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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#166  総大将、進軍

「・・・っていうかタク、話が結構逸れちゃったけど、結局なんでそっちの方角の遺跡に真っ直ぐ逃げたって思うの?」

「え?あぁ、あいつガキっぽいし考えもなんか単純そうだから。」

「・・よくあんな事堂々と言えたわね・・・」


 でも割と良い線いってると思うんだけどな・・・あんなスピードで急に方向転換出来るとは思えないし。

 着地してからまた方向を変えて再び飛ぶかもしれないという考えもなくもないが、あれだけスキル盛り盛りで飛び立ったのだ。あれは一種の緊急離脱のようなものだろう。そう何回もポンポンあんな速度で逃げれる筈はない。多分!


「タクはもう少し自分の発言の影響力を考えた方がいいよ。」

「影響力?」

「ほら。周りの人たち、もうすでにやる気になっちゃってるよ。」

「マジすか。」


 そんな言葉に周りを見てみると、怒りを露わにした面々がやる気に満ちていた。ここにいるのは、三日前にシムビコートにしてやられた者ばかりだ。騎士団の人間も千人以上が命を落としているし、経済的な損失も大きいだろう・・・もしあいつが本当に古の金貨を・・・確か全部で二百枚だったか?それをばら撒いたのだとしたら、その被害総額は相当なものだろうし・・・・・


「そういえば、金貨って誰か貰ったのか?確かなんだったか・・・あれにとどめを刺した奴と、一番闘いに貢献した奴だったか・・・?」

「あ、私が持ってるわよ。」

「・・・・・はい?」

「えぇ。古の金貨二百枚。ここに。」


 そう言いながらアリヤが持っていた謎の袋を机の上に置き、皆に見えるように中身を開く。すると中には、黄金に輝く大量のコインが存在していた。


「おおぉ・・・・・これは間違いなく古の金貨・・・!」

「確かに、宝物庫から盗まれていた金貨と同等のものです・・・!」

「待ってください、今解析魔法を・・・・・えぇ、間違いありません!本物です!!」

「「「「「おおおおお・・・!!!」」」」」


 完全にシムビコートの嘘、ただただ盗まれただけだと思っていた官邸の連中は、それぞれが歓喜のあまり声を漏らす。もし奴の言葉が本当だとしても、普通それほどまでの大金をもらった人間は律儀に元の場所へ返したりなど、おそらくしない。故に、もうすでに被害額の一部が確定していたようなものであったため、それを取り戻すことができたのは国としても嬉しい限りなのだろう。


「これは全てお返しします。シムビコートに持って行かれなくてよかったです。」

「アリヤ殿・・本当に感謝する・・・しかし、これと言っては何だが・・・よろしいのか・・?普通の冒険者であれば、何割かを報酬として要求するだろうに・・・?」

「構いません。もう一度私たちにチャンスを頂けるのであれば。」


 そういうアリヤの目はただひたすらに真っ直ぐに、首相ゼラニオに向けられていた。

 アリヤは、何も要求していないように見せかけて、首相にへと要求を訴えかけていたのだ。一度失態を犯した自分たちに、もう一度チャンスを与えて欲しいと。


「うむ・・・私の方からもお願いしよう。どうかこの国を、あの骸骨騎士を・・・そして息子を助けてやってほしい。」


 ゼラニオは、その場にて、皆が見ている中で深く頭を下げた。一国のトップとあろう人間が、旅の冒険者に。

 その光景を、周りの面々の中には気に食わない者もいただろう。突然やってきた少女に、自分たちの、そして国のリーダーが頭を垂れているのだから。

 

「・・・ありがとうございます!!」

「「ありがとうございます!!!」」


 礼を言うアリヤに、俺とレルも続く。


「・・・ゼローグは今おらず、副団長のアグルダも死んだ・・・一時的に英鎧騎士団はメルに任せるとして・・・今夜の作戦の総大将を・・・タク・アイザワ。君にお願いしたい。」

「・・!?俺ですか!?」


 完全に予想外のところでゼラニオから俺に指名が入ってきた。というか・・総大将・・・!?自分で言っちゃ何だが、特攻、またはゴリ押しみたいなやつがなって良いような役職ではないことは間違いないんだが!?


「いやいや首相・・それならメルさんの方が適任だと思うんですけど・・・」

「タク君、これはね?少し前にボクがゼラニオ首相にお願いしたんだよ。」

「はいぃっ!?」


 ますます訳が分からない。確実に俺よりもメルの方が役職的に合っているだろうに。こっちは高校の委員会すら渋ったんだぞ!?


「君の実力は団長と大差ないし、もちろんボクなんかよりもずっと上だと思う。本調子じゃない今の騎士団に必要なのは指揮能力や統率力なんかじゃなくて、皆を引っ張る強さなんだ。そうなった時、この中で君以外に適任はいないよ。総指揮自体はボクが受け持つ。タク君はただ、先頭で思いっきり暴れてくれるだけで良いんだ・・・・・どうかな?」

「総大将っていうか特攻隊長っていうか・・・」


 要するに、「我に続けぇぇぇぇぇ!!!!!」的なやつの我役をやれってことか。まぁそれなら話は少し変わってくるか。上の責任は必要なく、ただ思いっきり暴れて味方の指揮をあげる役割ってところだろう。そういうことなら悪くない。


「了解です。俺が先陣を切ります。それでシムビコートと・・・それから、ゼローグの野郎がメルさんに躊躇なく斬りかかってたんで、ついでにぶん殴っときますよ。」

「え?」

(((((この馬鹿・・・!!首相の前で何という言動を・・・!!!)))))


 何人もの人間が首相の顔色を伺うも、その表情は一ミリも変わっていない。

 我が子を殴ると言われたものの、その我が子が容赦なく女性を斬ろうとした事実もまた変わらない。しかしゼローグがそれを躊躇わなかった理由もゼラニオは分かっているので、ここでは沈黙を貫いていた。


「・・・・・あぁ!そういうことか!大丈夫だよタク君。団長の『ヴァルカヌスの剣』は少し特殊でね・・・・・」






 そして会議、伝達も問題なく終了し、すぐさま出撃準備が開始された。その月儀の遺跡はここトポラからかなり離れている場所にあるらしく、まだ夕方にもなっていないが、早速出発するようだ。

 そうして出揃ったのは、二千人いかない程度の武装した英鎧騎士団。その先頭に位置する場所にはメルがおり、そのメルの目の前にはレルとアリヤ。だが二人の装備はいつもとは全く違うもの・・・英鎧騎士団の制服を身に纏って出撃の準備を済ませていた。

 そしてそんな二人のさらに前にいるのは・・・・・いうまでもなく、俺だ。


「それじゃあ頼むよ、総大将!」

「おいレル・・・お前まで悪ノリし始めたらいよいよ終わっちゃうって・・・」

「良いじゃない。たまには堂々と人の上に立ってみれば?」

「ったく・・・よし・・・・・諸君!!これより、進軍を行う!!!ゼローグの身柄と黒鋼の骸骨騎士を奪還し、皆生きて帰還する!!!無念にも命を落とした仲間たちの思いを乗せて、全力で戦え!!!シムビコートに、目に物を見せてやろうじゃないか!!!!!」


 ぉぉォォォオオオオオオオオ!!!!!!!

 

 騎士団全員が、メルが、そして二人が、俺の声に応じてくれる。少し小恥ずかしいが、俺の気持ちは、そして、皆の熱意は十分に伝わった。

 そうしてついに、何事かと集まった街の人々に見送られながら、俺たちは遺跡に向かい進み始める。

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