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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#143 天壮月光の夜:当日

 眠りにつき落ちた意識は、思わぬ喧騒によって覚醒した。

 シムビコートは恐らく満月が姿を現す夜に現れる。そのため前日にしっかりと休息を取っておくことにした。そのため書店から宿まで直帰して睡眠を優先したため食事も忘れてすぐさま個室で眠りについたのだが、中々よろしくない目覚め方をしてしまった。


「・・・うるっさ・・・・・」




「あ、おはようタク。ちゃんと眠れた?」

「睡眠時間的には問題ないけど、目覚めが最悪だ。」

「ついにお祭り当日だからね。この街の人も相当張り切ってるね・・・!」


 宿の窓から外を見てみると、多くの人がせっせと屋台を組み立てている。その光景は今見ている道の端から端まで続いており、汗水たらす人々の顔は皆揃って満面の笑みだ。

 ゼローグが言うには今日の天壮月光の夜(ルナティック)は夜からが本番だそうで、全員それまでに準備は全て済ませておきたい、といったところだろうか。

 こんなにも朝早く・・・というほど早朝でもないが、それでも朝だというのにも関わらずその活気は凄いものだ。道行く子供たちは大はしゃぎ、何なら大の大人も相当乗り気だ。もうすでに飲んだくれて出来上がっている奴もいる・・・


天壮月光の夜(ルナティック)は十年に一度らしいからね。大人の人たちも、一生に数えるほどしかないお祭りを精いっぱい楽しみたいんだろうね。」

「まぁ、そう言われればそうか。」


 元の世界の地元の夏祭り程度のものでは決してないのだろう。それに対する思いも規模も、それとは比べ物にならない。今回楽しめずに後悔しても、次もその次も、天壮月光の夜(ルナティック)がやってくるのは等しく十年後なのだから。


「よし。私たちも負けてられないわ!早く官邸に向かいましょう!」

「おう、朝飯食ってからな。」

「昨日食べるの忘れちゃってたしね。動くためのエネルギー分くらいは食べておかないと。」

「その場合俺達どんだけ食べなきゃいけないんだろうな?」

 

 バトル漫画の大食いキャラくらいは食べなきゃいけなさそうだ。少なくとも、この世界で太ることは絶対にないと確信できる。新体験、異世界バトルダイエット・・・誰がやるんだそれ・・・・・




「おはようございます、ゼローグさん。」

「あぁ、おはよう。早速だが、午前の間に今日の最終確認をしておきたい。また一昨日の部屋に先に言っておいてくれ。俺も招集をかけてから向かう。」

「おう。」


 こいつは常時鎧を身に着けているが、疲れないのだろうか?確か英鎧『アキレウス』・・だったか・・・?そんなものを身に纏いながら官邸の中を行ったり来たり・・・仕事熱心というかなんというか・・・疲れを一切見せない辺り、その点においては流石と言わざるを得ない。


「ゼローグさん・・朝からきびきびしてるわね・・・仕事の出来る人、って感じがするわ。」

「リーダーシップもあるし、流石一団のトップを担うだけのことはあるね。」

「・・・せっかくの祭り、ほんとはあいつも楽しみたいだろうに・・・・・」




 その後一昨日のように一つの場に集められた者達、今回は他の街から要請に応じた騎士団員も加えての今夜への最終調整が行われた。それは特に何もなく順調に話が進められ、特に意見のすれ違いなんかもなく平和的に終了した。

 

「・・・結局、シムビコートに関しての情報は全く出てこなかったな・・・」

「せめてどんな魔法を使えるのか分かればよかったのだけれど・・・手の内が分からない敵のままになっちゃったわね・・・」


 これといった情報も手掛かりも全くない。シムビコート本人も全く尻尾を見せる気配もなかったし、例の予告状とクエスト以外結局何も分からずじまいとなってしまった。

 あわよくば、このままただの悪戯であってほしいと思うばかりであるが、予告が来ている以上気を抜くわけにもいかない。さっさとこの一件を解決して、願わくば祭りに参加したい。というかそれが本音だ。


「祭りの屋台、一体どんなのがあるんだろうな・・・」

「タク、行けないのにそんなこと考えていても虚しいだけだよ?」

「レル、もう少し希望持たない?」


 大人は我慢しなくてはいけないとでも言いたげだが、生憎俺はまだ未成年なものでな。娯楽皆無の世界で祭りがあると聞けば行きたいに決まっているだろう。正直シムビコートが全く姿を現さないのであれば警護の途中にその近くの屋台見てやろうかと思ったほどだ。丁度官邸の外担当だし、その時ゼローグは建物の間反対だし。


「警護は確か昼を過ぎてからだったよな?」

「うん。あと三時間後くらいかな?」

「残されたタイムリミットは少ない・・・でもまだ店出てないし・・・」

「タク、時には諦めも肝心よ。」

「いやだぁ!ぼくおまつりいきたい!」

「子供かっての!!!」


 さて、流石にふざけ過ぎたか・・・とにかく冗談はこれくらいにしておいて、急いで軽く何か胃に入れておいて、指定の場所には早めに行っておこう。




「お前の担当はこの辺りだな。」

「今更だが、半径五百メートルって中々広いよな。」

「動きやすいだろ?」

「あぁ。物凄く。」


 そこから数時間後、所定の位置に案内され、俺とゼローグは短く言葉を交わす。

 官邸の周り半径五百メートルにはぐるっと一周知らない間に杭と細長い布で構成された簡素な柵が建てられており、関係者以外はその全てが柵の外だ。その範囲内にある建物の中には普通に住宅も存在していたが、騎士団が事前に手を打っていたらしく、その民家、店、その他諸々の人間は金と別の居住スペースを用意して退出してもらっているそうな。これで正真正銘、好き放題暴れても何も問題ないわけだ。

 それにしても・・・今から最長明日の夜明けまでここにて待機とは・・・数日前似たようなことをしているからまぁ慣れたもんだが、それでも結構キツい事には変わりない。ゼローグ曰く、「俺も同じだ。文句を言うな。」だそうで。


「好き放題出来る条件は整えてやったんだ。それ相応の働きはしてもらうぞ。」

「・・・・・おう。『カースウォーリアーズ』だろうが『ケラウノス』だろうがそれ以外だろうが、約束通り、骸骨騎士は絶対シムビコートなんかに奪わせたりはしない。任せとけ!」


 俺がニヤリと笑いそう言うと、ゼローグもほんの少し口角を上げ、やる気のある表情を見せる。


「俺の方は気にするな。お前はただ、全力でやればいい。何かあったら叫んで呼べ。声が聞こえなかったら後は知らん。」

「いやそれは駄目だろ!?」


 何はともあれ、とにかく今日俺に課せられた警護任務が今始まった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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