹を右手の裏拳で右側に弾き、すぐさま左で掌底を打ち込んだ。
だが浅い・・!更には奴の左手がそれを体と俺の手の間に滑り込ませていた。
「ハハハ!甘い甘い!!」
「うるせぇ!!あとそこは「ファー!」だろうがあああ!!!」
「は・・?何を言ってるんだ・・・?」
あぁこんな真剣な時に何言ってるんだろうな俺は!?
まぁどうでもいい・・・!集中力は切れていない。このまま平常心を保ちながら少しずつ確実に削っていく・・・!
「一気にガーンッってお前のヒットポイント削れればいいんだけどな・・・ッ!!」
「さっきから言ってる意味が分からないなぁ!さぁ、この剣相手にいつまで持つかな!!」
「意味分かんなくて結構・・・!!」
どうせ説明しても分かんないだろうからな!!
#156と#171で少し疑問を持った方もいるかもしれないので、というか読み直した作者が気になってしまったので説明を。
シムビコートはエーベルスからアリンテルドでのカロナールの件を聞いてはいたが、追い詰めたイレギュラーが英雄の雛であるということは知らなかった。というか、そもそもウルティブロ君あんな性格なので真面目に話なんて聞いてるわけないです。はい。そんな感じです。