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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
134/189

#132 食後の喧騒は思いのほか騒がしく

 いや、うん。美味しかったよ?美味しかったんだけどさ?


「うぷ・・・量多すぎやしません・・・?」

「何言ってるのさ!大盛りはこれくらいいっちゃわないとね!」


 俺は今胃に甚大なダメージが蓄積されている。レルとアリヤに出されたカルボナーラの量はザ・一人前といったサイズ。店で普通に提供されたくらいの育ち盛りには全く足りないくらいのあのサイズ。

 レルとアリヤはあの運動量のくせしてアリンテルドでもそれほど大量に食べているイメージが無かったので俺は自分だけ大盛りを注文したというのに、いざ席にやって来たのはそれらの五倍はありそうなサイズの山。そう。パスタの山である。今後店で大盛りを頼むのが一瞬ためらわれるくらいにはボリュームがあった。あんな量大食いファイターしか食わないって・・・

 それにしても、割と長くこの店にいる(半分以上大盛りカルボナーラのせい)が、未だ周りの客の賑やかな談笑が絶えることはない。

 少し気になったので後ろを振り向いてみたのだが、これがまたすごい。


「まさに異世界って感じだな・・・!」

「ここは野郎どもの憩いの場になってるからな。」


 樽のジョッキを交わし合う現実ではめったに見られることは無いであろうその光景に、俺はどこか気分が上がっていた。

 プストルムの酒場に入ってたのは昼だったため、ここまでの盛り上がりというものはなかった。結局モラウスの孫であるマリウスの誕生式典もクルーシュスとかいう奴のせいで中止にならざるを得なかったため、アリンテルドでは目の前のような光景はほとんど見られなかった。そしてエンゲージフィールドでは、言わずもがなである。

 正直な所、俺がこれまでで一番盛り上がったのは雷岩魔の洞窟でたまたま『闘気波動砲(アーツ・キャノン)』を編み出したときなのではないかと結構真剣に考えてしまう。こういったものは、案外一番体験してそうなものだが、実は相当新鮮なのだ。

 

「・・・料理に夢中ですっかり忘れてたけど、そういえばここ酒場だったわね。」

「そういえばって・・・酒場だと何かあったか?」

「この盛り上がり方、なんか既視感があったのよね・・・これ、クエストボードにとんでもないのが張り出されてるんじゃない?」

「あ、ほんとだ!店の奥の方にクエストボードが!」


 レルが見ている方向を向けば、確かにそこにはプストルムの酒場にあったそれとは少し違えどクエストボードが存在した。


「ん・・?あぁ。うちは冒険者協会と提携してるから、クエストの張り出しもやってる。そういや今朝、難易度と報酬がえげつねぇクエストが来てたっけか・・・」

「えげつねぇクエスト?」

「父ちゃん・・!それはもしかして・・・『天然黒華胡椒(くろはなごしょう)』の収集ク」

「ぜってぇちげぇよ。」

「もうちょっと夢を持とうよ!?」


 まぁ目の前の親子漫才は放っておいて・・・にしてもクエストの存在もちょっと頭から抜け始めていた・・・そういえば獣人襲撃の前はクエストで軍資金調達も考えてたっけ・・・


「まだ一か月くらいなのに、なんだかクエストボードが懐かしく思えてくるわね・・・一日十件ノルマが懐かしいわ・・・」

「一日十件って、相当キツいんじゃないのか・・・?冒険者怖っ・・・」

「いや・・・アリヤが自分に課していただけだよ・・・しかもそのほとんどが討伐クエストだし・・・」

「・・・もうなんとなく想像できるようになってしまった・・・」

「ギルドに入ってないの個人で一日で十件以上は師匠に続いて歴代二人目だそうだよ。」


 俺も大概かもしれないが、アリヤも、もちろんレルも人の事を言えた義理では絶対にない。絶対に。

 それがあの強さの根源とも呼べるが、そのあまりの訓練の物量には何とも言えない感情が沸き上がってくる。なんかすごく負けた気がする。強さへの向き合い方とか、その他諸々。

 そう、あの感覚に近い。同年代かそれよりの奴がテレビで大人気だったり、何らかで成功を収めていたりしているのを見たとき、「こいつらはこんなに頑張っているというのに、自分は何をしているのだろう。」と感じてしまうあれである。

 人々はそれを嫉妬、あるいは自分の怠慢から目を逸らしている奴と言うのだろうが。


「・・・俺も頑張んないとな。」


 いつまでもスキル頼りではいけないと、二人を見て改めて思ってしまった。

 おそらく今のままでも、大抵の奴には勝てるだろうし、負けるつもりもない。だがそれだけでは勝てない相手というのも、きっとどこかで現れる。多分、グラーケン以上に理不尽な奴が。そんなのに今のまま挑んでも、結果は多分揺らぐことなく自分の負け。

 それではいけない。もう、だろうなと納得してはいけないのだ。英雄の雛とかいう業を背負わされて、そんなことを考えていてはきっとこの先やってはいけないだろう。

 目の前の敵には全部勝つ。その後魔神もぶっ倒す。ついでにアルデンもぶっ飛ばす。その三つを、必ず遂行してやるのだと、俺は再び決意を新たにする。


「おっと話が逸れかけた・・・俺達もクエスト見てみるか?」

「いや、受けてる余裕なんてないでしょ?」

「見るだけだよ見るだけ!定番の薬草集めあんのかな!!」

「なんで薬草集めでそんなに興奮できるんだい・・・?」


 するだろ!薬草集めだぞ薬草集め!!するに決まってるだろ!?俺だけ!?なんかルーキーの登竜門みたいな感じあるだろ!?もはやロマンの域だろ!! 

 しかしいかんせんボードの前に群がる冒険者が多すぎる。老若男女様々な武装集団が群がっている光景は、警察に見られれば即全員逮捕は免れないだろうな。などと考えながら俺達三人は一度席を立ってクエストボードに向かってみる。

 人ごみを何とか掻い潜り、見えたのは壁一面埋め尽くさんとする張り紙。一酒場だけでこれなのだ。協会本部は一体どれだけ依頼があるのだろうか。

 以前、アリンテルドの冒険者協会で聞いたことがあるが、基本的に冒険者の収入はクエスト報酬のみであるそう。そしてこれだけ大量にいる冒険者がどんどん増えている。そしてそれが意味するのは、それら全員をまかなえるほどのクエスト数があるということと同義で、これまで実際にあったクエストはまさに星の数ほど存在するのだという話を聞いただけではあるが知識として持っている。

 これがそのたった一部分にすぎないという事実に驚きながらも、とある一枚の張り紙に目が行く。

 他の張り紙はそのほとんどが白だというのに、その紙だけ真っ黒。異常なまでに目立っていた。おそらく、周りの連中が注目しているクエストというのはこれの事だろう。

 そして、そこにはこう書かれていた。




 私のショーに参加したい者たちよ。天壮月光の夜(ルナティック)の夜に、このトポラの街にへと集え。ショーを最も盛り上げてくれた者には、古の金貨百枚を約束しよう。最高の夜に巡り合い、共に最高のステージを作り上げよう。 怪盗シムビコート




「シムビコートって!?」

「さっきタクが言ってた・・・?」

「・・ハハッ・・・!どこまでも怪盗ってわけか・・・!?」


 まるで物語から飛び出したかのような振る舞いをするこの怪盗は、三日後に旋風を巻き起こす・・・・・

トポラというのは、今タクたちのいるセラム共和国内の街の事です。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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