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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#149 天壮月光の夜:怪盗参上

―――そこから数時間後、官邸地下、宝物庫。


 この世界で最も明るい月の光すらも一切通すことのないこの空間では、一番近い距離で変わらず骸骨騎士の警護が行われていた。

 狙われている黒鋼の骸骨騎士には一切の変わりはなく、どこ怪しい場所が見られることは無い。

 レリルドはずっと疑問であった。シムビコートは一体どのようにしてこの厳重な警備を潜り抜け、骸骨騎士を盗もうとしているのだろうかと。

 自分では到底思いつかない。思いつきようがない。いくら官邸の警備を突破したとて、この宝物庫の鍵は、ゼローグたちスタードリアス家の人間の魔力のみ。そのほかの方法ではゼローグ曰く、魔法だろうが物理だろうが強行突破することなどできない。

 更に、扉と錠には相当複雑なスキル付与(エンチャント)が施されているそうで、それはゼローグ本人でさえ破壊できない程。つまり、大抵の人間にはそれは有効だということだ。


「今頃、おそらく『神光月波(ムーン・オーバー)』がそろそろ始まる頃だろうか・・・」

「「「「「・・・・・・・」」」」」


 アグルダが、突然皆に聞こえる声量でそう呟く。中には楽しみにしていたのに残念だという顔をした団員たちが見られ、一部の人間は涙すら流していた。きっと、誰かと一緒に月を見る約束をしていたのだろう。それは家族か、あるいは恋仲の者か。


「皆。数時間前の通達通りならば、もうそろそろシムビコートが何らかの方法で現れるはずだ。無論今でも信じられないが・・・とにかく、今は嘆いている暇はない。各時期を引き締め直して―――」

「諸君、ごきげんよう。今宵は、()()()良い夜だ。」

「「「「「!?」」」」」


 レリルドは目を見開いた。先ほどまでそこにいたアグルダ。そして、その周りに人間は固まっていなかったはずだ。

 それだというのに、いきなり彼の背後から、奴は現れたのだから。

 身長は百六十辺り、その服装は、()()()()()()()彿()()()()()スーツ。その色は濃い青。どちらかと言えばくらい印象をこちらへと与えてくる。同系色の中折れハットの下では濃い灰色の髪の童顔の男がニヤリと笑う。

 背筋が凍るような感覚に襲われる。自分より年上のように見えて、それでいて幼い少年かのような不気味さ。そしてその発するオーラは、()()()()()()()()()()()


「おっ・・お前がシムビコートか!?」

「いかにも。君のことは君たち三人が官邸に訪れた時からよく見ていたよ。自信に満ち溢れている良い表情をしていた・・・」

(ッ・・!?いつだ・・・?この三日間、こんな奴なんて見たことがない・・・!!こんな視線が向けられていたなら、普通気付くはずなのに・・・!?)


 少年のような声を持つシムビコートが言ったことは、おそらく真実なのだろう。レリルドには理解不能だったが、なぜかそのような確信を持つことは出来ていた。


「そして今宵、その慢心は崩れ去る。この私の手によってね・・・」

「んなっ!?っ・・・!骸骨騎士は渡さない!!!」


 既に背後を取られているアグルダは、シムビコートに向けてそう言い、自らの剣の柄を握らんとする。だがしかしその手は空を握り、その刀身がアグルダの意のままになることは無かった。


「遅い。」

「・・・・・コフッ・・・な・・・?」

「アグルダさん!!!!!」

「「「「「副団長ーーーッ!!!!!」」」」」


 その剣は、なぜかシムビコートが持っていた。アグルダは剣を腰に装備している。その位置からでは絶対に奪えない筈だというのに。だがシムビコートはスってみせたのだ。その場から、()()()()()()()()()

 アグルダの愛剣『栄光を追う剣(グローリィチェイサー)』は、この国一番の鍛冶職人の手によって作られた業物。その切れ味は、金属をも両断すると言われていた。

 そして、その圧倒的な切れ味が、今彼自身に毒牙をかけたのだ。剣は英鎧騎士団の頑強な鎧すらも容易に貫き、そのまま彼の心臓をも貫通した。


「・・・い・・いつの・・間に・・・?」

「君の()()はすでに終了した。さぁ。壇上からご退場いただこうか。」

「くっ・・・!・・せ・・・セラムに・・・栄光・・あれ・・・っ・・・・・」

「んな・・・あ・・・・・!」


 その場の誰の目から見ても、たった今、アグルダの生命活動が停止したことは明らかだった。

 レリルドは、これまでも人の死を間近で見てきた。共に討伐クエストを受けた冒険者たちだって、その何人もが命を落とした。自分だって、何回も死にかけた。

 冒険者という職業は、常に死と隣り合わせ。無論その覚悟をしてきているつもりであった。

 だがしかし、慣れるわけないのだ。人が、人の死に。

 力なく前のめりに倒れた誇り高き副団長の亡骸を明確に認識するまでに、一体どれ程の時間が経過しただろうか。実際にはほんの一瞬ではあるが、その一瞬がレリルドにはかなり長いものに感じられたのだ。


「それでは予告通り、黒鋼の骸骨騎士は経った今、この怪盗シムビコートが頂いた!!」


 シムビコートが骸骨騎士にかけられていた布をはぐ。自分でも初めて見る黒鋼の骸骨騎士の姿に、シムビコートは人知れず感嘆の声を漏らしていた。

 だがシムビコートには、いつまでもその感情に浸っている時間などない。直後冷静さを取り戻したシムビコートはそのまま骸骨騎士の頭部に振れる。


「『窃盗者之心得(スティール・マスター)』!!」


 シムビコートがそう唱えると、骸骨騎士を構成する物質という物質、その全てが、少しずつどす黒い魔力へと変換され、シムビコートの手に吸い込まれていく。

 そうして変換した魔力を全て吸い切ったシムビコートは、唖然とする周りの面々に告げる。


「目的は達せられた。それでは、ごきげんよう。」

「・・・・・待てよ・・・」

「む・・・?」

「・・・待てよぉぉぉおおおおおッ!!!!!」


 血気迫る表情で、レリルドはシムビコートに向かってスタートを切った。アグルダを殺し骸骨騎士を今にも奪い去ろうとしているシムビコートと、それを見ているだけで何も出来なかった自分への激しい怒りが、彼の身体パフォーマンスを飛躍的に上昇させる。

 すかさずレリルドは右手に片手剣、左手にベレッタM9を生成。右腕を突き出し、左腕を引く構えでシムビコートめがけて突進する。

 その間にも左の銃口は目の前の怪盗に向けられ、牽制の弾丸を放つ。


「おっと・・!見たことがない武器だ!面白い!」

「ハァァァアアアア!!!!!」


 逃げ道は銃撃によって塞いだ。もう離脱する時間などない。()った。そう思った。

 だが、レリルドが感じるはずの手ごたえが全くなかった。

 レリルドは、なぜか()()()()()()()()ような感覚に襲われる。そして気が付いたことには、彼の視界に奴はいなかった。


「素晴らしい。洗練された技術。磨けばさらに光る原石だ。」

「ッ!?」


 その声が聞こえたのは、レリルドの真後ろから。シムビコートは、余裕の表情でそこに立っていたのだ。


「だが、今は遊んでいる暇はない。観客たちが、私のショーを心待ちにしているのでね。」


 そう言うと、シムビコートは扉に向かって走り出す。

 

「逃がすかぁあ!!!」

「副団長の仇ィィイッ!!!」

「「「うおぉぉぉおおお!!!!!」」」

「フンッ。」


 多くの騎士団で構成された物量を目の前にしても、シムビコートの自身に満ち溢れた子供のような余裕の表情は全くと言っていいほど変化しない。

 

「「「「「・・・ッ!?」」」」」


 シムビコートから見て一番奥にいた騎士の背後をまたしても取る。何名もの騎士を、当たり前かのようにすり抜けたのだ。そしてシムビコートが立っている位置は、宝物庫の扉の目の前。

 その扉は本来、外側からも内側からも開けることなどできない。内側から空ける場合にも、スタードリアス家の魔力を持って扉を開けなければならないからだ。


「・・・・・『窃盗者之心得(スティール・マスター)』。」


 だがシムビコートは、誰も予想しなかった答えでそれを突破する。

 ・・・盗んだのだ。扉を、錠ごと。

 全てを骸骨騎士同様魔力へと変換して、そうして扉があった空間に広がった抜け道から、シムビコートは一気に階段を駆け上がる。


「クソッ!!クソォォォオオオオッ!!!シムビコォォォトォォオオオ!!!!!」


 レリルドはそれを自らの怒りのままに追いかける。常人には考えられないスピードで・・・・・

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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