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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#158 天壮月光の夜:模倣

「私のショーのシナリオに・・・変更はない・・!」

 

 すると、シムビコートは自身の、メルの身体に装備している短剣を抜き放つ。飄々としていた奴も、とうとう臨戦態勢に入ったわけだ。

 そして意外なことに、奴は自分からこちらに向かってきた。本来逃げたいはずの怪盗が、追っている側へと迫ってくるのだ。


「・・・と、言いたかったが・・・よくもまぁここまで私のショーを無理やり書き換えてみせたものだ・・・!まったく、貴様らにもそうだが、それを許してしまった自分にも腹が立つ・・・!」

「知るか。さぁ始めるか!第何ラウンドだったっけぇ!?」


 迫ってくる乙女の皮を被った外道に向け、まずは景気づけに一発ストレート。もちろん躱された。

 ここまで対峙して感じたことは、奴の回避力についてだ。自画自賛みたいになるが、俺の攻撃は多分常人ではとらえることは難しいであろう速さで繰り出されていると思う。ここまでほとんど対人戦をしていない上に、数少ない対戦相手も規格外ばっかだったため指標がないが、まぁ少なくとも冒険者登録の時のBランク冒険者の・・・名前なんて言ったっけ・・・ダールタン・・ゴールドン・・忘れたけど、テストバトルの時やった人くらいなら、その気になれば文字通り瞬殺出来るくらいには速いはずだ。

 しかし、シムビコートはそのほとんどを躱す。実際、不意打ちのジャブ以外、俺は奴にしっかりと手ごたえを感じる攻撃を当てることが出来ていないのだ。


「なぁ、一回だけモロに食らってくれない?一回だけでいいからさ、顔面とか心臓あたりに。」

「ハハッ!英雄の雛は冗談が好きらしい!」


 喜怒哀楽の差が激しすぎるシムビコートによる剣戟の嵐が襲う。エンゲージフィールドで動体視力がかなり鍛えられたおかげで、『神の第六感』がなくともなんとか目が攻撃に追いついている。だがやはり早い。 一秒間に一体何十回突いたり斬ろうとしたりしているのだろうか。


「そんなに速さ比べをご所望なら、やってやろうじゃねぇか!」


 こっちの奥の手はまだ尽きちゃいない!見せてやるぜ()()()()・・・!


()()()()習得に勤しんだ数少ない戦闘法・・!さすがにあの時じゃ無理だったが・・・今なら出来る!」


 無論、試したことはない。だが、確信がある。

 そのシーンだけを、俺は何百回も見返した。時にはスローモーションで、一コマずつ見て動きを研究した。それらは、正直言って高校の授業の内容よりも頭に入っている・・・!

 イメージは完璧。あとはそれを実行に移すだけだ。


「飛竜連撃参の型・・!『点乱殻破(てんらんかくは)』ァ!!」




 飛竜連撃。

 それは、とある孤島に連れてこられた一人の青年が、仲間と共に己の肉体のみで過酷な環境を生き抜き、巨悪との激闘を繰り広げる東風谷(こちや)俊也(しゅんや)原作のサバイバル要素とバトル要素を組み合わせた作品、『ストレングス・サバイバーズ』に登場する架空の武術流派『ワイバーン流』の技の一つである。

 『一点集中堅壁(けんぺき)突破』を真髄とする『ワイバーン流』の代名詞とも呼べるこの飛竜連撃には壱から参までの型がある。それぞれが別系統の強みを持ち、シンプルな故に作中では完全な体得が難しいとされているのだ。

 求められるものは、壱は脚力、弐は集中力と判断力。そして参は、速さとスタミナ。




 俺は腰を落とし、低く構える。イメージは『2(ストレングス・)S(サバイバーズ)F(ファイティング)D(デュエル)』のスマートフォン版限定プレイアブルキャラクター、俺の持ちキャラであったコリキス。もうあの頃の俺ではない。完全にトレースして見せる・・・!


「うぉぉぉらあぁぁァァア!!!」

「クゥッ!?」


 俺が狙った部分は、シムビコートの右肩の関節部分。そこだけを見る。そこだけを狙う。そこだけに一点集中。ほかの事などどうだっていい。そこだけに意識を集中させるのだ。


(回避しているというのに・・なんだ?こいつの拳が追従してくるかのような・・・)


 これまでのどんな相手とも違う攻撃に、シムビコートはほんの少しの戸惑いを見せた。的確に右肩ばかり狙われ、それ以外にはまったく興味を示していないかのような集中の仕方。


「攻めるだけでは、何の意味もないッ!!」


 タクの七連撃目の最中、シムビコートの手中にあった短剣が、タクの右手首の真横を通過する。

 

「・・・・・・・」


 だが―――――


「うぐっ!?」


 切り落とされた手に目もくれず、タクは瞬時に再生した右拳でただシムビコートの右肩に攻撃を打ち込む。

九、十、十一・・・重点的に同じ箇所だけを狙う。たとえその部分が攻撃の途中で粉々になったとしても。

 十二、十三・・・


「貴様ッ・・・!!」

「させるか・・!」

「チィッ!!」


 身体全体を右回転で一時的に連撃から逃れたシムビコートは、何も持っていなかった左手には、いつの間にか英鎧騎士団の片手直剣が握られている。そしてそれをほとんどイカレた右肩にしか意識を向けていない目の前のタクへと振り下ろしたが、それを見ているゼローグが、ただそのままじっと突っ立っているわけもなく、その剣はシムビコートの手元から弾かれてしまった。

 左は無刀、右は振ることが叶わない短剣。明確な用途が攻撃の魔法を使えないシムビコートがこの一瞬の間にどうこう出来るはずもなく、結局さらにその右肩に攻撃を浴びる羽目になった。

 十四、十五、十六・・・

 ここまで、どれくらいの時間が経過したのか。答えは―――――まだ一秒も経っていない。である。

 それは作中のアニメの中で飛竜連撃参の型を用いて戦ったコリキスがその技に要する時間と全く同じように経過しており、その動き、意識の仕方、コリキスの細かな癖すらも完璧に模倣した動き。

 それを可能としているのは、タクの想像力、飛竜連撃という技の知識、そして作品への愛。


 十七・・・


「これがオイラの『点乱殻破』ッスゥゥゥウウッ!!!!!」


 技を完璧にコピーするために、そのキャラを知るために、動きだけでなく口調すらも真似る。


 そうして、彼はついに成しえた。己の中の一つの悲願を。真似しようとしては諦め、己の身体能力、いや、現実の人間の限界に嘆いた日々は決して無駄ではなかったのだと、この真剣な場面で彼は感じた。


 十八。


「っしゃあああああああ!!!!!」

「クソォォオオオッ!!!!!」


 その最後の一撃により、シムビコートの右肩は完全に砕け散った。腕はだらんと垂れており、もはや力を入れる事すら困難となった手からは、持っていた短剣が零れ落ちた。

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