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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#155 天壮月光の夜:異形

当分更新する予定はなかったのですが、作者のモチベーションが0になるのが怖かったので更新します。ですが以前に比べて更新頻度はかなり下がります。気長にお付き合いいただきたいと共に、どうかご了承ください。

「・・レル、この人・・・」

「うん・・・もう戻る手段は無いと思う。シムビコート本人で同行できるようなものではない筈だ。」

「・・・ッ!!」


 アリヤ、そしてレリルドは激しい怒りを押し殺し冷静さを保ちつつも、それすら抑えられなくなってきている。

 レリルドは目の前でアグルダを殺され、アリヤは目の前でメルが身体を奪われた。後者はおそらくまだ死んではいないだろうが、シムビコートがその主導権を握っている以上、生きる屍のような状態になっていることは間違いない。


「さっきからどんどん大きくなってる・・これを野放しにしたら、ここら一帯の人間の中から死人が出る・・!」

「誰かが止めなければいけない・・つまり・・・()()()()()()・・・のね?」

「・・・・・うん。」


 目の前の異形がこれから起こすであろう暴走を止める。それはすなわち、相手がもう助からないであろうとはいえ、人を殺めるということ。

 シムビコートに魂を詰め込まれた肉体の元の人物の意識が残っているのかどうかは定かではないが、それでも事実が変わることは無い。

 二人は、そんな経験などしたことがない。

 クエストで臨時パーティを組んだ数多の冒険者の中に、討伐対象によって殺された者は存在した。人の死を身近に見てきた冒険者人生。それでも自らの手を汚したことは一度もない。


 だが、いつかは通る日が来るかもしれない。ある日、ダリフは二人にそう言った。

 先の大戦でそれを経験した男が発したその言葉には確実な重みがあり、その目はいつもはほとんど見せることのない真剣な眼差し。




「それは一生自分の中で消えない業になる。時に自分を苦しめ、死の淵へと追い込まれたときに要らない足枷になっちまうかもしれねぇ・・・この世界における冒険者ってのは、楽しく冒険してりゃあ良いってもんでもねぇんだ。まぁ、俺は冒険したいから冒険者になったんだがな。」




「いつかは通る道・・・来るのは相当先だと思っていたけれど・・まさかそれが今日なんてね・・・!」

「アリヤ・・・無理はしないで。」

「分かってるわ・・・行きましょうか・・・!」

 

 アリヤは鞘から、レリルドは虚無から剣を生み出し、それを強く握りしめる。シムビコートへ向けるもの全てを込めて、異形へと構える。




「おい・・あの二人本当にやるらしいぞ・・・!」

「まだ子供じゃない・・・!無茶よ!」

「でも・・何だろうな・・・この、見てる側の安心感は・・・・・」


 二人の放つオーラは、アリンテルドにいた以前から、そこらの大人を凌駕するようなものであった。エンゲージフィールドでの戦いを経て、それは更に質を一段階も二段階も増した。限界の殻を破った二人のそれは、まるで別人のように変化していたのだ・・・!


「オイオイ、ガキは大人しく見てな!金貨百枚は俺のもん・・・ひぃっ!?」

「兄貴・・・こいつら、ガキの目じゃねぇですぜ・・・」

「・・・・・加勢ならご自由に。私たちは金貨になんて興味ないので。」

「「はっ・・はいぃっ!!」」


 威勢の良かった冒険者も、齢十六の少女に気圧される。

 シムビコートが報酬を渡す条件として挙げたものは、『異形にとどめを刺した者』、そして『討伐に最も貢献した者』。何も一番強い者ではない。前者など、誰かが異形を虫の息にしたところでとどめを刺せばいいだけなのだ。参加した誰もが金貨を手に入れるチャンスがある。


 尤も、これに挑む実力が自分自身に備わっていれば、だが。

 男たちは悟った。この一瞬の間に。目の前の二人と、今も魔力を増幅させている異形を見て。

 これは、生半可な覚悟で挑んでいいようなものではない。そして、目の前の子供は、その覚悟を持っているのだと・・・


「・・・おい兄ちゃんら、俺はやらせてもらうぜ。こいつを野放しにしておくわけにはいかねぇ。安心しな、邪魔はしねぇよ・・・おい!見てるお前ら、戦いたくない奴らはさっさと逃げろ!それ以外の奴らは腹括って武器を取れ!若い奴らだけに任せておくのは、冒険者の名が廃るだろ!!」


 そんな中名乗りを上げたのは、数多いる冒険者の中の一人。槍を背に収めた大男。その声には、周りの人間を動かす力があった。

 群衆の約九割は、すぐにその場から逃げ出した。見たこともない化け物に挑む勇気がなかった者。人殺しのレッテルを貼られたくない者、威勢だけよかった愚か者などは瞬く間にその場から消えた。

 残りはそのまま残った。剣、槍、メイスなどを持つ近接系が三割、その他の弓、杖、支援系魔法士等が七割の構成。総勢約二千人。

 アリヤもレリルドも、正直こんな人数必要ない。何なら二人で十分だと、この時は思っていた。だが、その考えは数秒後に捨てざるを得なくなってしまう。


「グギュエルギュゴロロゲガギゲゲェェェ・・・!!!!!」

「っ!?」

「何か生えて・・いや・・・体の一部が伸びてる・・・!?」


 脈打つ粘土を粗雑に固めたような見た目としか形容できないその異形の身体から人の腕ほどの細さの線が全方向に伸びる。たちまち偉業はさながら雲丹のような形状になるが、伸びた線すらも脈が止まることは無く、結局はその不気味さが増しただけである。

 それは周囲に残った冒険者の頭上付近に余すことなく伸ばされ、そして・・・・・


 身体から何かが垂れた。


 何かに付着した水滴が地へと落ちるように、異形の伸ばした全ての線の至る所からそれは垂れた。


「うおっ!?なんだこれ!?」

「殺傷性のあるものではなさそうだが・・・」

「ねぇ・・・これ、なんか動いてない・・・?」


 集団の中の一人がそんなことを呟く。地に落ちた水滴擬きは確かに変わらず蠢いている。まるで、それ自体が石を持っているかのように。


「まさか・・・分裂!?」

「レル・・どうやら、二人じゃ骨が折れてたかもね・・・!」


 自分は冷静だと思っていたが、激情に身を任せ、敵の本来の実力を見誤っていたようだと、アリヤは心中でほんの少し反省する。

 その直後、水滴擬きは真の姿を現す。

 うねる水溜まりは一塊になり、最終的には、人型となった。

 しかしそれは、人型というには頭身がおかしかった。甘く見積もっても約三頭といったところだろうか。顔は愚か、手首、足首の部分は丸まっており、指が一切存在していない。文字通り人形のような姿。それが辺りに軽く百匹以上存在している。


「数なんて関係ないわ!こっちは、これを遥かに超える理不尽と最近戦ったばかりなんですから!」

「さっさと終わらせよう。なるべく被害を抑えたいね・・・!」


 アリヤは、レリルドは、その場の全ての冒険者は木を引き締め直し、見据える敵に向けて各々の武器を構える。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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