#137 小説みたいな世界の小説
息の詰まりそうな空間からようやく解放された。俺は安堵と共に、深いため息を吐く。
言っていた通り、おそらくゼローグは午前中は仕事だろうし、それまで何をしたものか・・・
「建物の中歩き回ってたら迷惑だろうしなぁ。」
「皆仕事中だからね。」
それに、こんなところで軽々しく探検などと言って実行してしまえば、ほぼ間違いなく迷う。別に方向音痴というまでではないだろうが、広さが広さだ。油断していたらすぐに迷いかねない。
それにしてもやっぱり官邸っぽくはないというか、本当に神殿みたいな建物だ。
そこまで日本の官邸に詳しいわけでもないのだが、何かの記事で写真を見た感じではまぁなんというか、現代っぽい見た目に豪華で綺麗な印象が強い。
それに対しこちらは豪華の種類が違う。壁や天井に様々な装飾がなされており、その全てが砂岩によって作られている。たくさん窓があるため遺跡っぽさはあまりないともいえるが、それでも拭えない・・・いや拭う必要も無いのだが、漂う神聖な雰囲気。アルデンではないにしろ、神様の一人や二人いるのではないだろうか?
「じゃあどうしましょうか?少なくともあと二、三時間くらいはありそうだけど。」
「そう言えば、ここに来る途中に大きな図書館を見かけたんだけど・・・!入っても大丈夫かな!?」
「テンション高っ!?入る気しかねぇだろお前!?」
スーパーで知ってるアニメの曲が流れた時の俺みたいなテンションでレルがそう問うてきた。
流石に勝手に入るのはまずかろうということで近くにいる人に尋ねたのだが、どうやら誰でも入室可能ということであったので暇つぶしがてら向かってみることにした。
「でも、図書館では静かにするのよ?あそこの司書、怒るととっても怖いから。」
「「「はーい。」」」
いや小学生かて。
「広い・・・!ヴォルト城の大書庫とどっちが広いかしら?」
「どうだろう・・・こっちも相当の数だけど、ヴォルト城の方が数は多かったかな。」
「よくそんなぱっと見で分かるな・・・」
図書館に入るや否や、超小声でそんなことを呟く俺達。
蔵書の数は流石この国のトップが集う場ということか、とんでもない量だ。俺はヴォルト城の大書庫を見たことがないため何とも言えないが、少なくとも学校の図書室の何倍もの本が存在するのは間違いない。
「・・・で、何の本を読むんだ?」
「武器の本。」
「剣術の本。」
「ほんっっっとにブレないなお前ら・・・・・」
本当にそれしか頭にないのかと少し心配になってくる。地下洞窟の時も食事に関してあまり気にしていない様子だったし、俺が来る前とか本当に何も食べない日があったのではと考えてしまう。
「・・・・・ラノベないかな・・・?」
俺は異世界に来てまで人類の英知と夢と希望とロマンとその他諸々が詰まった数多の神が作り上げた奇跡の書物通称ライトノベルを探している。現実がラノベみたいになっているのにも関わらず、だ。
いくら現実がそうであろうと、読みたいものはしょうがない。英雄のおとぎ話があるのだ。そういった創作物があってもおかしくない・・・
「・・・いや、現実で魔法があるんだから創作もなにもないか・・・・・」
この世界では、実体験すら魔法が関わってくる。とりあえずファンタジー系の作品は無い・・・いや、一般小説がすでにラノベと化している・・・!?
「とりあえずここら辺の・・・まぁこれでいいか。」
俺が手に取ったのは、題名『ロガッタ兄弟の毎日散歩日和』。なんか子供向けコーナーに並んでいた小説・・・児童文庫というやつだろうか。イラストが妙にリアルの人間よりだったので思わず手に取ってしまった。
のんびり散歩しているロガッタ兄弟、弟のガガスが石に躓いたかと思いきや風魔法で一時的に宙に浮いてそこから見事に着地。兄のロロスはそれを見て何やら興奮している。
そのまま歩き続け夜になり・・・え?まだ散歩してんのこいつら?なんかのトレーニング?
・・・今度はロロスが炎魔法で松明に火を灯し、ガガスはそれに大興奮。二人はウキウキで夜の森を闊歩する・・・
「いやなんだこれ?」
弟の華麗なる着地を見て感慨深くなる兄ロロスはまだ超ギリギリ滅茶苦茶頑張って分からんでもない。だが火見て大興奮とか放火魔の才能しかないわガガスよ。
えぇい次だ次。今度は子供向けじゃない奴を探そう。図書館の奥辺りを探してみるか。
「これはどうだ・・・?」
題名『鬼神の如き夜』。名前だけならなんかかなり当たりっぽいぞ・・・!?
最強の男が今宵も牙を剝き、数多の女性と熱いひと時を交わす壮大な・・・・・官能小説じゃねーか!!!?
駄目だろ図書館に置いたら!!何考えてんだ奥とはいえこんな分かりやすい場所に!!!次だ次!!!
題名『ジョンとジョン』。少年ジョンと捨てられた子犬ジョン。同じ名を持つ人と犬の種族を越えた友情の物語。
これに関しては普通に良かった。『鬼神の如き夜』の隣に並んでいたとは思えない程の名作だった。
物語の途中で離ればなれになってしまうジョンとジョン。だが二人は再開を諦めず、いくつもの国を渡って数年後に再開するシーンは泣ける。街の本屋で見つけたら普通に買お・・・
「てかマジでなんで『鬼神の如き夜』の横に置いてあるんだ・・・?」
これこそ人目の突きやすい場所に置かれるべきだと本気で思う。さっきの・・・何だっけ?ブラコンと放火魔のワクワク深夜徘徊日和だっけ?なんかそんな感じのやつだったような気が・・・まぁあってるだろ!とにかく、そんなのよりこっちの方が子供に人気あるって絶対。もう断言する。
思わぬ名作に出会いテンションが上がったところで他の物も見てみよう。とりあえず『ジョンとジョン』で創作系は満足したから料理本を探すことに。
こちらはちゃんとしたのがたくさんあった。と言ってもこの国の郷土料理とか名物とかがほとんどであったが。やはり異端がどうのこうのいうだけあって、異国の料理に関しては一切存在していなかった。それでもこの国だけでも色々あって、これはこれで見ていて面白い。中には魔法を用いた調理法などもあるようで、異世界ならではのトンデモ料理なんかもあった。まぁ魔法使えないからそれらは作れんが。
「タク、そろそろ時間だよ。」
「え?随分早いな?」
「なんだかんだ言ってタクもかなり読み込んでたわね。」
本というのはあっという間に時間が解ける。これまでほとんど娯楽がなかったこの世界では猶更だ。シムビコートの一件が終わったらすぐさま本屋に入り浸るのも悪くないかもしれない・・・今日時間があったら探してみるか・・・
「時間は指定されてないけど、早く行っておいて損はないよね。」
「あ、お昼ご飯・・・まぁいっか!」
「そういうとこだぞアリヤさん。」
食事 とても 大事。
この図書館にあるのか・・・!?『全世界カルボナーラ大戦』が・・・!?(ありそうで結局ありません。)
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