#157 天壮月光の夜:武
ん?ちょっと待て、こいつ今カロナールって言ったか?カロナールって・・・あの変態のことだよな?間違いないよな?いやまぁ、今はどうでもいいか。
「さてシムビコート。自分のショーが思うように進まないことに苛立っているところ悪いが・・・俺もちょっとしたお披露目と行かせてもらおう。」
「おや・・?まだ隠し玉があるというのかい・・・?」
シムビコートの表情からは、先ほどと比べて確実に余裕が無くなってきている。そのまま大人しくお縄についてくれたらありがたいんだが・・・まぁ無理だろうな。やはり力尽くで取り押さえるしかあるまい。
「で?それは一体何だというんだい?」
「あぁ・・スキル付与だ・・・!」
「・・・・ふっ!」
「なんでそこで笑うんだよ!!」
なんだこいつ。神の力だとか、神話の武器を顕現させるだとか想像したんじゃないだろうな?「なんだたかがそんなことか。」みたいな反応しやがって!
「ハハハッ!冗談もほどほどにしなよ。君のことは他の奴らから聞いているよ。魔力炉を持たず、魔法が使えないのだろう?まさか、スキル付与の基本すら知らずに装備だけ整えたと言うのではないだろうね?」
シムビコートは完全に俺を馬鹿にするように笑う。急に先ほどまでの調子を取り戻したかのようだ。というかこいつ、絶対今俺の事舐めてるな・・・「英雄の雛ともあろうお方がそのようなこともご存じないのですかぁ?」と顔にハッキリ書かれている。
「・・・確かにな。だが・・・」
魔力を持たない俺でも、持っている物はある・・・!それは、魔力でなくとも俺の手の平からビームを放つことを可能とし、忍者でもない俺が自分の気配を完璧に消せるようになり、意味の分からんイカともやり合えるようにしてくれる物・・・!
そう。それすなわち闘気。この世界にきてからこれまで共に進んできた信用に足る俺自身の力・・・!
「新装備のお披露目だ・・・!とっくの前から着てるけどな!はあっ!!」
「・・・・・とんでもないな・・・」
気合を入れ、Sランク冒険者、ゼローグにもそう言わしめるほどの凄まじいオーラを放つ。
今までと全くと言っていいほど見た目は変わっていない俺の装備だが、装備魔修により、ただの服でしかなかったそれぞれは劇的な変貌を遂げていた―――――
―――――三日前、鍛冶屋。
「魔力ではなく、闘気を通すことで付与したスキルを使えるように・・・ですか?」
「はい。それならこいつにも付与されたスキルを扱えるようになるはずなんです!」
「こいつってなんだこいつって。」
だが確かに・・・それなら俺でもスキル付与付きの装備を扱える。ストーン・アーツのおかげで闘気の扱いに関してはかなり慣れてきている。
問題は店員さんがそれを実現可能であるかどうかだが・・・本来そんなことしなくてもこの世界の人間全員魔力路を持っているから問題ないはずなので、そんな技術普及していない方がおかしくないし・・・
「・・・なるほど。やったことはありませんが、私と手プロです!やりがいがありますね!」
「・・・ありがとうございますっ!!」
「マジすかよろしくお願いしますお姉さん!」
ありったけの感謝を述べ、待つこと約一時間・・・・・
「できましたよーっ!!」
「もうできたんですか!?」
「前代未聞の取り組みだったので、結構時間はかかっちゃいましたが。」
アリヤ曰く、装備一つに一個のスキルを付与するためには、本来一時間以上かかるとのことだった。もしかしなくとも天才の方ですか?
そうして出来上がった装備たちが、次のとおりである。
白インナー:『ビルドアップ・インサイド』(命名者:アキ・トトリオ)
付与スキル
布装備自動修復・武:付与された布装備に一定量以上の闘気を流し込むことで、破損、欠損した部位が修復される。
筋力増強・武:付与された装備に一定量以上の闘気を流し込むことで、装備者の筋力、筋繊維の耐久力をほんの少しずつ高める。高めた耐久力はスキル解除後も下がることがなく、再使用後も永続的に効果は続く。
半袖黒ジャケット:『黒狼の威吹』(命名者:アキ・トトリオ)
付与スキル
布装備自動修復・武:付与された布装備に一定量以上の闘気を流し込むことで、破損、欠損した部位が修復される。
長に捧ぐ威圧の咆哮・武:付与された装備に一定量以上の闘気を流し込むことで、装備者の放つオーラの圧力を高めると同時に、オーラを向けた相手が装備者から感じる精神的重圧を強くする。
超伸縮ジーンズ:『地風駆脚』(命名者:アキ・トトリオ)
付与スキル
布装備自動修復・武:付与された布装備に一定量以上の闘気を流し込むことで、破損、欠損した部位が修復される。
超次元機動支援・武:付与された装備に一定量以上の闘気を流し込むことで、装備者の走行、跳躍等の動きをサポート、平衡感覚の維持、着地、受け身を取った際の人体への衝撃を緩和する。
以上。計六つのスキルエンチャントを、修繕含めたったの一時間で組み込んでしまったのである。そうして、三つの名もなき服は名前を貰い受け、正真正銘の装備にへと昇華した。
ちなみに、黒い胸当てとロングブーツだが、
「うーん・・・この二つだけはどうしようもなさそうですね・・・なんというか・・付け入る隙が無いと言いますか・・・」
「付け入る隙?」
「はい・・・スキル付与も、スキルスロットの拡張も・・なんというか・・・やっちゃいけないような気がするんです・・・この装備がどんな力を秘めているのかは分かりかねますが、もしかすると呪いの装備の類、もしくは、とんでもない、人の域を超えた物であるのかもしれません・・・!」
とのことだ。正直服にスキル付与出来ただけでも十分だし、それに加えて破れても切られても元に戻るとか最高過ぎる。これで万が一のために着替えを買い込む必要もゼロになった。
「何はともあれ、本当にありがとうございました!」
「いえ、私の方もいい経験ができました!・・・あ、そういえば、お値段の方なんですが・・・・・」
手渡された領収書には、俺とアリヤが数分間絶句して宇宙を感じるほどの金額が表記されていた。モラウス首相・・・なんかごめんなさい・・・・・
「名付けて、『スキル付与・武』・・・!!魔力炉がない奴にだって人権はあるんだぜ・・・!」
「そんな奴はお前一人だろうがな。」
「はいそこうるさい!」
ほんっとに空気の読めない奴だまったく・・・
「何はともあれシムビコート!お前のショーの台本、俺が書き換えてやる・・・!」
皆さんお気付きでしょうが、アキ・トトリオというのはスキル付与・武を施した天才二種魔工職人お姉さんのことです。
ちなみに値段ですが、
レルのコートがアリヤの鎧の倍、今回の費用がレルのコートの十倍(修繕費用+スキル付与六つ分の費用+タク専用特別カスタム費用+税)です。やっば。