#14 獣人殲滅戦線その八
―――やれやれ・・・。
デイモンドは心の中で深い溜息を吐いた。
ここまで堂々と無いなんて言われれば逆にすがすがしいが、非常事態ともいえるこの場での態度をあからさまに間違えている。だがそれと同時に、デイモンドはアールズがそこまでの無能ではないことも承知している。
「それで?実のところどうなんだ?」
「そーだねぇ・・僕の推測でしかないけど、あの魔獣はそもそも生きていない。」
「ほぅ?」
吐息、筋肉のしなり、デイモンドの中ではどうしても生きているとしか思えない。
「では、あれがすでに死んでいるとでもいうのか?」
「いや、そう言われると・・・なんて説明したらいいかな?・・・・ねぇデイモンド。あの魔獣、ピンポイントでどう考えても違和感しかないところがない?」
「ふむ・・・・」
デイモンドは、再び眼前の魔獣を見やる。強靭な肉体、鋼鉄のごとき爪や牙、そして桁外れのパワー。正直全てにおいて異質だが、獣人にはありえないような違和感があるとするならば・・・・・
「・・やはり・・・あのオーラか?」
「そう。いつもの犬獣人や極稀に見る狼獣人とかとは明らかにオーラの種類が違う。始めは合体による突然変異だと思ったけど、たとえそれでも急に獣人のオーラとは全く違う物になるのはおかしい。そこで考えてみたんだけど、アレ。少しだけ死体から発せられるオーラに似てるだろ?」
「確かにな。では作戦開始直前にお前と話していた嫌な感じの原因はあれか。」
「そーいうコト。」
この作戦が始まる数分前に、アールズとデイモンドは一度お互いに顔を出していたのだ。その時に獣人の数もだが、二人はそれ以上に獣人の気配になんか異質なものを感じたのだ。その際は二人とも気づくことはなかったが、その時の疑問がアールズによってたった今解消されたのだ。
「つまり、こいつとさっきまでの獣人すべては、誰かが用意しておいた死体を操って僕たちの街に攻め込もうとしてた。だが一個体を大量に用意したところで高い質の戦士達には勝てない。てなワケで死体を大量にくっつけて一体の強力な魔獣を生み出した・・・てのが僕の推測だ。さっき無理って言ったのは、死体だからそもそも殺せないって意味。なんでこんなに生きてると言って差し支えない程の細かな動きができてるのかまでは、正直サッパリだけどねー・・・」
「なるほど。・・・・・それが正解なのだとしたら・・・犯人は相当な外道だな。」
つまり、この魔獣は簡潔に言えば死体の集合体。壊れても修復され更には力も増幅するおまけ付き。どれだけ倒したところで相手を強化するだけで終わってしまう。
「となればこいつの元を叩けば何の問題も無いわけだが・・・こいつを放っておくわけにもいかんな。となれば・・・」
「「お頭達が何とかするまで。ここでこいつを足止めするッ!!!」」
「お、意見ぴったりだね。」
アールズがニヤリと笑う。それに対してデイモンドも気持ち程度の笑みを浮かべた。
「そうだな・・・決まりだ。行くぞ!!!」
ダリフ・ドマスレットは、二人の中で絶対的な信頼を誇る。故にデイモンドとアールズは自分たちの役目を果たすことだけに集中することができるのだ。
なるべくこれ以上パワーアップさせずにこの場で持ちこたえる。果たしてどれほどの時間戦うことになるのか分からなかったが、そんなことを考えている余裕はない。二人は再び武器を構え、不死の化け物へと挑む。
そこから数分後。
この特攻部隊とも言える四人組の最高戦力であるダリフが、後方の救援のために最前線から離脱した。緊急事態とは言え、敵のボスの目の前で迷わずにその判断ができるのは流石としか言いようがない。
見た感じ全く強そうに見えないカロナールだが、問題は間違いなくこいつではなく隣の同種合成獣なる巨大な獣人だろう。もしもカロナール一人で相当な実力者であれば、わざわざあれだけの数の暴力で街を落とそうとはしない筈だ。本体を叩けば文字通り全て解決だろうが、間違いなく同種合成獣がそれを許すはずがない。更にはカロナールを包み込むように半透明で薄紫の球体の形をした薄い壁(おそらくバリアのようなものだろう。)がいつの間にか存在している。なんにせよ、まずはキメラ。隙を見てカロナールへの攻撃も試してみよう。
「・・・それにしてもテストかー・・・言い出しっぺは俺だけど、いざ聞くと嫌な言葉だな・・・」
俺はそんな本音を小さく漏らす。
俺の世界でのテストは、もちろん受験に向けての予習等、対策などの意味もあるのだろうが、なぜあんな教科書になぞらえただけの問題で点数を競い合い、順位などを付け優劣をつけようとするのか。
教師陣は大人になったから人間として頭の悪い成績上位者が、それを良い事に他の者を見下すという悪循環を生み出しているということに気付かないのか。
それで下の者が対抗心を燃やして勉強するならまだいいが、大抵はそんなことはない。もし仮にいたとしても、そういった上位の者は自らの優越感のためマウントを取るため勉強を欠かすことがない。次第にやる気もそいつの好感度もどんどん減っていくわけだ。
そんなこんなで俺は学力維持、向上のためのテストは全て否定するわけではないがそういった人間性の面においては完全否定を中学時代から続けている。
そういえば、この話を親に冗談半分で話したら、「あんたひねくれ過ぎじゃない?」と突っ込まれたな・・・。
「ク・・・・・タク!作戦はどうする?」
「・・・おっと!そうだった!」
「なにボケっとしてるのよ!敵の目の前よ!?」
いかん、また考え事が脳内で脱線してしまった。俺の悪い癖だ。
「うーん・・・・・レル。アリヤ。五分・・いや三分でいい。一回俺一人でやってみていいか?」
「あれを一人で!?」
「あぁ。あいつがどれ程の力なのかを確かめてくる。二人は俺が戦ってるのをなるべく観察しててくれ。」
「む、無茶だよタク。あれは三人全員で戦った方がいい」
「でもアレの中身がわからない以上、闇雲に突撃するのは危険だと思う。それに、操られた死体ってことは、なんらかの攻撃パターンもあるかもしれないし。」
「でも・・・」
「なぁに心配すんな!俺、多分この世界じゃ不死身っぽいし。」
「「はい?」」
ニッと笑いながら発した俺の言葉に、アリヤとレルは頭に?マークを浮かべたような顔で反応した。
「そんじゃ、行ってくる!」
「あ!ちょっとタク!待ちなさい!」
そんなアリヤの忠告も聞かず、俺は同種合成獣へと向かっていく。
(普通に三人でかかっても歯が立たない程の敵なら二人を逃がす作戦で行くか・・・俺は体力が尽きることも無いしダメージも回復する。一か八か、少しでもこいつの本来の強さを。ほんの少しでもいい。とにかく暴き出す!)
俺は自らのスキルだけを頼りに、周りから見ればただの特攻にしか見えないプランを迷わず遂行する。
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