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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#171 月光下の決戦その五

「っっらぁあっ!!!」


 頭、体の真ん中辺り・・そして尻尾。あらゆる部位にかなりの攻撃を打ち込んだのだが、それでもこの蛇共は表情一つ変えることがない・・・!


「クッソ・・!『地底之大王烏賊(インバーテ・ブレイト)』初お披露目だってのに・・!中々上手くいかねぇもんだな・・・!!」


 まぁ、実際しょうがない部分もある。なんせ、この『地底之大王烏賊(インバーテ・ブレイト)』を発動させたのは、なんと今が初めてだからな!!

 まったくなんでそれでうまくいくと思ったんだ少し前の俺よ。と言いたいのは山々だが、ここはグッと堪えよう。

 もちろん、今まで使わなかったのにも理由がある。

 その理由の大きな物の中にあるのは、もちろん街中でこんな触手出したら一瞬で辺り一帯崩壊しかねないからだ。

 スキルの詳細は『進化之石板(アドバン・スレート)』で確認していたため、その力がいかなるものかすぐに確かめたかったが、どうも機会に恵まれなかった。エンゲージフィールドを抜けるまでの魔物程度に使うのもどうかと思ったし、更にセラムに入ればすぐに人と建物のオンパレード。うん。使えるはずないわな。


「鞭とか上手い奴とかなら使いこなせるんだろうけどな・・・駄目だ、そんな奴思い浮かばない・・・」


 いたとしても他人か、そこらのそういった趣味をお持ちの方だろう・・・いや割とマジで今そんなこと考えている場合じゃない。

 結果がどうであれ、攻撃が当たっているのは確かだ。しかもその一発一発は自分で言うのもあれだが相当な威力。流石にダメージゼロというのは無いと思いたいが・・・この蛇共の余裕そうな様子を見れば、そんな気もしてくる。

 打撃系は駄目なのだろうか?そもそも物理系が効かないタイプかもしれないが・・・・・


「タク!」

「・・!レル、それにアリヤも・・・!」

「これまた厄介そうなのが出てきたじゃない・・・!」


 呼ばれた方に振り返れば、そこには一足先に俺に追いついてきたレルとアリヤだった。メルたちもこの二人よりペースは遅いが―――こいつらが早すぎるだけ―――こちらにへと続々と向かっている。


「って、何なのよその触手!?まるでグラーケンじゃない!?」

「まぁ・・うん説明は後だ!」

「無理があるよ少し!?簡潔にで良いから!」

「グラーケンの結晶化した亡骸を食った!以上!」

「「うわぁ・・・・・」」

「二人して引くなぁ!!」


 無駄に息ピッタリだな!!


「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろうが!!」

「っと、そうだった!タク、あの砂岩巨蛇(サンドサーペント)は僕たちで引き受けるよ。」

「急に真面目になるな・・・」


 今さっきそんなこと言っている場合じゃないと言ったが、あまりにも切り替えが早すぎるものだから流石に戸惑ってしまう。だがまぁ確かに、今はシムビコートの元に一刻も早く向かいたいというのが本音だが・・・


「いけるか?」

「あんまり舐められたら困るわよ。それに・・・多分ゼローグさんの身体を乗っ取ったシムビコートをどうにかできるのはタクしかいないわ・・・!」

「そう・・だな・・・分かった!シムビコートは俺が絶対に何とかする!二人はアレをどうにかしてくれ!!」

「「了解!!!」」


 そのまま俺は一旦『地底之大王烏賊(インバーテ・ブレイト)』を解除。砂岩巨蛇(サンドサーペント)を二人に任せ、再び遺跡の方にへと向かう―――――






「・・・うむ、ここまでは計画通りか。」


 シムビコートは安堵していた。

 何やら奇妙な攻撃をしてきた際はどうしたものかとも思ったが、それでも最終的には自分の思う通りの展開になった。

 シムビコートの思惑、それは英雄の雛タクを一人にすること。細かく言えば、タクと共に行動している二人をタクから引き離し、己の手によって強化した砂岩巨蛇(サンドサーペント)と戦わせること。


「よく知っているぞ・・お前たちの事は官邸でも見ていたからな・・・!」


 『憑依(ハイジャッカー)』を用いて官邸へと潜入していたシムビコート。黒鋼の骸骨騎士を盗むために綿密な下調べを行っていた時、奴らは現れたのだ。そう。タクたちである。

 官邸では流石に戦っていなかったが、その少し前、ゼローグとやりあった話を聞き、英雄の雛はSランクに匹敵・・・いや、もしかすればSランク冒険者でも対処できないほどの実力を有しているのだということは分かった。


 だが、他の二人はどうだろうか?


 シムビコートは天壮月光の夜(ルナティック)の時に確信した。あの二人は、個々の実力だけ見ればさほど大したことはないと。言ってしまえば、英雄の雛について行っているだけのただの冒険者なのだと。魔神討伐という使命に実力が伴っていないにもかかわらず、神の教えに背いている愚か者共なんだろうと。

 だから分断した。英雄の雛がいない状態で倒せるほど、あの砂岩巨蛇(サンドサーペント)共は甘くない。

 タクは、前日のナニカの時は近くにいたから信じることが出来たのだろう。いざとなれば、自分が助けに行けるからと。

 だが今回は違う。完全な分断。何かあったとしても間に合わないほどにタクを引き離し、それによって奴の思考を鈍らせる。


「結果二人が死ねば万々歳・・!英雄の雛の精神にとって、それは想像を絶するダメージだろう・・・!」


 英雄の雛とて、その力を行使している期間は己よりも遥かに短い。おまけに魔法が使えないと来た。そして天壮月光の夜(ルナティック)で対峙して確信に変わった。


「さぁ来いタク・・・!私のショーを台無しにした罪は重い・・・!!」


 一対一で戦えば、ほぼ間違いなく自分の勝ちであると。






「・・・にしても、あの砂岩巨蛇(サンドサーペント)・・相当手強そうだな・・・」


 走りながら、俺は呑気にそんなことを考えていた。この先で姿を見せているシムビコートを倒すために二人にほぼ勢いで任せてきてしまったようなものだが、少し悪いことをしただろうか?


「ま、あんな奴ら、()()()()()()()()()()だろうけどな。」


 さて、そんなことよりも問題はこっちの方か。というより、こっちが大本命と言えるだろう。

 今回の主犯シムビコートは何としても俺の手で捕まえなければならない。そうしなければ俺の気が済まないのだ。

 

「『地底之大王烏賊(インバーテ・ブレイト)』は振りが大きすぎるか・・・あいつ回避能力が高いからな・・・」


 官邸の屋根の上で戦った時も、結構な数の俺の攻撃を奴は躱して見せた。威力重視で攻めるのは得策ではないだろう。


「けど、俺の奥の手は()()残ってる・・・!楽しみにしてやがれクソ野郎が・・・!」


 もう十分執行猶予は与えただろう。怪盗の懺悔の時はもうすぐそこだ。いや、すぐそこにするのだ。もう次のチャンスなど存在しない。この場で全てを終わらせるべく、俺はシムビコートの懐めがけて全力で攻め込む。

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