#153 天壮月光の夜:本格開演
「どういうことだ・・?ってことはメルさんがあの予告状から何まで全部仕組んでたってことか!?」
レルとアリヤがこちらに凄まじい勢いで駆け寄ってきたのですぐさま質問。正直聞きたいことが多すぎるが、まずは目の前の問題だ。
夜風で髪をなびかせる女性の姿は、間違いなく会議の時にいた彼女のものである。
「あれって・・・メル様・・・だよな?」
「英鎧騎士団の中でも屈指の実力者って聞くぞ・・・!」
「なんであんなとこいるんだ?シムビコートどこだよ?」
「「「うぉぉぉおおおおお!!!メルたそきちゃあああ!!!!!」」」
「・・・って、」
なんかまずい気がしてきた。あまりにも一般人が・・なんか変なのも混じってるが・・・とにかく多すぎる・・・!
仮にメルさんがシムビコートであったとして、いくら半径五百メートルあろうと何かしらの被害が出そうな気がする。
「いや、今はとにかく情報だ・・・!レルよろしく!!!」
「うん!まず、今シムビコートが見せている能力は三つ。一つ、物を魔力に変えて体内に吸収する魔法。骸骨騎士はすでにあいつが持ってる。二つ、自分を魔力に変えて相手に乗り移る魔法。メルさんはシムビコートに体を乗っ取られてるだけだ。」
「なるほど、何でもかんでも魔力に変えるのがお好きなようで・・・」
だがなんでわざわざ乗り移ったんだ?逃げるならそのまま逃げればいいものを。人質のつもりなのだろうか・・・?
「三つ、これに関しては僕もよく見てないけど、ちょっとだけメルさんに聞いた。人の魂を抜くような魔法・・・だったみたいだ。」
「魂を抜く?」
「もしかしたら、単に気絶させただけなのかもしれないけどね・・・とにかく、それの効果範囲は約二十五メートル。発動条件はおそらく奴が手を叩くことってメルさんが言ってた。」
「オッケー!助かった!」
情報は受け取った。後はやってみるのみだ。
俺はその場から一気に踏み込み、一瞬にしてメル・・・もといシムビコートの懐にまで潜り込む。先手必勝、男女平等。俺はシムビコートに向かって思いっきり拳を振り抜・・・くのは少し躊躇ってしまったので、そのまま取り押さえようとする。
「ぬうっ!?」
「開始早々お縄に付いとけよっ!!」
「ハハッ!私が捕まるのは、私がショーをやめた時。そしてショーをやめる時は、私が死ぬ時だ!!」
そう言いながらも初顔合わせのシムビコートは、俺の動きにしっかりと反応。そのままサイドステップで回避した。
「単なる飛び掛かりでは私を捕まえるなど無理に等し・・・ん?」
その瞬間、『闘気之幻影』発動。流石のシムビコートもキキョウほど気配を察知するのに長けているわけではないようで、奴の目の前から俺の存在感は完全に消え去った。それにより奴さんは急に顔つきが神妙になりやがった。
「ほう・・・気配が一瞬にして消えた・・・・・一体どこへ・・・」
「ここだよ。」
「おっと・・・!」
背後からこんにちは。どうも英雄(他称)です。
こういった絡め手は背後に回られることはお決まりだからだろうか?シムビコートは半分勘で俺の伸ばした腕を払いやがった。それにより少しバランスを崩したものの、すぐに態勢を整える。そうして、いよいよ本格的に奴と対峙する。
「凄まじいなぁ、君は。身体強化魔法の域を遥かに超えている・・・そこらの人間とは一線を画す存在のようだ・・・」
「他人の、しかも女の身体を乗っ取るって、随分悪趣味なんじゃねぇのか?」
「ふふふっ。ただの人間の倫理観に付き合うほど、私はお人好しではないのさ。」
天壮月光の夜特有の月光のおかげで、奴の顔が夜でもはっきりと視認できる・・・と言っても、結局それはメルの物であるのだが・・・
セミショートとセミロングの間くらいの長さのこげ茶色の髪に整った顔つき。正真正銘の英鎧騎士団の制服を身に纏い、腰には一本の短剣。身長は俺とほぼ同じだろうか?年は自分たちよりも上であるはずなのにどこか幼さを感じる彼女の顔は口角を上げ微笑んでいる。それは純粋無垢な少女の笑顔のようでその反面。貼り付けたような、何か裏を持ち合わせていそうな顔にも見える。
中身がシムビコートという悪党なのだから当然後者だろうが、それでも見知った人間をぶん殴るのは少し躊躇われる・・・・・
「ハァァァアアアッ!!!」
「おっと、また一人ステージに立とうと役者が舞台へと上がってきたか!」
「ゼローグ!?」
シムビコートが官邸の窓を破ってからかなりの時間が経過している。それに加えこの民衆の騒ぎようだ。流石に異変に気付いて飛んできたか。
すでに背中の剣を抜いており、左手には盾を装備している。完全なる臨戦状態で容赦なく自身の部下に斬りかかっていく光景は、どこか狂気を感じた・・・
結局その人たちはシムビコートに躱され、その後ゼローグはゆっくりと立ち上がる。
「・・・・・メル・・いやシムビコート・・・どういうことだ?」
「すまないね団長殿。しばらくの間、この麗しきお嬢さんの肉体を借りることにしたのだよ。」
「・・!なるほど。そういう感じか。」
「知らずに斬りかかったのかよ!?あんな何の躊躇いもなく!?自分の部下を!?」
「・・・もしもの時の覚悟はしている。だが、どうやらその時ではないようだな。」
なんかもう、俺はこいつが怖い。動揺の一切も見せず、何なら相手を見る前に斬りかかってなかったかこの男?
「タク、とどのつまり、シムビコートはメルの身体を乗っ取っているということだな?」
「あぁそれで合ってる。」
「よし。斬り捨てる。」
「人の心とかないんか!?」
いや落ち着け・・・今はこんなこと言ってる場合じゃない・・・
とりあえずメルの肉体からシムビコートを引っ張り出したいところだが、そんな方法知るわけがない。とりあえずダメージを与え続ければ憑依が解けるとかあり得るかもしれないが、その場合だとメルの方が心配だし・・このゼローグはもはや怒りからなのかふざけているのか知らんが斬ることしか頭になさそうだし・・・・・
「お二人とも、話し合っているところ申し訳ないが、一つ私からクイズを出題させていただこう。」
「ん?クイズ?」
「なんだ貴様、突然訳の分からないことを。」
「まぁまぁ。では・・・人の身体はただの入れ物。それらを動かしているのは、脳でも臓器でも、血液でも酸素でもない。魂だ。人一人に付きそれは一つ。それは絶対的な生物としての当たり前。ではここで問題。私は今、人間の魂を三千七百・・・いや、先ほどのも含め約五千か・・・その数は有している。それをもし・・・人間一人に全て注ぎ込んだらどうなるか・・・・・分かるかい?」
先ほどとは打って変わって醜悪な笑みを浮かべるシムビコート。その顔は実に嬉しそうで、まるで好いた相手を想う乙女のようにも見える。
そして少しの沈黙の後、その答えにいち早くたどり着いたのはゼローグだった。
「五千人の魂を・・・一人に・・・・・ッ!?まさか!?貴様!!!!!」
「サァ、タノシイショーガ、ハジマルヨ!」
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