#140 独自調査の結果
―――そして翌日の・・・昼・・・・・
「くっそ・・・結局何もなかった・・・」
「だろうね・・・」
「まぁ、そんなに事が上手く運ぶわけがないわよね・・・」
朝一番にセラムの冒険者協会に殴り込み・・・とまではいかないが、独自調査に行ったわけだが、結果はお察しの通りだ。
受付にまっすぐ向かって「シムビコートの張り紙についてご伺いしたいことが・・・」的な感じで言ったんだが、あっさり拒否された。「そちらの件についてのご説明は致しかねます。それは我がセラム冒険者協会とは一切の無関係でございます故。」とのこと。
そこから印の時点で関係が無いわけがないのだがと数分間あーだこーだ言っていると、奥から何やら重役のようなおじさんが出てきたのでゼローグからの依頼で来ましたと適当にはぐらかしてなんとか話を聞くことが出来たが、それも焼け石に水。結局シムビコート関連の情報は得ることが出来なかった。
そこからは冒険者カードを出せだの、出したら出したでアリンテルドのやつだから大騒ぎになるだの・・・『進化之石板』見せてギリギリ流出は免れたが・・・
「にしても危なかった・・・」
「結局異端であることに変わりはないから最後職員全員に険しい顔で見られたし・・・」
「もうあそこには行けないわね・・・」
「「「はぁ~~~・・・・・」」」
結局のところ無駄足、それどころか余計に疲れただけだった・・・
「・・・本物の『進化之石板』、なんだろうな。あの冒険者・・・あれが少し噂で聞いた英雄の雛という奴なのか?」
「でしょうな。しかし一度も冒険者カードを更新されてなさそうだったのにBランク。実力も相当なものなんでしょう。」
タクたちが協会を後にしたのち、嵐が過ぎ去ったような気分でそれぞれが話し合う。
外国からの訪問者など冒険者協会からすれば前代未聞の事件であったため、衝撃で腰を抜かす者まで存在していた。自ら異端となってまで世界を救おうという気概は凄いものだが、魔神を倒すなど無理に決まっていると一蹴する者も中にはまた存在していた。
「あれが英雄の雛本人で間違いないのなら、ゼローグ殿から派遣されてきたというあれも事実・・・?」
「いや、昨日ゼローグ殿にはこちらは無関係だと伝えました。おそらくですが、彼らの独断ではないのかと・・・」
「そうか・・・だがひとまず・・助かった・・・・・」
協会の重役たちは皆合わせて安堵する。
実のところ、怪盗シムビコートは本当に協会とは全く無関係の人物である。
あの張り紙もシムビコート自身が製作した物であり、そこに職員の誰かが介入したわけでも決してないのだ。ただこうして安堵する理由は、協会の面子の問題である。
インクを偽装、または盗まれ、それを街中の至る所で使用されたと知られようものなら、それはもうただの恥だ。かと言って、協会の人間が実際に審査を行ったわけではない。
結局取った行動は、拒否すること。何を聞かれても、何を言われてもシムビコートに関しては一切口出しをしない。それが悪手であることを重々承知とし、下手なことを言って現在以上に所属する冒険者の信頼を損ねぬよう努めることであった。
そして結果冒険者たちは、多少の疑問、不満を抱えながらも、いつも通り依頼を受け、そして協会の建物を利用している。
冒険者からすれば、協会は仲介役。依頼主と冒険者を繋ぐ立役者であり、同時に手厚いサポートを行う良きパートナーである。協会がなければ生活すらままならないため多少の事なら特に気にならないのだが、セラム冒険者協会の会長はあまりにも小心者であった。
会長、ロル・バーツはその手腕、信頼から実力で協会のトップにまで上り詰めた男なのだが、その性格はあまりにも臆病で、かつ人の目を気にし過ぎていた。
「しかし・・これからなんと言われることか・・・結局そのシムビコートとか言う子悪党が、何かしらの方法でインクを盗んだということだろう?一般人の手には届かないよう厳重に保管しているというのに・・・これが首相にばれたら・・・あぁ・・・辞任する手続きを・・・後継も決めなければ・・・・・!」
「落ち着いてください会長!そんなことにはなりませんよ!?」
「というか、無関係って言っちゃったし、もう盗まれたという事実は知れ渡ってると思いますが・・・」
「あぁぁぁ・・確かに・・・・・」
「おいこら!余計なこと言うな!!」
年甲斐にもなく絶望するロルを宥める職員たち。そして彼らに心労をかけてしまったという事実がまたしてもロルを絶望させる・・・
「皆すまない・・・やはり私はトップの器ではない・・・早く新しい後継を選ばなくてはぁ・・・!」
「いやあなたいないと協会の仕事回らないですって!!」
「とにかく一旦落ち着きましょう?ね?」
「すまないぃぃぃっ・・・・・」
会長のネガティブタイムはここからしばらく続くこととなった・・・・・
「むぐむぐ・・・ほぉふっかな(どうすっかな)・・・」
「やるほほはふはっはっはへ(やることなくなっちゃったね)・・・」
「ほひあへふ、はんへぇひほほひはひょうは(とりあえず、官邸にもどりましょうか)?」
歩いている途中見つけた屋台で見つけた焼き魚串を頬張りながら相談を始める。
骸骨騎士の警護は明日なわけで、このままこのままゼローグからの招集がなければあと半日は暇になるわけだし、せっかくだから知らない街を探索するのも良いかということに。まぁ戦ってばかりだったから、たまにはこういうのも良いだろう。
「・・・っふぅ。そういえば俺、どっか行きたがってたような・・・?」
「というか、この街って何か有名な物とかあるのかしら?屋台くらいしか思いつかないけど・・・」
「明日はお祭りみたいだし、店の数もこれより増えるだろうね・・・下手すれば倍以上立ち並ぶかも・・・!」
「それ聞いたら食べ歩きしたくなるではないかレリルド君・・・」
何故そんな日に限って犯行に及ぼうと思ったのか怪盗シムビコート。恨むぞ怪盗シムビコート。食べ物の恨みの恐ろしさを骨の髄にまで刻みつけてやろうか・・・?
「まぁいいか・・さ、どこ行こうか・・・?」
「あ、タク、昨日本がどうとか言ってなかった?」
「あ!それだ!アリヤナイス!!」
そうだった。この世界の本屋に行きたかったんだ。図書館があるのだ。街に書店の一つや二つあってもおかしくはないだろう。
「そう言えば、異世界の本屋っていうくらいだから、魔導書とかあんのかな?」
「魔導書なんて、言ってしまえば国宝のような物なんだよ?本屋なんかにあるわけないじゃないか?」
「じゃあレル、お前が持っているアレは何だ。」
「僕の宝物だね。」
「国宝所有してる一般人ってお前・・・」
この世界の魔導書がそんなにレアな物だとは知らなかったが、とにかく予定は決まった!二人には少し悪いが、俺の我儘を聞いてもらうことにしよう。
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