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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#145 天壮月光の夜:緊急速報

「隊長があれだけはしゃいでいるのは久しぶりだな・・・」

「まぁ、女の子の団員は体調含めても百人くらいだからな。トポラには隊長だけだし、同性の子と一緒で嬉しいんだろ。」


 自分たちの隊長を眺めながら、団員たちはそんなことを呟く。

 いつもテンションは高めな方のメルだが、今日の彼女は団員から見てもいつもの三倍ほどのハイテンションだ。はしゃぎすぎて夜辺りに疲れていないかだけが、今彼らの中での問題となっている。

 肩にギリギリつかない程のこげ茶色の髪を揺らしながら同じか少し低い背丈のアリヤにくっついていく様は見ていてなんとも微笑ましい光景だが、言い方を変えれば『緊張感』の『き』の字もない。見ている男性陣まで気が緩んでしまいそうなほどに。


「そう言えばアリヤちゃん。あの一緒にいた男の子の・・・えぇっと・・髪の黒い方・・・」

「タクの事ですか?」

「そう!その子!めっちゃ強いらしいけど、ほんとに一人で大丈夫なのー?外の警護は団長と二人だけみたいだし、彼が我慢してるなら、ウチから何人か見繕って向かわせてあげても・・・」

「いえ、心配いりませんよ。」

「ほにゃ?」

(((((ほにゃ・・・?)))))


 独特な返しに困惑する一同の事なぞ知る由もないアリヤはそのまま続ける。ただ淡々と。しっかりメルの目を見ながら、少し口角を上げて。


「あいつは、私やレルなんかよりもずっと強いんですよ?そりゃもう嫉妬しちゃうくらいに。」

「そんなにぃ?」

「はい。なんせ、あの小父さ・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですから。」

「へ?嘘でしょお!?ダリフって言ったら、あの『修羅』・・・団長が自分よりも強いって言い続けてる人じゃん!?」

「ドマスレット・・・?誰だそれ?」

「さぁ・・・聞いたことないな・・・」

「団長より強い人間なんて存在するのか・・・?」

「え?」

 

 当然アリヤは困惑する。世界トップレベルの冒険者であるダリフ・ドマスレットという人物像が伝わっているのが、目の前のメルにだけだったからだ。

 辺りを見回せば、その全員が困惑したような顔をしながら誰だ誰だと会話している。更に、アリヤ個人としてはメルと一対一で話していたつもりだったのだが、なぜか会話に入っているかのような振る舞いをしている男性陣に対しても疑問を抱いた・・・・・


「あーー・・・ごめんね?()()()()()()でね?」

「・・・まぁ、普通はそうか・・・・・」


 ボソッと呟きながらも静かに納得せざるを得ない。

 本来この世界の人間のほとんどが入信している最高神アルデンを信仰する正式名称『全世界均衡アルデラ正教』、通称『アルデン教』。その教えの中には、「その国の民はその国の発展に力を注ぎ、その国と共に生きよ。」というものがあり、国の外に興味を持つこと自体が異端とされている。

 だが、生産している物に偏りが存在する関係上、他国との関わりがどうしても必要なのが現状である。「自身の国の更なる発展、安寧、そして進歩のため」という名目上で今は交易などを行っている。そういった点では案外緩く、異国の者に寛容な人間が僅かながら存在することも確かだ。

 そんなわけで、国際会議を何度も経験しているゼラニオ、ゼローグ、アグルダ、メル、その他複数の隊長はともかく、一般の兵士たちが他国の有名人を知らないのにはそういった理由があるのだ。


「・・・おほん。とにかく、そういうことなら大丈夫そうだね。というわけで、彼にはボクらが取り逃がしたときに身を粉にして動いてもらうことにしよう!」

「いや隊長、できればそのようなことがないようにしなければならないのですが・・・!?」

「万が一だよ。万が一!」


 そんなことを笑顔で口にしているメルだが、その眼差しは確かに「そのようなことがあってたまるか。」と言わんばかりにギラついている。その姿を見たアリヤの感想は、「獲物を見つけた時の猫みたい。」というものであったのだが、メル本人はそんなこと知る由もない。

 隊長に普段から振り回されていそうなツッコミを入れている団員の心労はどのようなものなのだろうかとアリヤが全く違うことを考え始めた頃・・・・・


「隊長ーーーッ!!!大変です!!!」

「んにゅ?」


ある一人の他の団員が、慌てた様子でメルの元へと全力疾走してきている。その焦りよう、汗の量は確実に走っただけではそうはならないことを示している。


「どうしたのさアラック?」

「それが・・!シムビコートの物と思わしき手紙が・・・!!壁に突き刺さっており・・・!!!」

「んなっ!?・・・なんで紙が壁に刺さるんだよぅ!?普通無理でしょ!?神業じゃん!!!」

「「「隊長!?そこじゃないです!!!!!」」」

(コントかな・・・?って、そんなこと思ってる場合じゃなさそうね・・・!)

「えぇっと・・なになに・・・・・」




 これを読んでいる騎士団諸君。私としたことが、大切なショーの時間をお伝えしていなかった。

 最上の頃、頂の灯を放ちし満月の見られる十年に一度の奇跡の瞬間。その頃にはすでに、『黒鋼の骸骨騎士』は大衆の目に映っているだろう。

 それでは、今夜相まみえることを楽しみにしている。


 怪盗シムビコート




「キザな文面!!アリヤちゃんもそう思うでしょ!?」

「は、はぁ・・・っそれよりも、早く他の場所の人達にも伝えないと!!」

「おっとそうだった。君!君は官邸を出て右の端っこ辺りにいるゼローグにこのことを知らせて!君はその間反対にいるタク君に!えぇっと・・・よし!君は宝物庫・・って、あそこは鍵がかかってるんだったっけ・・・まぁいいや!入口から大声で叫んどいて!!」

「「「了解!!!」」」


 メルの指示により、指名された三人は即座に動き出す。先ほどとは打って変わって真剣な表情になったメルは、緩んでいた気を己の頬を思いっきり叩いて引き締め直す。


「・・・よしっ!絶対捕まえるからね!!アリヤちゃん、皆!頑張ろう!!!」

「「「「「うぉぉおおおおお!!!!!」」」」」

「うおっ・・!?ぉ、おー!」


 メルからの不意打ちにやられた団員たちが、一斉にやる気に満ち溢れそれぞれが雄たけびを上げる。

 完全に出遅れ気の抜けた返事となってしまったアリヤだったが、その気合いは他の面々と変わらない。


(シムビコート・・随分舐めた真似をするじゃない・・・いいわ!やってやろうじゃない!!)

作者のイメージが膨らみ過ぎてしまった結果、ついにボクっ娘となってしまったメルさんでした。やったぜ!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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