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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#163 夜が明けて

 そこから夜は明け、太陽が月光とはまた違う明るさを地上にもたらす。しかし空の雲量はいつもに比べて多いものであり、その雲の隙間のところどころから日光が差している状態だ。

 例年通りであれば、ここから更に天壮月光の夜(ルナティック)の後夜祭が行われ、月が沈み日が昇るまで人々のお祭り騒ぎが辺りに響き渡るのだが、今回ばかりはそうもいかず、トポラの街は嫌な静寂に包まれていた。

 そして、半壊したこの街の官邸では、昨夜の騒ぎに深く関わった者たちが集い、それぞれ会話を重ねていた。


「・・・なんという事態だ・・・・・」


 首相ゼラニオも、この結果にはひどく参っていた。

 街の建物、盗まれた骸骨騎士、そして多くの犠牲。何より、自分の息子が身体を乗っ取られ、そのままどこかへと消えたのだ。国のトップとしても、一人の父親としても、彼の精神にかかる負担は相当なものであった。


「・・・・・報告します。『神光月波(ムーン・オーバー)』の影響で怪我人自体はそれほど多くはありません・・・しかし・・クッ!・・・・・我ら英鎧騎士団・・その中の千三百二十六人が、昨晩のシムビコート襲来により殉死・・・!その中には、アグルダ副団長も含まれッ・・!ゼローグ団長も・・・!!」

「・・・・・もうよい・・すまない・・・少し一人にしてくれないか・・・?」

「・・・了解・・」


 そうしてその広い空間の中でただ一人、ゼラニオは天井を見上げ立ち尽くす。

 

(・・・ゼローグ、許してくれ・・この何も出来なかった私を・・いや、虫が良すぎるな・・・)


 ゼラニオはゼローグとは違いその戦闘能力はあまり高くなく、前線での戦闘経験もない。数十年間、執務室で淡々と仕事をこなす日々を送ってきた彼は、シムビコートに対抗する実力を持ち合わせていなかったのだ。これほどまでに大きな犠牲を伴ったというのに、国のトップとして何も出来なかったという事実をただ受け止め、心の中で息子にへと謝罪する。だがもちろん、そんな彼の思いは、ゼローグに届くことはない。


「そういえば、あの子らは・・・英雄の雛は何をしているのだ・・・?」


 ゼローグと共にシムビコートと対峙したあの少年たちの身体、そして心の状態を頭の片隅で気にしながらも、ゼラニオはそのまま苦悩を抱える。






 一方その頃、昨夜異形へと変貌した人間に立ち向かった多くの冒険者たちは、その場から離れずにいた。一晩で起きたことをまだ頭の中で処理しきれず、ほとんどの人間は混乱状態の中ただその場に居座っていた。


「ん・・・?アリヤ、それって・・・?」

「え・・何かしら・・・?」


 周りと同じくその場で束の間の休息を取っていたレリルドとアリヤ。そしてレリルドが見つけたのは、彼女の隣にいつの間にか存在していた白い布袋。そこそこの大きさのそれは中々の大きさに膨らんでおり、何かしらが入っているようだった。


「・・・って、重っ・・・!?」


 軽い気持ちでとりあえず持ってみようとするも、予想外の重量に驚かされる。アリヤは手を放してしまい、袋はそのまま地面をほんの少し転がる。転がるたびに聞こえてくるのは、大きな金属音。


「・・・一体何なのかしら?」

「・・・・・ッ!!アリヤ、ここじゃまずい。いったん官邸の中に持っていこう。僕も手伝う。」

「え?どういうこと?」

「いいから・・!」




 何かに気が付いたレリルドは急いでアリヤにそう言うと、急いで二人でそれを抱えて半壊した建物の中へと急ぐ。道中周りからの視線をいくつも感じる中、何とかそれに動じる事なく官邸内へと戻ることに成功した。


「よし・・ここなら大丈夫か・・・!」

「レル・・・一体この中には何が・・・?」

「奴が言っていたことが本当なら・・・・・やっぱり・・・!!」

「これって・・・!?」


 ゆっくりと袋の中身を確認すると、現れたのは黄金のコイン。そのどれもは少し古びており、どこか歴史を感じる品物だった。そしてそれは、この官邸の地下に存在する宝物庫で目にして記憶に新しいものであった。


「古の金貨・・・!?でもどうして・・・?」

「シムビコートの奴が言ってただろ?あの異形にとどめを刺した者と、最も討伐に貢献したものに、古の金貨を百枚ずつ進呈するって・・・!アリヤはあいつを倒して、なおかつ最も討伐に貢献した。だからシムビコートはアリヤの隣に、この古の金貨()()()を残したんだ・・・!」

「悪党のくせに・・そういったところは律儀なのね・・・・・」


 この今誰もいない場所でこの袋を開けたレリルドの判断は正しかった。もしもあの群衆の中で開けていようものならば、瞬く間にその場にいた二千人の中の何割かで争奪戦が起きていたことだろう。


「それにしても、シムビコート・・・これを見る限り、あいつは本当に昨夜のあれをショーとしか思っていないようね・・・!無性に腹が立ってきたわ・・・!」


 そんなシムビコートのやり方に、アリヤは激しい憤りを覚える。そしてその感情を抱いているのは、レリルドも同じだった。


「うん・・!絶対に奴は許さない・・・!僕らで絶対に捕まえよう・・・!」

「えぇ・・・!そういえば、タクはどこかしら?」

「・・・多分、シムビコートを取り逃がしたのが相当精神に堪えているみたいだ・・・未だに屋根の上に座って何かを考えてるみたいだったよ・・・・・」






「・・・・・あの時どうすれば良かった・・?憑依される前に本体を取っ捕まえれば・・いや、俺の身体が乗っ取られて意味がない・・・あの時何が出来た?どんな行動をとれた?もっと他に出来ることがあったんじゃ・・・・・」


 今座っている官邸の屋根の端っこで、ぶっ壊された壁などを見ながら俺はただひたすらに自問自答を繰り返す。

 意識を失っていたメルは、他の英鎧騎士団の人らに預けた。正真正銘、ここには今俺しかいない。

 正直、結果は最悪だ。はじめに予想していた、「黒鋼の骸骨騎士が盗まれる」という最悪の結果。それを遥かに上回る現実を突きつけられている。これを打破するためには、一刻も早くシムビコートを見つけ出し、骸骨騎士とゼローグを取り戻す必要がある。


「スキル付与(エンチャント)で体はこれまで以上によく動く・・・それに、()()()()()()()()()もある・・・今回は相当巻き込む心配があったから使うに使えなかったが・・・シムビコート・・・・・テメェは俺が存分にぶちのめす・・・!!!」


 今回は完膚なきまでに敗北した。だが次は違う。すぐに見つけ出して、速攻でリベンジだ・・・!!

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