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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#138 輝きは確かに至る所で

 天壮月光の夜(ルナティック)まで残り二日になったこの頃。ある一人の男も変わらず動き続けていた。

 シンプル、故にダイナミックな二部構成。全ては成功の約束されたショーの完成度を更に高めるため。

 成功するかどうかの懸念?そんなものは必要ない。いかなるものも、心配すれど状況が変わるわけではない。心の持ちよう程度なら変化するであろうが、根本的なものには何の影響もない。するだけ無駄というものである。重要なのは本番のみ。どうすれば失敗しないかではなく、どうすればより祭りを盛り上げることが出来るかということに思考力を回すべきだ。


 集客、パフォーマー集めの方はかなり上々。偽造したインパクト重視のクエストの張り紙は思った以上の効果を見せており、このトポラの街の内外関係なしに噂を聞きつけた者達が着々と集まりつつある。「天壮月光の夜(ルナティック)の日に開催される大きな祭り」ではなく、「怪盗シムビコートの一夜限りのショー」目当ての人間が増えているのだ。


 未だ姿を見せぬ怪盗は静かにその口角を上げ、街ゆく人々を眺める。

 堂々と闊歩する命たちは、まだまだ輝きが足りない。命の、魂の輝きは、死を持ってより完璧な物へと昇華する。そしてそれは多ければ多いほど、その輝きを更に増す。単体とは比べ物にならないくらいに。


 輝きの集約、その先に何があるのか。純粋無垢な怪盗はそんなことに思いを馳せる。

 まだ見ぬ黒き骸骨、一体どのような見た目をしているのか。好奇心旺盛な怪盗はそんなことに思いを馳せる。

 ショーの盛り上がり、歓喜が怨嗟へと変貌する様、それはどんなに美しい事かと、イカれた怪盗はそんなことに思いを馳せる。


 奇術士は魔術士はあらず。特に、この世界では。

 人為的に何もない場所から炎を起こし、水を流し、風を吹かせる世界。神の奇跡とも呼べるであろうそれを人々が見慣れている世界。そんな世界に生まれた一人の怪盗が巻き起こすショーとは、いかなるものなのであろうか・・・・・






「では、当日のプランを一通りもう一度説明する。今度は更に細かくだ。」


 図書館を出てゼローグの元へと訪れた俺たちは、すでにあらかじめ勝手にプランを作成していたこいつの話を一通り聞いた。今この部屋にいるのは俺たち三人とゼローグ、ゼラニオに英鎧騎士団の人間数名。おそらく騎士団の中でも上の人たちなのだろう。それと官邸の職員も数名いる。いよいよ本当に場違い感が凄い・・・


「まず、天壮月光の夜(ルナティック)当日、この官邸の半径五百メートルは一般人進入禁止とする。本来であれば官邸前で首相の御挨拶があるが、事態が事態だ。中止もやむをえまい。街の人たちには、違う形で祭りを楽しんでいただくことにしよう。そして当日の警護を大まかに三つに分ける。まず宝物庫内。英鎧俺の隊の俺以外の全員、そして騎士団副団長アグルダの隊と・・・魔神討伐特別部隊レリルド・シーバレード。」

「「「「「はい!!!」」」」」

「・・・はい!」


 なぜ俺達魔神討伐パーティがこんな仰々しい呼称なのだろうか?まぁちゃんとした場だからなのだろうが。というか、特別部隊とかなんかかっこいいのだが。なんかスパイ感ある。


「選出理由だが、まず皆しての通り、宝物庫は数百人も入れるスペースは無い。本当であればもう少し配置したいが、いざというとき味方同士が詰まって防衛力が半減する恐れがある。通路の幅がそこまで狭いというわけでもないが、戦闘となれば話は別だろう。無理なく動けるほどの人員で固めるのが先決だ。そしてレリルドだが、今日午前中にある程度聞いたそれぞれの戦闘スタイル・・・それを加味したうえで、三人の中で彼が最も適任だと判断した。」


 何でも、レルの生成、特に『夜空之宝石(カーメルタザイト)』だろうが、絶対無敵レベルの頑強な盾、しかもサイズの変更も可能になっているのだから、いざというときの汎用性は俺たちの中でも一番だろう。まぁ俺は宝物庫ぶっ壊しかねないし、アリヤは宝物庫燃やしかねないし。消去法でもレルだろう。


「次に官邸内だが、俺以外の先ほど呼ばれなかった英鎧騎士団全員と、魔神討伐特別部隊、アリヤ・ノバルファーマ。」

「「「「「はい!!!」」」」」

「はいっ!」

「官邸内は広い。警備は多く、そして全体に行き渡らせた方が良いだろう。今トポラにいる騎士団は約千人。これでも問題は無いとも思ってしまうが、油断はできない。相手は正体不明、能力不明、更に大量の人間を自身が発行したクエストで集めている。ただの愉快犯、迷惑行為の類の輩にしては行動力がありすぎる。予告が嘘という考えも捨てた方が良さそうだ。あと、クエストに関しては朝冒険者協会の方に尋ねてみたが、完全にシムビコートの偽造工作だということが明らかになっている。コピー不可能のインクをどうやって偽造したかまでは分かってはいないようだが、とにかく、今回の件は協会の方は無関係だと言っている。それは頭に入れておいてくれ・・・おっと、話がずれたな。失礼。とにかく、他の街の騎士団にも要請し、明後日には三千人程度にまでは人間が集まるはずだ。総指揮は第三部隊長メルに任せる。」

「了解いたしました!」

「アリヤ、この官邸は完全防火仕様だ。いざというときは思う存分暴れてくれて構わん。

「はい!ありがとうございます!!」


 完全防火仕様と聞いた瞬間のアリヤの目が一瞬にして輝きを増したように感じたのは俺だけだろうか・・・あ、レルも苦笑いしてる。あ、ゼローグも少し顔が引きつってる。頑張れ司会進行。


「ん゛っんっ・・・・・そして最後・・・官邸の外だが・・・俺とタク。以上だ。」

「・・・さっきから聞きたかったんだが・・・なんでお前と二人なんだ!?もうちょっと人いてもいいだろ!?外だし!?あと紹介雑っ!?」


 もし仮に宝物庫、そして官邸を突破されたとして、そこにいるのが二人じゃどうしようもないのではないのか!?


「まぁ落ち着け、今から説明する・・・まず、非常に認めたくはないがお前は俺と同等の強さを持っている。つまり、他のSランクと同等の評価をお前に付けている。」


 ゼローグ本人から発せられたその言葉に、この場のほぼ全員がざわつく。この性格だ。ゼローグが冗談を言うような人間ではないことは俺以上に知っているのだろう。様々な疑問の声がゼローグと俺に向けられるが、ゼローグは気にせずに続ける・・・慣れてるな・・・・・


「俺もお前も、全力を出せば官邸を崩壊させかねない・・・これは分かっているな?」

「お・・おう・・・」

「ならば、必然的に外になる。そして他に人員を配置すれば、仮に俺たちが暴れたとして、巻き込まれる人間はたまったものではないだろう?」

「・・・確かに。異論はない。」

「俺たちが全力を出せ、尚且つ最も被害が少ない方法だ。そして当日、この官邸を中心として対角の位置に俺とお前が付く。異論は無いか?」

「・・・・・まぁ、無い。」

「よし、これでお前の方が取り逃がしたら存分に罵詈雑言を吐いてやる。」

「性格わっる!?なんだそれ!?お前が逃がしたらどうなるんだよ!?」

「そんなことはありえない。」

「よく言えるなそんなこと淡々と!?」


 そうしててんやわんやありつつも、作戦会議はゼローグの独走を挟みつつではあるが割と順調に進む。

 ちなみにここまで人前ではっちゃけているゼローグを見るのは皆初めてだったようで、困惑している者がほとんどだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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