#142 ギャング討伐報酬
「あんたら、本当にありがとうねぇ。少しばかりの礼だ。好きな本を選びな!タダでくれてやるわい!」
「え!?いいんですか!?」
「ありがとうございます!!」
「いや、追い払ったの俺なんですけど・・・」
君たち何もしてないよな・・・?
「はっは!構んよ構んよ!若いうちに沢山本を読んどきなさい。」
「お婆ちゃ・・祖母もこう言っておりますので、是非是非。もう欲しい本があるのでしたらお探ししますが・・・?」
気前が良い上に親切とは、本当に抜け目のない凄まじいサービス精神だ。これは客が多いのも納得だ。
ギャングがいなくなったその後は少し経った今も平和な時間がこの空間に流れている。皆変わりなく本を楽しそうに読んでいるようだ。
さて、欲しい本か・・・魔法の本は使えないから論外として、戦い方の本・・?いや、そもそもそれもほとんどが武器と魔法を用いたものだ。拳法みたいなものは無さそうだし、絵本は貰ったところでって感じだし・・・・・
「「これお願いします!」」
「いや早っ。」
迷いがなさすぎる!?というかある程度目をつけていたな貴様ら!?
アリヤは先ほど見ていた剣術に関する本。レルは言わずもがな武器がたくさん載っていそうな表紙の本だ。
「剣がお好きなんですね。私は戦闘はからっきしなのであれですが・・・魔法も回復魔法が少し使える程度で・・・」
「大好きです!刀身の輝き、持った時の感触!重み!その全てに良さがあってその中でも様々な違いが・・・」
「いや落ち着け。」
非戦闘者を沼に引きずり込もうとするのはやめなさい。
俺は流石に即決というわけにはいかなかったので、とりあえず広い店内の中を見て回る。
無言で他の客と沢山すれ違いながらもいろんな本を見て回る。お、『戦闘中における体の動かし方』とか結構いいかもしれない。いや・・武器持ちメインか・・・?こういう時に中身を見れるのはとてもありがたい。
ページをめくってみると、そこには意外と受け身やら筋肉の使い方とか、中々参考になりそうな物も載っていた。これで決定でもいいかもしれないが、他にも本は山ほどある。もうちょっと見て回ってもいいだろう。レルとアリヤもすでに読書スペースで熟読を始めてしまっていることだし。あのギャング共を英鎧騎士団に引き渡したときにも特に何も言われなかったため最新情報も会議もないだろうし。
他にも参考書に歴史の本、辞典にレシピ本、画集もある。品ぞろえは本当に元の世界の書店のようだが、まぁ流石にアニメ情報誌とかは無い。
そうして店を隅々まで見て回ること約一時間。選んだ本をカウンターにいるクリスの元へと持っていく。
「じゃあ、これをお願いします。」
「これは・・・『ジョンとジョン』・・・?」
なんだかんだ、結局これに落ち着いた。
強くなるのであれば先ほどの体の動かし方の本などの方が間違いなく参考になる。だがこういう時は、もう自分の中の「これが欲しい。」といった思いに正直になった方が良いのだ。
そうして選んだのは昨日官邸の図書館で見つけた『ジョンとジョン』。昨日は時間がそこまであったわけではなかったのでざっくりとしか見れなかった部分もある。ずっとあの図書館に籠って読むわけにもいかないし、『アイテムストレージ』があるから旅の荷物もかさばらないし、セラムを出た後もじっくり読み返すことが出来る。他にも名作が色々とあるのかもしれないが、一番はずれのない選択肢はやはりこれだろう。
「私も好きなんですよ、この作品。あったかいお話で、ページをめくるたびにワクワクした思い出があります。」
「へぇ、クリスさんもこれを。昨日別の場所でこの本を見かけましてね。自分用でちょうどほしかったんですよ。」
「すごくいいと思います!本との出会いは一期一会、気に入ったと思った時にじっくり読むのが一番ですしね!」
そういうクリスの目はとてもキラキラしており、その瞳からは本当に本が好きなのだなと感じさせられる。
というわけでいただいた本をすぐさま『アイテムストレージ』へとしまい・・・流石にこのまま何も買わないわけにもいかないので、先ほどの『戦闘中における体の動かし方』含む数冊をしっかりと購入させていただいた。こちらのお代も構いませんよと言われたが、流石に気が引けてしまうのでちゃんと代金は向こうに受け取ってもらった。
「さてと・・今日のところはひとまずこの辺りで・・・おーいお前ら!一旦帰るぞ!」
「・・・ってうわっ!もう日が暮れ始めてる!?」
「随分読み耽っちゃってたわね。」
「ふふっ。お二人とも凄い集中力でしたね!」
「「「ありがとうございました!!」」」
「こちらこそ!よければまた来てくださいね!」
クリスに店の前で見送られながら、俺たちは今現在滞在している宿への帰路を進み始めた。
「・・・それにしても、結局何者だったんだろう?あの子たち・・・」
「さぁな。ここらでは見ない顔やったしな・・・だが、並みの冒険者ではないことは確かだね。」
タクたちが書店を後にした数時間後、営業をすべて終えて一息ついた二人は、昼間突然訪れて店の抱えていた問題を一瞬で解決した彼について考えていた。
相当な強さ、スピード。しかも店の本に気を使いながら動いてあれなのだ。彼が本気で戦うとなると、一体どれ程の強さなのだろうか。
「しかも相当若かったね。クリス。あんたよりも年は下なんじゃないかい?」
「うん。多分そうだと思う。」
クリスは今現在十八の年。女性にしては結構高い身長である自分よりも少し背は低かった。まだ子供っぽい部分も見られたし、確実に成人はしていない様子であった。
あの彼だけではない。一緒にいた二人もおそらく相当な実力を有しているとクリスは感じていた。
その理由は装備。二人のそれも、素人目で分かるほどのオーラを放っていた。特にあの少女の剣。クリスから、いや誰の目から見ても相当使い込まれた代物であるようだったそれからは、何か特別なものを感じた。
「・・・名前・・聞きそびれちゃった・・・・・」
「ひひっ、クリス・・・あんたあの子に惚れたのかい?」
「んなっ・・・!?そっ!?そそそんなんじゃないよ!!!」
「顔が真っ赤じゃないか?いやぁ、若いねぇっ!」
「~~~ッ・・・!!」
クリスは無意識に熱くなってしまった頬に両手を当て、そのまま店を飛び出して夜風に当たる・・・・・
そうして瞬く間に夜は過ぎてゆき、天壮月光の夜当日はとうとう訪れる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
いいね、ブックマーク、評価、感想等、お待ちしております!