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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
149/189

#147 天壮月光の夜:回想

#129にて、あと三日って言ってんのに五日後警護を頼むみたいなこと言ってる意味の分からない文章があったので修正いたしました。困惑させてしまいすみません。


※総合評価が50ptを突破しました!いつもご覧いただきありがとうございます!今後ともよろしくお願いいたします!

と共に、今後の改善等に役立てていきたいので、まだの人は是非感想、評価もよろしくお願いします!!

「・・・さて、もうそろそろ・・・日が沈むな。」


 ゼローグは街の中心で建物の中へと沈んでいくかのような夕日を眺めていた。そしてそれは、この街の、いや、この国の人々全てが心待ちにしている()()()()()満月の夜が始まることを意味していた。本来であれば騎士団の面々も街中を見回りながら参加することが許されているのだが、運悪く変わらず厳戒態勢である。ゼローグは残念がりながらも、外に居られるだけまだ幸せだと思うことにする。役割、実力上自分を外に配置したのは仕方のない事だが、それでも未だ官邸内で気を張り詰めている部下の事を思うと少し申し訳なさがあった。


「だが、そうも言ってられない。あれほどの装備を身に纏ったあれが魔の手に落ちたのなら・・・悔やんでも悔やみきれない・・・天壮月光の夜(ルナティック)はまた十年後にやってくる。しかし盗まれた物は、待っていても絶対に手元に返ってくることは無いのだからな・・・」


 苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべながらも、ゼローグが臨戦態勢を解くことはない。すでに高め挙げられている集中力は、もはやいかなる異変をも察知する。そして未だ、その警戒網に何かが引っかかってくることはない。

 部下からの通達ではおそらく『神光月波(ムーン・オーバー)』の時間帯より少し前に襲われるとのことであった。それまではまだまだ時間があるが、油断大敵だ。相手が何者であれ、その本質は泥棒。悪党なのだ。その手紙が偽の情報である可能性も捨て去ってはいけない。


「さて、あれだけタク(あいつ)に大口叩いたんだ。やり通さないとな・・・!」


 ゼローグは、もちろんタク・アイザワという人間を毛嫌いしているわけではない。抱いているのは、己の劣等感。

 実力はこの世界でも最高峰のSランク、この国で自分に勝てる人間など一人として存在しておらず、自分もそれが当たり前だと思っていた。

 しかし、その認識は誤りであったのだ。それを自覚したのはおよそ十年程前、国際会議、交信魔法の映し出した一人の男の存在である。




「ゼラニオ殿!ご無沙汰しており・・・お?もしやお子さんですかい?」

「は、初めまして・・・(が、外国の人・・・・・なッ!?)」

「息子のゼローグだ。まだまだ若輩だが、きっとこのセラムを背負う人間になるだろう。」

「そりゃあ楽しみですな!ゼローグ!よろしくな!!」


 一見ただの気のいい男であるが、ゼローグ(じぶん)には、オーラの質が常人とは明らかに違うことが、魔法を介してでもなぜか伝わってきたのだ。直接会っているわけでもないのに感じる相当な威圧感。彼が本気で自分と敵対した時、果たしてどのようなものになるのだろうか。ゼローグは当時、驚きと共に畏怖に似た疑問を覚えた。




「ふッ!・・・ハアッ!!・・・まだまだぁっ!!!!!」

「ゼローグ様・・ゼラニオ首相もご心配なされております・・!一旦お休みを取られては・・・」

「駄目なんだ!!俺が!!俺がこの世界で一番強くなるんだ!!!」


 その後は鍛錬を欠かすことなど一度もなかった。英鎧騎士団の頂点に立ち、父ゼラニオからこの鎧を授かるまでも、その後の現在までも。




 それでも、エンゲージフィールドの怪物にはどうしても勝てなかった。


「おい・・聞いたか?あのクエスト・・・!」

「あぁ!だが・・・あんなの引き受けられる人間なんているのか・・・?」

「踏破不可能と言われているエンゲージフィールド・・・しかもその頂点に君臨する魔物の討伐だろ?普通に考えて無理だろ?」

「皆言ってるぜ?こんなの所詮金持ち共の道楽だってよ。」

「・・・・・・・」


 ある日いつものようにトポラの街の見回りをしている時、ふと冒険者たちがそのような話をしているのが耳に入った。冒険者が本業ではないゼローグだが、それでもグラーケン討伐という異例のクエストが出回った時には、腕試しがしたいと乗り気になった。


「確か、『異次元序列種』グラーケン・・・人類では到底超えることのできない強さを誇ると聞くが・・・・・もしそいつを仕留めたならば・・・!」


 自分は、誰よりも強い・・・!!




 だが、その考えはあまりにも甘かった。それもそのはず。その化け物は、自分が勝てないと本能で察した男ダリフですら敗走せざるを得なかったという話を、その後本人から聞いたからだ。


「くっ・・・っぁぁぁああああああああッッッ!!!!!」


 ゼローグは生還した日、自室にて酷く絶望した。それもそのはず。それまで築き上げてきた自尊心が一瞬にして崩壊したからだ。

 全く歯が立たなかったのだ。グラーケンだけではない。気が遠くなるほど多くの魔物の群れ、過酷な環境、そして相当な実力を誇っていたあの謎の魚人型の魔物。それらに、成す術もなく逃げてきたのだ。国を引っ張っていくはずのSランクの実力者が、だ。

 当然。誰もゼローグの事を責めることなど無かった。むしろ生還を喜ばれた。だがそれはゼローグからすれば、ひどく気持ちの悪い感覚であったのだ。

 だが数日前、とうとうそれが崩されたのだ。自分より年が下の、ぽっと出の謎が多い男によって。

 英雄の雛だろうが関係ない。自分は年下に負けたのだというあっけのない事実がゼローグに降りかかった。それは嫉妬か、あるいはそれ以外の物か。

 だが、そんな考えを改めるのに時間はかからなかった。強さを追い越されたのなら、追い越し返せばいいと。


(負けるわけにはいかない・・!たとえ相手が英雄足りえる男であったとしても・・・!年齢など関係ない・・あいつが俺など眼中になくとも、俺の一方的な対抗心であろうと関係ない・・・!俺は・・・まだ世界一を諦めたわけではない!!!)


 タクと張り合うことを決めたゼローグは、そんな現在までの記憶を思い返しながらも、今この瞬間に意識を更に集中させる。




「さぁ、そろそろ来るんじゃないか!?」

「いよいよだね!!」

「そう焦るな・・・お!来たか!ついに!!」

「あなたこそ焦りすぎですよお父さん・・・」

「パパー!なにがくるのー?」

「もうすぐ見えるさ・・・・・来た・・・!」

「・・・・・わああああああ!!!」


 そんな微笑ましい家族の一団の会話がどこからか聞こえてくる。

 ついに今宵、人々の前に現れた、あまりにも明るい何か。

 太陽と入れ替わって遠くの空から姿を現したのは、先ほどの夕日に引けを取らない、それでいて川のせせらぎのように穏やかな黄金の光。

 月自体は光を発さない。太陽から発せられている光を反射させているだけに過ぎないのだが、普段と違うのはその光の吸収率。

 普段月は先ほどの通り光を反射させている。だが今夜の月は、それと同時にその光を()()し、その吸収した光さえも即座に反射させた光と共に解き放つ。まだ明確な原理は解明されていないものの、通常の月光の数倍の光量、そして美しさを誇っている。

 いつもより一回りも二回りも大きく見えるその姿に、国民は息を呑み、そして魅了される。

 

 十年の時を経て、再び何度目か分からない夜の宴が幕を開けた・・・・・!

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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