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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#159 天壮月光の夜:信頼

「チッキショウ!こいつら斬っても減らねぇ!!」


 異形の生み出した人型の『ナニカ』は、その一個体だけ見れば、決して大した強さではなかった。かのサーヴァンツ・フィーラー一体の強さを十とするならば、この分裂した人型ナニカは

 この場所に残った冒険者に力量の差があれど、そのほとんどの人間が目の前のそれらを倒すことに成功していた。

 斬られ、刺され、叩かれ、魔法をぶつけられたそれらは、まるで水風船のように弾け、先ほどの脈打つ水溜まりへと戻り、そしてそのまま消滅する。


 が、しかしそれだけでは終わらなかった。


「あ・・また・・・」


 蠢く水滴は、いやそうじゃなくとも、一度垂れたのならば、それで終わりなわけではない。水滴というものは、同じ場所に何度も落ちてくるものだ。そしてその当たり前の事象は、この異形にも変わることなく適用される。

 

 異形から伸びた線からは、変わらず水滴擬きが垂れ落ちる。一体倒せばもう一体。二体倒したと思えば目の前には三体。最終的な個体数が増えることはあっても、減ることはなかった。


「このままやってても埒が明かない・・!だったら、この伸びている根元を狙うまで・・って・・・もうやってるし!?しかもめちゃくちゃ速ぇ!?」


 すさまじい勢いで根元を切断し続けているのは、言うまでもなくアリヤとレリルド。二人は心の内で激しく渦巻く感情を、全て目の前の倒すべき存在に向けて剣撃を放つ。


「レル!どれくらい落とした!?」

「えぇっと・・今ので七十八!」

「私が百二十くらい!となると・・・生えてたのは二百本くらいか・・・!」


 そこから間もなくして、異形から生えてきた線が全て切り落とされることとなった。元を断った今、もはや更なる人型は出現しない・・・そう思っていた多くの面々であったが・・・・・


「ッ・・!初めに斬った辺りがまた伸び始めてきた・・・!?」

「ねぇレル・・・なんか最近再生するタイプの奴多くない・・・?」

「確かに・・・・・」


 二人の記憶に新しいのは、これと巨大なイカ、獣人のキメラ、あとは名目上の主である少年・・・姿かたち種族は違えど、これまであまり遭遇することのなかった存在を、目の前の異形を見ながら二人は連想する。


「さて、どうしようか・・・?」

「うーん・・・いい方法が一つだけあるわよ?」

「え?何?」


 予想外の返答にキョトンとした顔で問うレリルドに向かい、アリヤはにやりと笑みを浮かべながら答えた。


「全部纏めて吹っ飛ばすの。」






「ついに習得したぞ・・!長かった!ここまで!」


 あぁヤバい・・・なんか感動で泣きそう・・!好きなアニメの技を、ここまでのハイクオリティで再現できるようになるとは・・・!人生何が起きるか分からないなぁ!まだ十七だし、どちらかと言えば現在進行形で洒落にならないことが起きてるんだが。


「・・・おい。なんださっきの変な語尾は?ふざけているのか?」

「・・人が悲願達成の余韻に浸っているというのに・・・」

「こんな時に何が悲願だ馬鹿!戦いに集中しろ!!」

「そりゃごもっともで・・・!」


 というか本当にふざけてる場合じゃない。ふと真上に視線をやると、すでにほとんど月が天辺に辿りついている。『神光月波(ムーン・オーバー)』まで残り十秒と言われても納得するしかない・・・!


「相も変わらずふざけた身体能力だ・・・!せっかくの入れ物だというのに・・・!」

「メルさんには悪いけど、もうここまで来たらやけくそだ・・!とりあえずお前をなんとかする・・・!」

「クッ・・・・・ふっ・・・フフフ・・・・・」

「何が可笑しい、外道。」

 

 右肩を抑えて険しい顔をしていたシムビコート。だがその顔も一瞬で元のにやけ面に元通りとなった。奴も、しっかりそれが間もなくということを分かっていたのだろう。


「・・・さて、そろそろかな。君たちももう分かっているだろう?『神光月波(ムーン・オーバー)』はもうすぐだ。その一分間の間に、あのナニカはとてつもない速度でその肉体を膨張させる。少なくとも、官邸付近のここら一帯はアレの肉体に埋め尽くされる。クフフ・・・実に楽しみだ・・・!」

「・・・・・チッ・・!」


 そんなことは分かりきっている。だがこのままやっていてもただの鼬ごっこに過ぎない。そんな感情を自身の表情に宿したゼローグは軽く舌を打つ。

 

「まぁ、それに関しちゃ心配してないが・・・兎にも角にもお前だ。」

「・・・なんだと?」



 シムビコートは・・・いや、仲間のゼローグでさえその言葉の意味を瞬時に理解することが出来なかった。街を埋め尽くす異形の怪物。想像しただけでも地獄絵図になろうことは誰もが予測できるはずだ。だがしかし、シムビコートのその発言にタクは一切動じることはなかった。



「・・・なぜだい?いくら化け物じみた回復力を持つ君でも、ただで済むとは思えないのだが・・・?」

「・・・・・いや、馬鹿なのか?」

「は?」


 シムビコートが露骨に見せたのは、苛立ち、怒りの類の表情。俺的には少しからかってやっただけなのだが。こいつ、案外短気なのか?


「さっきも言っただろうが。俺の仲間があそこにいるんだって。ゼローグに対して言ったけど、今この場には三人しかいないんだ。お前にも聞こえていたはずだろ?」

「・・・聞こえていたさ・・だが解せない・・・君は、なぜそこまで自分以外の存在を信じる?必要ないだろうそんなもの?下等、愚か、信頼足りえない。それが人間だ。」

「お前も人間の分際でよく言うぜ。そもそもな、一緒に命全ベットして魔神討伐目指してんだ。今更信用出来ないわけだいだろう?」


 ちなみに百パーないだろうが、もしも裏切られた時は・・・・・その時だと思っている。あいつらが途中で逃げたくなったらのならそれでも構わないし、嵌められたのならそれも何とかする。向こうが俺を信じていなかったとしても、俺は変わらずにあいつらを信じ続ける。なぜなら・・・・・


「この世界で出会った初めての仲間だ。まだ絆が深まるほど一緒にいるわけでもないが・・・現状俺の中で最も信用できるのがあの二人だ・・・!」

「ははは・・・なんと無様な考え・・!甘い・・実に甘いぞ英雄の雛ッ!!そういう甘い考えが、貴様の命を気付かぬうちに刈り取るのだ・・・こんな風になぁ!!!!!」


 そう言うと、怪盗は真上を指しながら高らかに笑う。

 その上では、光の満ちた丸い月が更なる輝きを放つ瞬間を待ちわびているようで、


 そして、それは刹那に始まる、十年に一度、一分きりの月夜の晴れ舞台。




 『神光月波(ムーン・オーバー)』が、始まる―――――

物凄く今更感がありますが、シムビコートの魔法についてほんの少し解説を。


・魔法『憑依』(ハイジャッカー)

自分の肉体を魔力へと変換して生物に乗り移ることが出来る。しかし、憑依中は対象と感覚器官を共有することになるので、ダメージを食らえば痛みは感じるし、もしも発動中に対象が死ねば魔法使用者本人も死ぬこととなる。意外にもリスクの高い魔法。


・魔法『窃盗者之心得』(スティール・マスター)

無機物を魔力に変換して自身に内包することが出来る。上限は三つまで。大きさは問わない。ブルドーザー三機だろうが飴玉三個だろうが変わらない。とにかく三個まで。


・魔法『愚魂乗取術』(ソウル・ジャック)

対象の魂を否応なしに奪い取る魔法。発動条件は手を叩く事。効果範囲は約半径二十五メートル。うん。普通にヤバい。

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