#135 楽しい(?)宝物庫見学
薄暗い石レンガに囲まれた道をひたすらに降りていく。
そこに向かうほどに気温はどんどん下がっているようで、半袖では少し肌寒い。そして何百段あったのか分からない程の道のりを抜けると、その先に待っていたのは見るからに頑強な錠のされた金属製の扉。
「逆に昨日のあいつら、よくこの中に入れたな・・・」
「昨日中で調査したが、人一人分の大きさの穴が外にまで繋がっていた。だが魔法で掘ったならば痕跡が残る。おそらく相当の年月をかけて掘ったのだろう。自分たちの手で。何故その熱意を仕事に向けなかったのかは謎だが。」
そこまでの苦労の末、待っていたのは死刑か。全く、悪いことはするものではない。
「ゼローグさん、錠の鍵は?」
「無い。」
「無い!?無いってどういうことなんですか!?」
「こういうことだ。」
そう言うと、ゼローグはヘッドホンくらいのサイズがありそうな錠に手を触れ軽く握る。
そして相変わらずの真顔、だがその雰囲気はいたって真剣であり、握る力を強める手から錠へと、彼の魔力が送られる。
そして、ガチャリ、と辺り全体に響き渡った音は、宝物庫の鍵が開かれたことを俺達三人に伝える。
「・・・・・開いたわね・・・」
「結局それってどうやったら開くんだ?」
「・・・この錠には特殊な加工がなされていてな。スタードリアス家の者の魔力を流すことでしか開くことがない。つまり、この国でこれを開けられるのは、俺と俺の両親、あと祖母くらいか。」
「ってことは、シムビコートがこの扉を正面突破するのは・・・」
「あぁ。間違いなく不可能だ。絶対と言い切れる。」
だが俺は知っている。もしもシムビコートが某漫画のトランプ撃ってくる奴とか、某漫画のフーセンガムで変装する奴とかと同系統なのだとしたら、きっとこの錠も意味を成さない。というか、絶対突破不可能とか言う文面は、こういう場合完全にフラグである。「そ、そんな馬鹿なッ!?」って言うのがオチだ。
当然、現実であんな芸当が出来るとは到底思えないが、理無視の魔法世界。種も仕掛けもなかろうが、その場で作り出せてしまうのだ。予想外すら予想内である。だがその予想外がどういうものであるのかは見当がつかない。
「とりあえず、入ってくれ。例の骸骨騎士もここにある。」
ゼローグが重い扉をゆっくりと開くと、宝物庫の全貌が明らかとなる。
「「うわぁっ・・・・・!?」
「・・・そりゃ国家レベルの宝物庫だ・・・不思議でもない・・のか・・・?」
広がっていたのは、地下室とは思えない程の広い空間。
そこにあるのは金、黄金、ありとあらゆる金品財宝。宝石類が大量に詰め込まれた箱が見えるだけでも何十とあり、それと同じだけの金貨が入った箱も存在している。
豪華な装飾のなされた白銀の鎧、純金製であろう額に入れられた絵画、そのほかにも色々。まさに文字通りの宝の山が目の前にはあった。
「総額いくらだろうな・・・」
「少なくとも、この国のいくつかの領地は容易に買収できるほどはあるだろうな。俺もそこまで詳しいわけではないが。」
「・・・ひゃあ・・とんでもないわね・・・」
訳が分からな過ぎて、アリヤが聞いたこともないような声を出している。
三人とももちろん宝物庫になぞ今まで入ったことなんてあるわけもなく、最初はこんな感じかぁという印象だったが、この目の前の光景を少しずつ脳が把握していく度に体からなんか変な汗が出てくる。もしもこれらに触れたらその価値はどれほど揺らぐのだろうか・・・?それこそ、山積みされた箱を一つ落としただけでどれだけの国家資産が塵と化すのか・・・・・
「ゼローグ、この空間は庶民には毒過ぎる・・・」
「体が触れないように気を付ければいいだけだろう?」
「お前は今までに周りにあるこの宝の山の数を数えたことがあるのか!?」
「あるはずないだろう?ここにあるほとんどは俺が生まれる前から存在していた物なのだから。落ち着いて歩け。少なくとも、俺はこの中の物を傷つけたことは生涯一度もない。」
この中の欠片一つ盗んだだけで死刑とか言われといて冷静になぞなれるか!!それすなわち気づ付けた瞬間無期懲役とかになるんだろ!?最悪死刑だろ!?そしてなんだかんだで処刑場送りなんだろう!?
「よし・・・お前ら、一旦ここを出よう・・・」
「・・・」
「気持ちは分かるけど落ち着きなさいよタク!」
「・・・・・」
「そうだよ!道幅もそこそこあるんだ。よっぽどのことがない限りこれらにぶつかることなんてないよ!」
「・・・・・・・」
「レルやめろ!フラグを立てるなぁ!!」
「えぇいうるさいお前ら!!!全員大人しくついてこい!!!!!」
俺たちはその言葉のままにゼローグについていく。というかさっきから謎に心臓がバクバクなんだが、この先ついていっても死なないかな?もうここまで来たら金持ちどころではない。国の財産の一部分を見てしまっているのだから。更に奥となると、それはもう重要な文化財レベルの物もきっと存在するわけで・・・なんか目眩がしてきた・・・
「・・・・・あれだ。」
「・・・何だ?布?」
「いや、あれはただ覆いかぶさってるだけね・・・多分、その下に眠っているのが・・・!」
「黒鋼の・・・」
「あぁ。黒き骸骨・・・その全容が・・・これだ。」
そう言って、ゼローグはその布を勢いよく取り払う。
「がっ!?骸骨が・・・」
「黒い!?」
俺たちが想像していた物は同じで、人骨が黒い鎧を身に着けている、といったものであった。だが、実際は違った。
黒かったのは骸骨の方であったのだ。そして鎧は、くすんだ白・・といった感じだろうか。正直見栄えだけで言えば、手前で見た鎧の方が上だが、その内包するオーラはそれの比ではない、いや、比較するのもおこがましいほどに強大で、そして薄気味悪い。背中には剣と盾を装備しており・・・・・これって・・・
「ゼローグさんの装備にそっくり・・・!」
「あぁ。俺が持つ神の名を冠する武器、英鎧『アキレウス』。そして、この骸骨が身に着けているのは、その元となったものとされている、創鎧『ホメーロス』、剣と盾も、この骸骨が身に着けている『ヴァルカヌスの剣』と『ヘファイアの円盾』。その模造品だ。」
「神の名を冠する武器って・・・小父様の『阿修羅』と同じ・・!?」
「それよりも・・創鎧!?神の名を冠する武器の元となった!?・・・ってことは・・・」
「この骸骨・・もしも装備だけ見たなら・・・ゼローグのそれよりも強いってことか。」
どうやら今回のミッションは、想像した物よりも遥かにやばいものかもしれない・・・・・
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