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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#168 月光下の決戦その二

「・・・近づいてきている・・かなりの数ですね・・・」


 自分たちが根城としている月儀の遺跡へと人間の大群が真っすぐと向かってきていることを察知したエーベルス。だがその表情は一切動くことはなく、更には焦りなども微塵も感じていなかった。

 向かってきているのはたかが人間。いくらその身を鍛えたとて、自分たちと同じ高みへと到達することはなく、エーベルスからすれば、人間のそれはただの無駄な努力である。それがエーベルスの考え。

 だがしかし、決してそれは油断から来ているものではない。己の実力を加味した上で、そう思っているだけなのだ。


「ウルティブロ、起きてください。」

「うーん・・・僕まだ眠いんだけど・・・」


 この三日間、消費した魔力を回復させるために眠りについていたシムビコートは、エーベルスに起こされ子供のようにやや不機嫌そうな態度で遺跡の奥から姿を現した。


「まぁそう言わずに。少々大勢の客人がやってきていますよ。」

「それって、あの英雄の雛?」

「えぇ。どうやら今回は本気のようですね。」

「何?僕が盗んでこれたのは、あいつらが手加減してくれたおかげだって言いたいわけ?」


 エーベルスのその発言に、シムビコートがほんの少しの怒りを見せ、エーベルスを睨みつける。


「そんなこと一言も言ってないじゃないですか。より一層気合が入っている、という意味ですよ。」


 まさに子供のような怒り方をするシムビコートを宥めるようにそう返す。目の前の小僧以下の存在の難しい扱いをどのようにするか考えながら、二人の会話はそこからも少し続く。


「さ、新たな仕事ですよ。ここにやって来る者は皆殺しにしても構いませんし、なんならまた()()を使ってもいいですよ。」

「え?エーベルス、今回も手伝ってくれないの?」

「私はあくまでお前の実力を測る役回り。加勢してはなんの意味もないのですよ。」


 事実、シムビコートと共にセラムへとやって来てからというものの、エーベルスがその身を粉にしたことは一度もなかった。セラムへと送り込まれたエーベルス個人の任務とは、現在のシムビコートの力がどの程度のものかを知り、今後の『カースウォーリアーズ』での立ち位置を決める。というもの。ここで期待以上の成果を出したのであれば、組織内の地位も上がる。逆に成果を出せなければ、何が待っているのかというのは想像できるものではない。


「ここで活躍すれば、きっとあの方にも褒めてもらえますよ。」

「え!?ほんと!?あの方に会えるかな!?」


 あの方。『カースウォーリアーズ』で崇拝されているその存在を、シムビコートは己の目で一度も見たことがない。

 組織の中の数体の魔人の手によって生み出されたシムビコートは、生みの親たちからその大いなる存在について度々聞かされ、そしてシムビコート自身も、その「あの方」をいつしか崇めるようになっていたのだ。

 しかしそれは、事実上の偶像崇拝のようなものであった。存在している。名前も知っている。だが実際に見たことがないその存在。

 エーベルス含む生みの親たちは、本当にその目で、その姿を見たことがあるのだろうかと疑ってしまうほど、その姿は想像し難いものであった。それでもシムビコートは、「あの方」に忠誠を捧げることをやめることはない。


 なぜなら、己はそのお方あってこの世界に生まれたのだから。

 なぜなら、己はそのお方あって力を手に入れたのだから。

 そして、己はそのお方あって、その自身の一生という名の舞台を手に入れたのだから。


「そうですね・・・えぇ・・きっと・・・期待していますよ。ウルティブロ。」


 その言葉を聞いたシムビコートの、もとい乗り移られたゼローグの瞳はより一層の輝きを放ち始める。やる気のせいか体は疼き、拳をグッと握りしめている。やってくる英雄の雛とその一派の命をこれから刈り取るべく、シムビコートは己の中の魔力の質を集中力とともに高め、無意識での疑似長期魔力蓄積(アキュームレイト)によってその量も増やしていく。


 もし仮に、シムビコートを人間としたならば、それは天才など遥かに凌駕するほどの存在とされていただろう。

 この世に生まれ五年で自身の魔法の技術を飛躍的に伸ばしたウルティブロ。そしてその魔法は既存のものではなく、シムビコート本人のオリジナル。本来独自のものを強化するということはどんな者を持ってしても困難であり、並大抵の努力ではなし得ることができないもの。一般人が戦闘において役に立てるように、本格的に魔法に打ち込んだとしても、たった五年でシムビコートレベルの完成度にまで達することは非常に難しいだろう。


「期待したまえエーベルス・・・!今夜、この怪盗シムビコートが、英雄の雛の首を・・・我が手中に収めて見せようじゃないか・・・!!」


 ウルティブロ自身も、『怪盗シムビコート』としての役に完全に入る。

 シムビコートは、ウルティブロが思い描いたショーの主人公。武器、財宝、命。この世に盗めないものはなく、それでいていかなる相手であろうともその能力を持って翻弄し、観客を驚愕と怨嗟の声で満たす。

 その手で巻き起こす惨劇は、並大抵のものでは絶対に済ませない。オーディエンスにはわずかな希望、そしてそれを遥かに凌駕する絶望を与え、植え付け、心に染み込ませる。それは決して落ちることのない汚れなど生ぬるいような何か。今後の人生にへばりつくような深い深い絶望。


 力を更に更に高めていくシムビコート。そしてもちろん、それを止めるものはこの場に誰一人として存在していない。唯一近くにいるエーベルスもただ傍観を貫き、濃い黒の魔力で満たされていく白髪の騎士団長を眺めるのみであった。


「まず手始めに、砂岩巨蛇(サンドサーペント)を一体向かわせてみようか・・・そこから徐々に手数を増やし・・・ハハハッ!うむ、悪くないシナリオが生まれそうだ・・・!」

(シムビコートを演じ始めたウルティブロは、普段よりもそのパフォーマンスが飛躍的に向上する・・・そして今回はなんの制限もなくこいつが暴れることのできる環境。条件は揃っている。あとはウルティブロ自身がどれだけやれるのかどうか・・・ですかね・・・)


 タク、そしてシムビコート。両雄とも存分に戦えるコンディション、ステージ、そして激しいパトス。




 そしてとうとう、再びそれらが激しくぶつかる・・・・・

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