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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
153/189

#151 天壮月光の夜:憑依

 直後、メルが動く。

 四十メートルはあったであろう距離を一瞬で潰し、シムビコートにへと肉薄。即座に首元へと短剣による初劇を放つ。

 予備動作が一切見られなかったそれに意表を突かれたシムビコートは少し反応が遅れたものの、それを上回る超反応を見せる。

 研ぎ澄まされた刃を皮一枚で躱し、そのままバク宙二回で距離を取る。着地度同時に腰を落とし剣を構えるも、すでにメルは眼前に迫っている。

 落ち着く間も与えない突き、斬撃、フェイント。メル自身の軽さ故に実現するスピードと女性ならではのしなやかさ。


「おっと!凄まじいなぁお嬢さん!」

「当たり前でしょ!ボクこれでも、一応隊長なんだよねっ!!」

「ふむ、人間は性別だけでは判断できないものだね・・・役としては申し分ない!ならば、その心意気に私も答えねばなるまい!!」

「それっ・・何の心意気なのっ!?」


 シムビコートは一旦身を翻して斬撃を躱したのち、メルに対し防戦一方だった奴は、バックステップから一気に前に向かって地を蹴る。腕を思いっきり伸ばし、奴の最大射程の刺突を放つ。


「甘いよ!!」

「んっ!?」


 メルは瞬き一切せずにそれを意識的にギリギリで躱す。そして腕が伸びきったシムビコートの袖を掴み、下から容赦なく膝蹴りを繰り出す。シムビコートの腕は肘が逆に折れ曲がり、そのまま右腕の自由を失った。


「ッ・・・!ッハハハハ!!!良い!!素晴らしい!!!先ほどまでの騎士とは別格ッ!実に良い!気に入った!!!」

 

 そんな絶望的な状況で、怪盗は高らかに笑った。メルも、メルが早すぎて戦闘に入るタイミングを逃したレルとアリヤも、戦闘の邪魔になるかとその場から動けなかった騎士団の面々も、理解ができなかった。何故その状況で笑えるのかが分からなかった。

 普段よりも明るさの増した月光が差し込む官邸の廊下で、終始少年のように、シムビコートはただひたすらに笑い続ける。


「・・・私は・・あなたに決めた・・・!」

「なっ、何を・・・?」


 シムビコートはそう言いながらメルに向かって左腕を掲げ人差し指をさす。一見すればプロポーズに聞こえなくもないその台詞に、メルはほんの少し困惑する。だがその間も、彼女がシムビコートに向けた怨恨と殺意が消えることは決してない。

 

「このショーのしばらくの間、私の()()()となっていただこう・・・!!」

「入れ・・物・・・?」

「・・・どういう意味・・?」

「分からない・・・いや待てよ・・・まさかっ!!!」

「・・・『憑依(ハイジャッカー)』!』


 一足先にシムビコートの力の片鱗を体感していたレリルドは気付いた。だが、それは少し、ほんの少しだけ遅かった。

 骸骨騎士や扉を魔力に変え取り込んでいたシムビコートであった。だがしかし、今度は()()()()を同系統の魔力として、己の意思でメルの肉体にへと取り込まれていく。


「っ・・!嫌っ・・!何それぇっ!?・・・・・」

「・・・め・・メルさん・・・?」

「・・・・・ふむ・・・思ったよりは馴染むではないか。」

「嘘・・・」


 それは一瞬だった。ほんの少しの静寂の後、その場にいた全員は深い絶望を叩きつけられることとなった。

 薄く微笑むメルの雰囲気は、いつもの英鎧騎士団三番隊隊長のそれとはまったくの別物であり、それはメルであってメルではないということは、他の誰から見ても明らかだった。


(・・・()()()のは、瞬間移動か何かだとも考えた・・・でもそんなのじゃなかった・・!)


 レリルドが脳内で言うさっきのというのは、もちろんシムビコートが披露した魔法。

 目の前から一瞬のうちにその姿を消し、意図も容易く背後を取る。そしてそのたった一瞬、()()()()()()()()()()()()()()()()。レリルドはようやっと気付いた。それは瞬間移動でも、対象の背後に立てる魔法でも何でもない。それは、身体を対象の身体を乗っ取る魔法であると。

 

(あれは背後に回っていたんじゃなくて、()()()()()()のか・・・!全く分からなかった・・いや、頭のどこかで、瞬間移動(それ)だと決めつけてしまっていた・・・!)


 それが、シムビコートがやってのけた芸当の種であった。

 あの時、まずシムビコートはレリルドの肉体に憑依、そして彼を伝い、それを解除。背中側から魔力を抜き肉体を再形成。憑依されている間の記憶が無いのであれば、あたかも一瞬で背後に回られたと思わせることが可能というわけだ。

 言うなれば、四方を壁に覆われた密室があるとして、それを脱出するために一旦壁と同化する。そしてそれを伝って外へと脱出する。といったようなイメージである。

 そしてその行為、はシンプルなように見えてかなりの技量が求められる。まずスキルとはいえ、自身を魔力に変換するなど明らかに人間業ではない。それがレリルドの中では少し引っかかっているが、実際にシムビコートはやってのけた。それを受け入れる他にない。


「なんて奴だ・・・!」

「人の道を外れてるわね・・・!」

「女性の身体を同行するのは少し気が引けるが・・・当分はこのままでもいいだろう。では諸君、運命が集いし時、また会おう。」


 そう言ったシムビコートは、メルの身体でそのまま廊下の大きな窓を体当たりで破り外へと出る。そして官邸の方へとすぐさま向き、大きく地を蹴り飛び上がった。それは人間から逸脱した凄まじい跳躍力であり、その速度も物凄いもので、あっという間に四階建ての校舎程はありそうな官邸の屋根にまでたどり着いた。

 優しく着地したのちに、シムビコートは再び後ろを振り返る。視界に堂々と移ったのは、黄金に輝く見事な月。官邸内で思っていた以上に時間をかけてしまっていたのか、すでにかなり上にへと昇ってしまっている。いや、それも想定内なのであろうか。目を輝かせる奴の表情は依然変わらない。

 シムビコートは手を大きく広げ、深呼吸する。月光に含まれる魔力を目一杯感じ、一人夢見心地に包まれる。奴の中を今駆け巡っているのは、幸福感だけであった。


「これが天壮月光の夜(ルナティック)・・・()()()見るが・・・これは想像よりも遥かに良いものだ。今宵は雲一つない・・・最高のステージだ・・・!」


 愉悦。それは、これから始まるショーを思っての物。正体不明の怪盗は、女騎士の姿で集まる民衆に向かい高らかに宣言する。


「皆!!よく集まってくれた!!!さぁ・・・この怪盗シムビコートが、これより最高のショーをお見せしよう!!!!!」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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