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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#160 天壮月光の夜:炸裂

「ッ!?眩しっ!?・・・・・うおっ・・・!」


 反射的にそう叫んでしまうほど、突然月の放つ光量が跳ね上がる。いや月自体が光っているわけじゃないだろうから原理は全く分からないが、魔法世界(ここ)でそれを言っちゃおしまいだろうから多くはツッコまないが・・・

 先ほどまでもいつもの夜に比べて相当明るく、そして迫力があったが、今この瞬間の月光の存在感は先ほどのそれを遥かに上回る。

 今この金色の光は、ここセラムの全てを包んでいるのだろう。いや、包んでいなければおかしいほどの光であり、冗談抜きで昼間よりも明るい。


「こりゃゆっくり見たかったな・・・」

「まったく・・・最悪の月見だな・・・!」


 『神光月波(ムーン・オーバー)』が始まった瞬間、ゼローグが顔をしかめてそう呟く。おそらく十年前はこのような異常事態もなく、ゆっくりとこの美しい月を堪能できていたのだろう・・・あれ?そういえばゼローグって何歳だっけ?


「嗚呼ッ!!なんという神々しい輝き!!素晴らしい!想像以上だ!!この輝き・・・私の中のインスピレーションが加速していく・・!このショーの数多のアクシデントも・・・このたった一分によって全てが払拭されるだろう!!!アハハハハハ!!!!!」

「その顔でその表情やめろ!!中身は狂人(テメェ)なんだから!!」


 シムビコートは先ほどのように、いやそれ以上に狂気的な笑みを浮かべる。愉悦と快楽を濃縮させて混ぜたような、そんな顔。元のメルの顔が良いからか、どこか官能的な何かまで感じてしまうような顔は、見ているこちらの感情を容赦なくぐちゃぐちゃにしてくる。


「おっと・・・肩が・・・・・!」


 奴はようやく落ち着きを取り戻したのか、俺が破壊した奴の右肩に視線をやっている。つられて見てみると、変形させた肩が月の光を浴び、みるみるうちにどんどん修復されていく。

 やがて完全に修復されたそれを試すようにシムビコートは手を握って開いてを繰り返し、その後軽く肩を回す。その後その手で脇腹をさすり、何ともないことを確認するや否や再びにやりと笑う。


「おぉっ・・・!噂には聞いていたが、想像以上だ・・・!」

「チッ・・・『神光月波(ムーン・オーバー)』の治癒能力か・・・!」

「そういやそんなこと言ってたな・・・」


 たしか、この『神光月波(ムーン・オーバー)』の光には傷を癒す能力もあるのだったか。死者蘇生がどうとかも聞いたが・・・・・


「・・・・・・・」


 さっき目の前の野郎が言っていた五千人分の魂とやら、下で今化け物に変貌している人に無理矢理入れられたそれらが、元に戻ったりはしないのだろうか。

 

「奇跡・・・勝手に都合よく起こってくれればいいのにな・・・・・」

「・・・・・・・」

「英雄の雛よ、奇跡というのは本来存在しない。何十もの出来事が重なり、その結果自分にとってなかなかないような都合の良いもの・・・人はそれを奇跡という滑稽な言葉で一括りにするのさ。」

「うるせぇ、感情論に理論を持ってくるな。レギュレーション違反だぞ。」


 人の気持ちや考えにマジレスで茶々入れてくる奴はマジで嫌われるぞ。


 


「さて、何はともあれ・・・タイムアップだ。もう間もなく、あのナニカの肉体膨張によってここら一帯は埋め尽くされる・・・さぁ!演者共よ!オーディエンスよ!!その顔を、声を、感情を!恐怖と絶望で自らを染め上げ―――――」




 ドゥガァァァァアアアアアアン!!!!!!!!




「なんだッ!?」

「ぐあぁっ!?」

「おいコラシムビコートォ!?そんだけ言っといて最後は結局爆発オチかぁ!!!?」

 

 だとしたらあまりにも最低すぎるぞ!!・・・・・いや待て・・・これは・・・・・


「アリヤの火薬か・・・!?」


 この爆発した時の臭い、妙に覚えがあった。



 それはこの世界にきてまだほんの少ししか経っていなかったにも関わらず、街を守る戦いに駆り出されたあの夜。

 俺の即興技シリーズの第一弾、『穿焔(ウガチホムラ)』を放った後のあの匂いと全く同じものだった。



「にしても規模がデカすぎる・・・皆大丈夫なのか・・!?」


 爆発の規模は、直撃すれば相当な大きさを誇る官邸の三分の一くらいは吹っ飛ばせそうな物。真隣、ギリギリ官邸は多少焦げるくらいにしか被害を受けなかったので、もちろんその屋根の上にいる俺たちも何とか無事だった。だが、下が見えないくらいの爆発。正直死人が出ていてもなんの疑問も浮かばないくらいにはヤバいのだが・・・・・


「馬鹿な・・!?こんなのシナリオにも・・・なんで・・・!!なんで!なんでっ!!」


 シムビコートは子供のように何度も同じ言葉を繰り返し叫ぶ。ここまでどんな光景を思い浮かべていたのかは分からないが、それでもそれとは相当かけ離れていることは確かだろう。もはやそれは発狂に近かった。


「下は・・・・・ッ!?・・・見事に・・・()()()()()消し炭だ・・・!」


 爆発により発生した煙は、以外にも物の数十秒で晴れ、過剰な天の光も相まって俺の目は下の様子を即座に捉える。

 見えたものは、先ほどもいた相当数の冒険者たち。その中心には、レルとアリヤの姿も見える。割と至る所に負傷者も確認できるが、見る限り死んでいるような人間はいなさそうだ。

 なんか太い針みたいなのが伸びて雲丹みたいになってたナニカとかいうのはどこにも見当たらず、その代わりに地面には相当な数の黒い灰が散らばっている。シムビコートが言っていたような状況には陥っていないので、さっきの爆発で完全に消滅したことは間違いないだろう。


「・・・・・な!心配いらなかったろ!」

「お前もさっき相当焦っているように見えたが?」

「うぐっ・・・うるせぇっ・・よっと!!隙ありぃ!!」

「ぬうっ!?」

「やっと捕まえたぜ・・・シムビコート・・・!」


 この期に及んで全く空気の読めないゼローグに少し言葉を返すと共に俺は一人スタートを切る。そして目の前で動揺していたシムビコートの後ろに即座に回り込み、奴の肩に腕を回し、そのまま固める。


「これなら手も叩けねぇだろ・・・!」

「クソッ!?」

「よし!タク!そのまま取り押さえていろ!!」




「・・・・・なんで―――」

「は?」

「なんでだよぅ!!みんな僕の邪魔ばっかりして!!せっかくこの日のために今まで集めてた魂も全部使ったのに!!」

「いや、あの・・・!?」

「僕の計画は完璧だったのにぃぃ!!僕が主役のショーなのにぃ!!うわぁぁああん!!!!!」


 取り押さえたシムビコートは、本当に駄々をこねる子供のように泣き喚きだした。ここまでキャラ崩壊という言葉が似合う光景もなかなか見られない・・・・・




 だが、俺は奴の顔が見れる位置にいなかった。だから分からなかった。

 こいつの目は、こんなんでもまだ死んじゃいなかったのだ―――――

ちなみにゼローグは二十一歳。

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