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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#144 天壮月光の夜:警護開始

 ・・・のだが、ここで問題発生。いや、怪しい人も見当たらないし急にシムビコートが現れたわけでもない。単純に俺自身の問題だ・・・・・

 今俺がいるのは柵の端。近くに沢山人がいるエリアだ。

 俺は左を向く。ここでも変わらず街の人はワイワイと賑わっている。なんでも、今日はほとんどの店は強制的に休みなのだとか。それで子供だけではなく大人も昼間から本番の夜に向けてのんびりしているわけだ。

 俺は右を向く。遊ぶ子供、いちゃつくカップル、のんびり椅子に腰かけて談笑する老夫婦に謎の巨大な猛獣を連れた団た・・・おいちょっと待て最後のはおかしいだろ。

 急いで聞きに行けば、なんでも夜に開催するサーカスに出る動物たちなのだとか。いやそんなものまでやるのか・・・それを聞いてしまっては、俺の中の問題は更に加速して倍増してしまう。


「・・うん・・・!暇だ!!」


 半径五百メートルが全てフラットな更地というわけではない。ちゃんと建物もある。だがしかし、逆に言えばもはやそれしかない。

 ゼローグが言ったように、この範囲内の建物は全てがもぬけの殻。人っ子一人いない。そして当然のことなのだが、範囲内の目に見える場所には俺以外の人間は存在していない。ゼローグは間反対だし、話し相手の一人すらもいないのだ。


 この状態で十時間以上?マジすか?




「レリルド君、今日の調子はどうだい?」

「あ、はい!問題無いです!」


 宝物庫の中では、すでにレリルド、英鎧騎士団副団長アグルダ・バリロッグ、そしてその部下数人が待機していた。

 現状では特に何の問題もなく、関係者以外の人間は一人も見ることはない。

 

「本来であれば、数日前のように穴でも空けられない限り入口からしか入れないのだがな・・・まぁ、気を引き締めていこう。」

「はい・・・!(思ったよりも落ち着いている人だな・・・?)」


 身長が高く強面であるため偏見を抱いてしまっていたレリルドは静かに心の内で反省する。

 今現在唯一の扉はゼローグによって閉ざされており、中の人間は言い換えれば閉じ込められている状態だ。自発的に部屋を出ることは出来ず、部屋を抜けるには数日前の泥棒と同じく地上まで穴を掘るしかないのだが、現実的ではない。階段数百段分の人間が通れるサイズのトンネルを開通させなければならないのだから。

 そんな閉鎖空間だというのに、騎士団の人間は誰一人として顔色を少しも変えることがない。入ってきてから変わることなく真剣な眼差しで異変が無いかを入念に探している。おそらくは、こういった事態のために相当の訓練を積んでいるのだろう。


「そう言えばレリルド君。ずっと聞きたかったんだが・・・」

「はい?なんでしょうか?」

「その・・・彼、タクという男は一体何者なんだ?聞けば英雄の雛だそうだが・・・」

「あぁ・・・実は、僕もアリヤも、あいつのことはまだよく分かってないというか・・・」

「ん?どういうことだ?」


 アグルダからすれば、レリルドがそう答えたことについて疑問しか浮かんでこない。現に共に魔神討伐に向けて行動しているわけだし、よく分からないことは無いはずだろうと、そう思った。


「僕たちが初めてタクと出会ったのは、ほんの一か月前くらいなんです。僕はその時現場にいなくて、後からアリヤに聞いたんですけど、なんでもタクは僕の故郷の街付近、夜の平原にいたと。なので、別の世界から来た彼がどんなところで生まれて、どういう風に育ったのか、どういった人間なのかというのが、完全に分かっている訳じゃないんです・・・」

「・・・それはそうだろう。」

「・・・え?」


 アグルダの問いにそう答えたレリルドは、彼の思わぬ返しに少し困惑する。


「相手の事を百パーセント理解できる者がいるとすれば、そいつはもはや人間ではない。分からないことだってもちろんある。そしてそれは、きっと彼も同じだ。一人で知らぬ土地に飛ばされるという恐怖は尋常ではないものだろう・・・」

(・・・タクは全くそんなことなさそうだけど・・・・・)

「であらば、これからが重要だな。君たちの互いの信頼は、とても一か月程度の関係だとは思えない程に深く、そして強いようだ。その関係がこれからも続いたのならば、君たちはきっと、かけがえのない親友になれるだろう。数日前、少し顔を合わせただけの私が言うのもなんだが・・・仲間は、大事にしろよ。」

「はい。ありがとうございます!」


 レリルドの口から出たのは、アグルダに対する素直な感謝の言葉。アグルダのその言葉は、レリルドに何かしらのきっかけを生み出したのかもしれない。


「そう言えば、団長が勝てなかったグラーケンとか言うのを倒したらしいな?もしよければ、そのことについても聞かせてくれないか?」

「・・・はい!もちろんです!」

「副団長ーーーッ!少し気になったのですが・・・」


 二人の間に入ったのは、アグルダの部下である一人の騎士団員。変な意味などでは決してなく、純粋にいい感じの雰囲気を邪魔されたアグルダは、ほんの少し眉間にしわが寄るも、部下の疑問を蔑ろにするわけにもいかない。


「どうした?アブロッサ?」

「もしトイレに行きたくなった場合、どのようにすればいいのでしょうか?」

「あ・・・」

「「「「「・・・・・・・」」」」」


 その内容に、それについて一切考えていなかったこの場にいる全員はもれなく絶句した。




 片や一人呆然と、片や多少打ち解けながらもいろんな意味で途方に暮れている中、地上の官邸内でもすでに警備が張り巡らされていた。

 集められた人員のほとんどが建物内で警戒態勢に入っており、その死角は相当広い官邸内でもほとんどないに等しいと言っても過言ではないものだった。

 たった一人に対し厳重すぎる。あまりにも過剰だという意見も少なからず存在していたが、相手の狙いが狙いだ。盗まれてもし悪用されようものであれば、その被害も尋常ではないだろう。

 そしてその多くの人間の指揮を任されたのは、英鎧騎士団第三部隊長、メル・ハーレンツ。騎士団唯一の女性部隊長であり、力自慢の男どもを真正面から捻じ伏せこの地位まで上り詰めた若き実力者である。可憐な容姿とその技量でその人気は騎士団内外問わず、街ではひっそりとファンクラブも存在しているという噂まである。そんな彼女はその場にて・・・・・


「ねぇねぇ!アリヤちゃんだっけ?可愛い!!!しっかり者の女の子感が滲み出てるよ~!それに加えて相当強いらしいじゃん!?いや言わなくても分かるよ~~お姉さんアリヤちゃんのオーラを肌でしっかりと感じて・・・あ!自分でお姉さんとか言っちゃった!きゃはー!!」

「・・・・・・・」


 アリヤに白昼堂々だる絡みを決行していた・・・・・

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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