#136 本物は骸骨の元にあり
まぁ、簡単に説明するとこうだ。
黒鋼の骸骨騎士は「黒鋼の装備の骸骨」ではなく、「ゼローグよりもやばい装備を付けた黒鋼で作られた骸骨」だったわけだ・・・どういうことだ・・・?
その黒鋼、正式名称『ネグロスチール』というこれはどうも特殊な金属であるようで、大昔に呪いの儀式で使われていた際から一切傷が付いておらず、その漆黒の金属光沢は当時のままを保っているそう。とにかく耐久性と希少価値が高く、この黒鋼を用いた武具はそれ一つで家が建つほどの価格になるらしい。
それだけなら、『黒鋼の骸骨』とかならまだよかった。だが問題はまだ続く。
まずこいつの剣。
名称『ヴァルカヌスの剣』。刀身の赤い片手直剣で、かつて広大なセラムを一人で統一したとされる英雄イーリアスの愛剣。その刃は地をいともたやすく断ち切り、それを防ぐことのできる盾はセラムにあるとすれば一つしかないであろうと言われているそうな。
それが骸骨騎士のもう一つの装備、『ヘファイアの円盾』だ。
名前の通り円形の盾であり、こちらは水色。大盾ほどのサイズは無く、片手で容易に扱える者であるためその汎用性は高い。
武具としてのランクは「ヴァルカヌスの剣』よりも高いようで、その防御力は超一級品。まごうことなき国の宝と呼べる域に達しており、今もなお大切に宝物庫の中で眠っているのだとか。
そして最もやばいもの、言うまでもない。創鎧『ホメーロス』と呼称されていた黒い骸骨がその身に纏うフルプレートアーマー。と言っても、ゼローグ同様頭の部分は無く、その顔が隠れることは無いのだが。
そのデザインはゼローグの英鎧『アキレウス』と全くと言っていいほど・・・いや、ちょっとだけ違うか・・?とにかく、ほとんど変わらないデザインで、大きく違う点があるとするならば、そのカラーリングだろう。
ゼローグのは真っ青、それに比べこちらの鎧はくすんだ白。純白が少し汚れたような色合い。これがデフォルトなのか、あるいは磨かれていないだけかは分からない。
これに関してもイーリアスが身に着けていた物の現物であるらしく、少なくとも数百年前の代物らしい。それにしては全くと言っていいほど錆びておらず、傷もほとんどついていない。鍛冶屋に売られていた防具とほぼ大差ない位の綺麗さをずっと保っているということなのだろうか。
あと今更なのだが、神の名を冠する武器とは一体何なのだろうか・・・?とレルに聞いたら、意気揚々と説明してくれた。
それはこの世界に七つ存在すると言われている伝説級の代物であり、現在見つかっているのは六つ。ダリフの持つ大剣も、正式名称を剛天『阿修羅』とかいうらしいそのうちの一つで、ゼローグの『アキレウス』と同等の代物なのだとか。道理で初めてゼローグの鎧を見たとき、ダリフのそれと同じような雰囲気を感じたわけだ。
そして、これを扱えるのはSランク級の実力者のみであり、現在は一つの国に付き一つのそれが存在しているという。
「っていうか、なんでゼローグは本物を使わないんだ?」
「・・・使わないんじゃない。使えないんだ。」
「え・・・?」
何故だ?大昔とはいえ、伝説の代物。見た目もきれいだし、はっきり言って全然使えそうだし、何なら模造品よりは確実に強い気もするが・・・
「装備自体は使える。問題は、俺の技量だ。」
「技量って・・一体どういうことですか?」
「そのままの意味だ。俺はこの鎧も、そして剣も盾も扱えるほどの域に達していない。今の俺がこれを身に付ければ、逆にこの装備達に食われてしまう・・・いや、この剣と盾だけであれば、もしかすれば何とかなるかもしれない・・・だが、この創鎧『ホメーロス』・・・これは多分人間の扱えるように作られた代物ではない・・・実際に体験した方が早いか・・・誰でもいい。この鎧に触れてみてくれ。そうすれば、俺の言っている意味も分かるだろう。」
「・・・・・じ、じゃあ私が・・・!」
少しの沈黙の末、一番最初に名乗りを上げたのはアリヤだった。俺もレルも特に異論はないので、このまま任せてみる。
そうして、アリヤは手をゆっくりと鎧に近づける。その手はどこか怯えているようにも見え、緊張感がこちらにも伝わってくるようだ。そして手が触れた瞬間―――
「があぁぁっぁぁあああッ!?」
「!?」
「アリヤ!?」
「・・・・・」
突然の叫びが宝物庫に響き渡る。すぐさま手を引いたアリヤは、その場で膝から崩れ落ちる。その顔は笑顔でも絶望の表情でもなく、ほんのちょっと驚いた、とでも言わんばかりのような表情。
「あ、アリヤ・・?どうしたの・・・?」
「・・・何か見えた。それが何なのかは分からない・・けど・・・ただただ壮大な何か・・・空の果てのような、あるいは海の底のような・・・あるいは世界そのものみたいな・・・・・」
「どういうことだ・・・?」
「いや、アリヤの言おうとしていることはなんとなく分かる。俺もそのように感じたからな。」
なんだ?触れた者にしか分からない的なアレか?宗教的なアレか?触れればご加護があります的な・・・いやだいぶ逸れたな・・・
だがそこまで言われて気にならない奴なんていない。神の名を冠する武器・・・この世界ではまさしく神器のようなものなのだろう。そしてそれを手にした者は・・・いや、扱える者は、まさにこの世界での最強レベル。と言っても、ダリフの印象が強すぎてあの域とまで行くとも思えないが、それほどの力を手に入れることが出来るのであろう。というか、マジでダリフがおかしい。あの模擬戦の時も本気とか言っときながら何か隠してそうだったし、後から聞いた話だと、クルーシュスもダリフに追い詰められたそうな。ゼローグも含め俺が対峙したSランク級の人間は三人になるが、未だに俺の中での最強ランキングというものの一位は変動することがない。まぁ生物単体で見たならグラーケンも相当なものであったが、まぁあいつは人間でもないからとりあえず除外だ。
とにかく、どんなものが見えるのか気になって仕方がない。そう思った俺は、何のためらいもなくその鎧に触れ・・・・・
「ゼローグ様、ゼラニオ首相がお呼びでございます。」
「む・・そうか・・・皆すまない。ひとまずこれにて終了だ。黒鋼の骸骨騎士がどのような物かはある程度分かってもらえただろう。明後日についての打ち合わせは午後に行う。それまでは自由にしていてくれ。」
「・・・・・・・」
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