#15 獣人殲滅戦線その九
「うらぁ!!!」
初見の小手調べといったところだが、まずはお決まりであろう真正面からの渾身の右ストレートを眼前の同種合成獣に打ち込んだ。現在の『身体能力強化』の出力は二十%。犬獣人程度なら蹂躙できる威力の攻撃を放てるが・・・。
「ガルルル・・・・」
キメラはそれを顔色一つ変えないかの如く片手であっさりと受け止めた。
流石に敵の大将格。そう簡単にはやられてくれないらしい。だがまだ想定内といったところだ。これであっさりとやられるのはこちらとしても拍子抜けだが、俺個人としては正直そっちのほうが良かった。何せこちとら今までろくに戦ったことなんてないのだから。
「チッ!・・・ちょっと上げるか・・『身体能力強化』三十%!」
二十%では歯が立たないと判断した俺は、すぐさま三十%へと出力を上げた。
現在のレベル、肉体強度では、三十%辺りから自身の肉体が悲鳴を上げ始める。だが、痛みという代償を払うことで、パワー、スピード等が先ほどよりも大幅に強化される。
ここではっきりと言っておくが、俺は今相当に痛みを我慢している。最も、元の世界も徴兵なんてものも無ければ戦闘訓練もしない日本の平和な現代社会。普通に暮らしているだけでは激痛になぞ慣れるようなことはない。
変な汗も少し流れているが、ここで何もしなければ倒し方もわからないままやられるだけ。文字通り死ぬ気で己に課したミッションをこなすのだ。
「ぐ・・・やってやるよチキショウ!」
俺は痛みを無視して同種合成獣の周囲を高速で駆け回りながら、隙を見て攻撃を挟んでいく。
自分でも爽快感があるが、痛みとそれによる精神的ダメージの方が大きいので何とも言えないが、幸い、少しはダメージが入っているようで、本当に少しではあるが、同種合成獣に見られた先ほどまでの余裕は少し消えた気がする。だがまだまだ俺の攻撃は奴にとっては軽い。
「三十五パァァァァ!!!!」
俺はさらに無理を承知で更に出力を引き上げた。
さっきよりは少し速さが増しただろうか。そのスピードで更に同種合成獣の周りを駆け回る。どうやら奴の目は俺を捉えられていないようだ。だが奴には視力以上に敏感な野生の勘があるようだ。俺が死角から攻撃を叩きこもうとしたが、奴は見もせずに裏拳を俺に直撃させた。
意識外の攻撃に反応が遅れた俺は防御の体制をとることができず、そのまま吹き飛ばされ付近の木に叩きつけられることになった。
「タク!」
「グフッッ・・ゴハッ・・・」
感じたほどない強烈な痛みに襲われ、俺はその場で悶える。骨は折れ、内臓も先程の衝撃で一部が破裂したようだ。吐血し、口の中を嫌な鉄の味が満たす。
普通ならとっくに死んでいるだろうが、レベルマックスの『自己回復』はありがたい事に健在なようで、死を免れるどころか、受けたダメージもみるみる回復している。
三十%以上で戦闘を行うのはこれが初めてだったが、しかし所詮はたかが五%程度の上昇。力は増すものの、それは全然足りない。
奴は他の獣人とは圧倒的に生物としての格が違う。どんな魔法を使えば狼獣人五体でこんな化け物を作れるというのだ。やはりあのカロナール。只者ではない。
「ガァアアグッ・・・!ハァァァァァァ四十ぅぅぅう!!!!!」
俺だってただ闇雲に無様な特攻を仕掛けているのではない。これは自分自身のトレーニングでもあるのだ。
俺は他の二人と比べて戦闘経験があまりにも少なすぎる。先ほどまでだってダリフが無双しまくってたせいで雑魚意外とろくに戦えていない。なので今経験として今後の糧とするため無謀な特攻を仕掛けているというわけだ。
これにより、コントロールできる出力、出力ごとの痛みの度合。速度、パワー等がある程度分かる。相当粗削りではあるが、実戦に勝る修行無しとか誰かが言っていた気がするのでそれだということにしておこう。
「グゥゥゥゥ・・・ッァァァァアアアア!!!!」
「グォォォォォォォォォォオオオオオ!!!!!!」
相手もただこちらの攻撃に対処しているだけではない。こちらの隙をついて攻撃を入れてくる。だがやはり先程よりは手ごたえもある。だが俺の連続攻撃についてきている。同種合成獣は筋肉量が多すぎるのか、スピードはそこまでだが、自身の腕を鞭のようにしならせて俺の攻撃に対応している。その際にバキバキと奴の骨の砕ける音がと聞こえる。おそらく骨がしなやかなわけではなく、自身の骨を毎回砕いて可動域を増やしているのだろう。だがそこは死体。一度鞭のように打ち込んだ直後に腕が治っている。俺が言うのも何だが、えげつない再生能力・・・いや、この場合修復能力といった方がいいだろうか。
「うおおおぉぉぉぉぉぉッッッりゃああああッッッ!!!!」
「ゴルオオッガアァァァァ!!!!!!」
その後も俺と同種合成獣の激しい打ち込み合いは続く。
ちなみに俺の戦闘パターンや戦い方は、元の世界での漫画やアニメを参考にしている。元の世界での妄想・・・もといイメージがこんなところで役に立つとは思わなかったが。結果オーライというやつだ。
そして、ここまでの戦闘で一分は経過している。あとは残り約二分でどこまでこの力にな慣れることができるのか?
同種合成獣のパワー、硬さなど、基本的な能力は少しずつ分かってきたが、他にもまだ何かがあるのだろうか?
この二分の中でもかなりの課題がある。待たせている二人のためにも、できる限りのことはやっておきたいところだ。
しかし・・・今更ながら、これと戦った際、二人は大丈夫だろうか?
二人の実力を甘く見ているわけではないが、もし先程俺が食らったような攻撃を二人が食らえば・・・
俺自身は『自己回復』と『無限スタミナ』を持っているため相当な無茶をしたところで問題はないが、アリヤとレリルドの場合そうはいかない。一発だけでも確実に致命傷だろう。
(だが・・・そんなこと言ってたら魔神なんて夢のまた夢なのも事実だ・・・・・ん?・・・)
俺は戦闘中にふと気になって二人を見る。俺の身を案じてか不安そうな顔をしているが、一歩も後ずさってなんかいない。それどころかここまで二人は俺の心配ばかり。
そういえば、この一分弱の間に、彼らは「無理だ」、「倒せない」なんて一言でも行っただろうか?
「・・・あ。」
そうだすっかり忘れてた。なぜ自分は二人を守ること前提で勝手に進めていたのだろう。二人は俺なんかよりもずっと強いじゃないか。
俺に関してはただスキルが強いだけ。ただ急に手に入れた力に酔いしれていただけだった。それに比べて二人は俺の何倍も今まで努力してきているだろう。よく考えなくとも、基礎体力、剣技、そして魔法。全て俺よりもはるかに上ではないか。
「ごめんアリヤ!レル!俺いらない心配してた!」
「え?きゅ、急にどうしたの?」
「何を心配していたんだろう?」
そう。何も心配はいらない。心配すべきは俺だけだ。力を試すだなんだと時間をもらって特攻し、体をぶっ壊すような脳筋的な考え。更には一切魔法を使えない。挙句の果てには昨日まで赤の他人、戦闘経験なしときた。一番にして唯一の問題児じゃないか。
「あと二分!あと二分だけ俺の我儘を許してくれ!俺は今から強くなる!」
「今からあ!?」
「やっぱり、面白いな。タクは。アリヤ!あと二分の内に臨戦態勢に入っておこう!」
「ええ!・・・疑似長期魔力蓄積!!」
二人は意識を集中させ、自身の魔力炉をエネルギーで満たす。
本来魔力とは、世界のエネルギーとも呼べるものを少しずつ体内に取り込むことで貯めていくものだが、空気中に存在する魔力を感じ取り、それを体内に存在する魔力の元『魔原子』を用いて体内に吸収することで魔力量の回復、蓄積が可能となる高等技術。これを使えるようになるにはかなりの実力が必要であり、かなりの、世界から見ても決して少なくない人々が住まうアリンテルドでも、使えるのは数十人といったところだろう。
え!?何そのかっこいいやつ!?
戦闘のあるゲームとかでよく見るかの有名なやつを目の前で実際に目の当たりにして、興奮を抑えるのに多少必死になってしまったが、俺は即座に思考を切り替えて同種合成獣を再び見据える。
「よし・・・!今は戦闘中だし、相手は今回の大物!試すには絶好の機会だ・・・・・!」
少し自分でも忘れかけていたが、俺にはまだ試したことのない奥の手がある。以前試したときは臨戦態勢以外で使えないと一蹴されたが、今回はそうとは言わせない!
「・・・『神の第六感』!!発動ッ!!!!!」
俺は同種合成獣に突っ込みながら、アルデンにもらった中でまだ試したことのない最後のスキルを発動させた。
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