#169 月光下の決戦その三
「・・・見えた・・!あれだよ・・・!」
「あれが・・月儀の遺跡・・・だったか・・?」
遠目から見ているだけだが、それでもなかなかなサイズだということが分かる砂岩造りの建物。だがピラミッドというよりかはどちらかといえば・・・洗練されたデザインの要塞?
確かに何かの儀式に使われていてもおかしく無いが、敵が攻めてきてもなんとかなりそうな頑強さも窺える。
「ん・・・?」
やっとこさ遺跡が見えたものだからつい気分が舞い上がってしまった中、レルが何かを見つめて小さく呟く。
「なんだろう、あれ?」
「ほんと、遺跡の前に何かいるわね。」
「あぁ、あれが砂岩巨蛇。この砂漠の厄介な主だよ。」
確か、遺跡にそいつが住み着いてからあんまり近づけなくなったんだったか。だが、あれくらいゼローグならすぐに討伐できそうなものだが・・・
「ま、とりあえず手筈通りやってみますか・・・んじゃ、ちょっとお先に・・・ッ!」
『身体強化』発動。五百メートルほど離れている砂岩巨蛇に一気に近づく。
やっと歩行以外のアクションができることに謎の幸せを感じながらも、視界いっぱいに砂色の蛇が映るほどまでに近づいた。
だが、近距離だとかなりのサイズだ。体長・・・十五メートルくらいあるだろうか?グラーケンの触手を見慣れたせいか感覚がバグっているが、それでも十分にデカい。
「よし・・!まずは小手調べ・・・!」
勢いよく地面を蹴り、右のストレートを蛇の土手っ腹に叩き込む。
まず感じたのは、岩を砕く感触。そこから石がほろほろと崩れて、砂へと変貌し、そして弾けるような感触。
効果あり、と思ったが・・・
「んー・・・なんか余裕そうだな・・・」
もちろん俺の方じゃない。奴の方である。
次の瞬間、「そりゃ余裕ですわ。」などと思ってしまった。砕いた体の一部は地面の砂によって再構築され、瞬時に体は元通りとなったのだから。
(この砂漠にいる限り、絶対に倒れることはないってことか・・・!)
この感じだと、ただ再生している訳じゃなさそうだ。
体内から再生してるんならともかく、地面の砂で回復したのなら、話はまた大きく変わってくる。
「だけどな・・・俺も思いっきり暴れるよう頼まれてるんでな・・・!」
先のシムビコート戦でも、俺のフラストレーションはかなり溜まっている。目の前の砂岩巨蛇を遠慮なく使わせていただこうか・・・!
「お望み通り・・派手に暴れてやる・・・!」
『身体強化』六十パーセント。奴の周囲を駆け回り、身体中の至る所に攻撃を加えていく。加速、急転換、攻撃。そのラッシュを俺の気が済むまで繰り返し行う。
多分戦闘的な意味では、この行為は全くの無意味だろう。だがしかし、俺の目的はそれではない。
ただ、派手に暴れればいい。あたかも圧倒しているかのように振舞えればそれでいいのだ。
だから、今はただ砕きまくる。目の前の蛇の体を。正直こんなところで油を売っている暇はないが、騎士団の奴らがここまで来るまででいい。面々がここに辿り着くあたりに一度吹っ飛ばしたように見せ、その後シムビコートの元に向かえばいい。こんなに立ち塞がるようにこの蛇が出てきたんだ・・・
「絶対にあそこにいる・・・!」
「みんな!タク君に続くよ!!」
ォォォオオオオオ!!!!!
「お、思ったより早かったな。」
俺の想像よりもかなり早く騎士団の人間は俺の元にへと追いついてきた。まぁ五百メートル、走るのは普段から体を鍛えている騎士たちだ。武装した状態とて、ここまで辿り着くのにそこまでの時間は要さないだろう。
「っし、『闘気波動砲』!!!」
騎士たちが臨戦体制に入っていることを確認した俺は砂岩巨蛇の正面にへと回り込み、全力で俺の中の闘気を解き放つ。
本気の『闘気波動砲』は、レーザービーム程度の太さでは留まらない。極太の闘気の塊は大蛇の体を跡形もなく消しとばし、そのまま延長線上にあった月儀の遺跡に直撃した。
「・・・・・ナニソレ・・・?」
「・・・ちょっとやりすぎた・・・・・」
「絶対にちょっとじゃないでしょーー!?」
唖然としながらも遺跡をぶっ壊してしまったことで、少々メルが驚愕と怒りを八対二の度合いでこちらに叫んでくる。
「いや再生の前に砂岩巨蛇完全に消し飛んじゃったし!?一体どうなってんの!?」
「「・・・なんかすみません・・・・・」」
「いやなんでお前らが謝ってんだよ!?」
俺の保護者か何かかテメーらぁ!?
「・・・ま、後のことは団長に任せよう!うん、そうしよう!」
「しかもなんか軽ぅ!?」
「とにかく、道は開けたし、シムビコートの元に向かおう!皆、行くよ!!」
ォォォオオオオオオオオ!!!!!
ひとまず、第一ミッションはクリアと言っていいだろう。団員の指揮も上がり、全員仇めがけて遺跡に突撃する気満々だ。シムビコート以外の『カースウォーリアーズ』の奴らもいるかもしれないし、気を引き締めつつこのまま先へ・・・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
「うにゅ?」
「今度は何だ・・地震・・・?」
「さっきの蛇が超巨大化して出てきたりしたら流石に笑えねぇぞ・・・!」
突如あたり一体を揺らす地震。その揺れ自体はそこまで強くはないものの、状況が状況だ。何かあるのではないかと自然に思ってしまう。
遺跡はもうすぐそこだ。とっととシムビコートを見つけ出して・・・・・って、
「シムビコート・・・!?」
ここからみたら、人型も小さな点に見えてしまう。だが、その存在が誰なのかは、しっかりみなくてもはっきりと分かる。
数日前にあまりにも手荒い歓迎をしてきたこの国最強の男。白い髪、青い鎧。そして片手剣と丸い盾。英鎧騎士団団長にしてSランク冒険者である男の姿がそこにはあった。
「団長・・・!」
「いえメルさん・・あれがシムビコートです・・・!」
「ッ!そうだった・・ボクとおんなじように体を乗っ取られてるんだったね。」
「あっ!ちょっとタク!!!」
レルがそう言い終えた頃には、すでに皆とは数百メートルの差が開いていた。俺の怒りに共鳴し、己も知らぬ間に足が勝手に動き始めていたのだ。
「借りを返しにきたぞぉぉおおおおッ!!!シムビコォォォトォォオオオ!!!!!」
「英雄の雛ァ!!!私のショーはまだ終わらせない!第二幕の始まりだ!!!」
この夜に全てを終わらせる・・・盗まれたものを全部取り返してやる・・・!