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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#167  月光下の決戦その一

 セラムを抜け、そこからいくつかの街も越える。千人規模で大移動してるわけだから、当然人の目にも付く。英鎧騎士団の面々がほとんどなので、その眼差しが怪しい何かを見るような物ではなかったのは幸いだった。尤も、なぜかその先頭にいる俺に対してだけには少し違った目をされていたことはいうまでもない。が、見てくれだけ堂々としている俺が自らこの場所を望んだわけではないことは後でゼローグにでも説明させよう。そのためにも、次はミスするわけにはいかない。


「それにしても、遺跡どころか砂漠すら見える気配がないんだが・・・あんなに早く出発し始めたのはこれが理由か・・・・・」


 『無限スタミナ』持ってたから肉体的には何ともないが、いかんせんただ歩いているだけだから何とも・・・こんな見られている中堂々と雑談する勇気もない。周りの人間の視線のせいで余計に張り詰めた緊張は一向に解けず、正直色んな意味でキツい・・・・・


「今ボクたちがいるラカトンと・・・そこから二つ街を抜けたら砂漠だよー。」

「逆にまだ後二つあるのか・・・」

「たははー・・タク君が思ってるより国っていうのは結構広いんだよー。」


 俺の呟きにメルがそう答える。色々あった彼女も、なんだかんだ本調子に戻って・・・いや疲れてるな?もはや語尾が「だよー」になってるし。出発する前のあの気迫は一体どこへ・・・それに関しては俺も人のこと言えないか・・・・・

 まぁメルに関してはしょうがない部分もある。なんせ病み上がりに等しい状態で戦場へと駆り出されているのだから。

 本来であれば今頃、シムビコートをぶっ飛ばしに行く以前に、「無事に目覚めてよかった」などの言葉を官邸で言われまくってるはずであっただろうし、絶対にそっちの方が望ましかった。こんな事態でなければ、今もまだ官邸の医務室のベットで休んでいたことだろう。


「メルさん、大丈夫ですか・・?まだ万全じゃないでしょう・・・?」

「ありがとうアリヤちゃん。でも・・休んでられないよ・・・!シムビコートには、ボクがきっちりと落とし前を付けなきゃだからね・・!!」


 おそらくこの一行の中で、最も苦悩しているのは彼女だろう。現場にいながら何一つできなかったもどかしさは、俺の想像を遥かに越える物だろう。

 もしかすれば、いやもしかしなくとも、メル以外の騎士団の面々も同じ気持ちだろう。あれだけ理不尽に弄ばれたのだ。無理もないだろう。官邸の中に居なくとも、あの調子のシムビコートが騎士団の人間にどのような振る舞いをしたのかなど想像に容易い。


 シムビコートはその実力というよりかは、搦手を多く用いてくるタイプだ。故に、初見での攻略はなかなか厳しい。だがしかし、


「もう初見じゃない・・・!正面から攻略してやりましょう!」

「うん!そうだね!」

 

 正直、明確な攻略法などは三日かけても思いつかなかった。だがそんな物は必要ない。ただぶちのめせばいい。突破方法はいたってシンプルだ。


「・・・それにしても、この服かなり動きやすいですね。さすが日々戦う人のための装備って感じだ・・・!」


 今レルとアリヤが身に纏っている英鎧騎士団の制服。戦闘に影響が出るためそれに加えてレルはいつものコートを、アリヤもいつものマントとブーツだけは変わらずに装備しているが、少し装備の見た目が変わるだけで、その印象もガラリと変化している。


「そうだね。冒険者の人の装備もそれなりに動きやすいように作られているけど、あれは普段使いも意識されてるからね。でもその制服は、日々戦うために最高のパフォーマンスを提供してくれる代物。身体能力上昇、疲労軽減、あと精神ダメージなんかのスキル付与(エンチャント)もついてるんだ。あとは・・・さっき言ってた()()だね。」

「今でも信じられません・・・その時になるまで少し怖いですね・・・」

「というか、タクは変わらずその装備なんだね?」

「まぁ俺に関しては普通のスキル付与(エンチャント)は使えないし・・・俺もできればそっちがよかったという気持ちが抜けきらない・・・統一感的にも・・・」

 

 俺の装備は色だけ見れば地味なものの、白、水色が目立つ騎士団の制服を着た人間がずらりと並ぶ中、一人だけほぼ黒装備では変に目立ってしまう。これにより、余計に人の目が痛いというわけだ。ちくせう・・・・・

 だがまぁ、生まれ変わったこのマイ装備たちも使ってやらないと可哀想だろう。大丈夫・・・何があったとしても俺は死なないし・・・尋常じゃなく痛いけど・・・・・


「レル、先頭変わって?」

「タク、頑張ってね。」

「うん。あとその少し同情した目やめて?」

「あともう少しの辛抱じゃない。英雄の雛なんだから、もっと堂々としてればいいのに。」

「うん。みんなが英雄の雛だって(そのことを)知ってればいいんだけどね?」


 知ってるわけないでしょうが。今の周りからすれば俺はただただ目立ってる変なやつだよまったく。






 そんなこんなで、そこからもかなりの時間周囲の人間に見送られながらも歩き続けた。

 場慣れしているのだろうか。メルなどは周りに手を振りながら笑顔を振りまいていた。なんかところどころ熱狂的なファンが何やら叫んでいたが、うまく流されてたな・・・トポラだけに留まらず、どうやら国全体的にもメルは相当人気らしい。容姿も性格も良いし、何となく納得してしまう。

 ラカトンから次の街、その次の街をなんのトラブルもなく無事に進んで、抜ける頃にはすでに空は赤く、夕日が沈みかけていた。


「や・・やっと着いた・・・!」


 目の前に広がっていたのは純度百パーセントの砂漠。トポラを含めたセラムの街は、どこも砂漠のオアシスを拡大したかのようなイメージだったが、ここは完全に辺り一面砂模様。水どころか木々・・緑色一つ存在していない。


「さ、遺跡までもう少しだよタク君・・!ここからは人の目もないし、頑張って!」

「あ・・・ち、ちなみにメルさん・・・遺跡まであとどのくらい・・・?」

「うーん・・・少なくともあと一時間以上はあるかな?」

「まだ着いてなかった・・・!!」

「あと一息でしょ!さ、行くわよ!シムビコートの根城はすぐそこよ!」

「・・・・・っし!テンション上げて行くか!!」

「「「おーー!!」」」


 これから行く場所はそんな遠足気分で赴くような所では決してないだろうが、重い気分で行くよりは幾分かましだろう。

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