#134 翌日、官邸廊下にて
シムビコートが一体何者なのかというのも問題だが、それよりも重要視しなければならないものもある。
「では宝物庫まで案内しよう。着いてきてくれ。」
「おう。」
「し、師匠以外のSランク冒険者・・・!」
「オーラがすごい・・・っていうか、なんでタクはさも当然かのように接することができてるのか分からないんだけど・・・」
「殺されかけた時点でこいつを敬う気など一切ない。」
「一応年上なんだがな・・・」
たかが数年早く産まれただけで調子に乗るでないわ!
さて、重要視しなければならないもの、それはもちろん例の『黒鋼の骸骨騎士』の事だ。
怪盗の正体が分かったところで、ブツを盗まれてしまったのではまるで意味がない。そんなわけで宝物庫にあるという現物がどのような物かを見に行く途中というわけだ。
昨日連れてこられた神殿もどきもといセラム共和国官邸の長い廊下をひたすら歩き続ける。
途中お偉いさんであろう人たちに何回も出会し、相当な場違い感を感じる。ヴォルト城も正直言って似たようなものだが、あれは俺の中では近衛騎士団が目立っていたので他は特にといった感じだったが、何というか、今絶賛働いていますよ感がすごい。社会科見学先の事務所に来たような感覚といえば僅かでも伝わるだろうか?
というか、この建物広すぎる・・・昨日はめっちゃ大きいわけでもないみたいな事を言ったが、前言撤回だ。最近ヴォルト城や地下洞窟、特にグラーケンなどといった意味のわからないくらいでかい広いでかいを体感したせいで語彙力だけではなく感覚すらおかしくなっている。ここも十分に大きいのだ。間違いなく。
「なぁゼローグ、シムビコートって今回以外で名前聞いたことあるか?」
「いや、今回が初めてだ。そして今まで宝物庫に忍び込んで生還した奴は一人もいない。事に及ぶのはそいつもきっと初めてだろうさ。」
「怪盗も初めて?」
「名乗ってきた奴らなら今までにも何度かいたな。全員もれなく首を刎ねてやったが。」
「容赦なっ・・・」
「当然だ。そいつらはそれを覚悟して国の害へと自ら変貌したんだ。結局何も得ず寿命が縮んだだけだったがな。」
その宝物庫にはそれだけこの国の金銭的にも歴史的にも価値のある物が沢山あるのだろう。まぁ結局のところ言ってしまえば、そいつらは成功率コンマ一パーセント未満の大博打に出たわけだ。どうやらどの世界でも、金が人を狂わせるという点は変わらないらしい。
円形の金属やただの紙切れをここまでのものにしてしまう人間も相当だな・・・だがそんなものもなければ、今の人間社会では絶対に生きていけないのだからもうどうしようもない。かと言って一攫千金なんてなかなか出来るものでもない。時には地道な努力も必要だと、改めて分からされる。って、今は別に関係ないか・・・
「そう言えばお前たち、アリンテルドから来たんだろ?ドマスレット殿は元気か?」
「は、はい!実力面でも、師匠を超える実力者はアリンテルドには未だにいない程です・・・!」
「さっきから気になっていたが・・・君はあのドマスレット殿の弟子なのか?」
「はい!レリルド・シーバレードです!」
「道理で、そこのがおかしいだけで、君も相当な実力に見える訳だ。そちらのお嬢さんもね。」
「あ・・アリヤ・ノバルファーマです!」
「・・・ハハッ!そっちは近衛騎士団長殿の血筋か!これはまた大物揃いだ!」
レルもアリヤもかなり緊張しているようで、どこか声も強張っている。二人はアリンテルドのトップであるモラウスの前でもここまでの緊張はしていなかった。なんというか、こんな二人は新鮮だ。
「ってちょっと待て!?そこのってなんだそこのって!?」
「それにしても・・・あのドマスレット殿が弟子を取るとはな・・・なんというか、意外だ・・・」
「だから話聞けよ!?」
何故こいつは俺の話だけたまにスルーしやがるんだ!?嫌がらせか!?
「聞いた内容に返答する必要がないと思ったからしない。それだけだが?」
「淡々と答えるなぁ!?あとまだ何も言ってないだろうが!!」
「お前の考えていることくらいなんとなく分かる。」
「昨日会ったばかりなのにとんでもない信頼関係なのでございますのね!?」
「馬鹿で単純、分かりやすいという意味だ。」
「ンっだとおい!?」
「はいタク!その辺にしておきなさい!」
コントじゃないからな!?まぁ別にシリアスってわけでもないがな!!
この一連の流れはコイツのそこの発言が発端だし、その後の俺の反応をスルーしたコイツのせいであり、俺はこの掛け合いの中で一切の非など無い。そう、全部ゼローグのせい。
「・・・師匠は、僕の人生の恩人です。僕の中で決して揺らぐことのない最強、それこそが師匠・・ダリフ・ドマスレットなんです。そしていつか、そんな師匠を超えることが、僕の夢なんです!」
「・・・良い心構えだ。引き続き鍛錬に励むといい。その向上心があれば、レリルド、君はもっと強くなれる。」
「・・・・・はい!」
ゼローグにそう言われたのがよほど嬉しかったのか、レルはどこか胸を震わせながらそう答えた。
今の時点でもダリフやゼローグとは別のベクトルで俺の中の最強クラスなのだが、そんなレルがここから先もっと強くなったんであれば、一体どのようなものになるのだろうか?多分なろう系主人公とかそんな感じになると個人的に思っている。今の時点でチートスキルみたいなもんだし・・・・・だが、
「レル!負けねぇからな!」
「私ももっと強くなるんだから、覚悟してよね!」
「二人とも・・・うん!!」
その光景を隣で眺めていたゼローグは、心なしかどこか口角が上がっていた。しかし、それを見た者は誰もおらず、もしかすると、彼自身も気づいていないのかもしれない。
彼らが進んでいる魔神討伐への道のり、今はその序盤も良い所。
ここから先も、様々な敵、組織、そして世界と相手をすることになるだろう。困難という言葉もおこがましいほどの苦難がこの先に待ち構えているのは明白である。
この先、目の前にいる三人が、一体どのような強さを手に入れるのかを、ゼローグは無意識に楽しみにしてしまっていたのかもしれない。
「・・・・・さぁ、着いたぞ。ここが宝物庫の入り口だ。」
「うわぁ・・・先が見えない・・・!?」
「かなり奥まで続いているみたいね・・・」
長い廊下のその先、その側方に開かれている空間、それは遥か地下へと続く階段。最奥が見えない程の長い長い階段。
見えないと言っても、螺旋状などではない。ただ一本の階段。果てしなく長い階段。その先に待ち構えている宝物庫は、どのようなものなのだろうか。
「行くぞ。」
「おう。」
俺たちは再びゼローグを先頭として地下へと続く階段を下りていく。
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