#130 装備魔修
「いや・・・着たまま修理なんて出来る訳ないでしょ・・・?」
「ア・・デスヨネ・・・」
恥ずかしい。俺は今ものすごく恥ずかしい。
もちろん配慮はされており、店内には服屋の試着室のような場所があり、俺はその中で身に着けている物を一通り脱いだ。もちろん下着以外。
「はい。とりあえずこれを着ておいて。」
「ん?これは?」
「この店貸し出しの服。装備魔修が終わるまで結構時間がかかるし、ずっとそこにいるのもアレでしょ?」
「まぁ確かに。ありがとうアリヤ。」
渡されたのは軽い素材の白い服にズボン・・・病人かな?
何はともあれ、装備魔修が一体どのようなものなのかをこれで見れる。終わるまであそこで半裸待機はちょっと気が引けたのでありがたい。
「お待たせいたしました!早速取り掛かりますね!」
「予算に上限は無いので、存分にやっちゃってください!」
「かしこまりました!」
そう言って奥から出てきたのは、受付の女性。動きやすい恰好に着替え、その手には何やら直方体の大きな頭が特徴的な片手持ちハンマー。頭の側面に何やら文字、それから魔法陣が刻まれている。
というかアリヤさん?存分にって・・・俺の装備一体どうなるんですか・・・?
その後、店内の少し奥に存在する作業台にまず俺のジャケットが広げられる。その上によく分からない石・・鉱石?みたいなものを置き、女性がそれをハンマーで上から叩く。
「うおっ・・・!」
突如作業台の上に描かれる魔法陣。ハンマーで叩かれた石がジャケットに浸透していくようで、それが行き渡ったジャケットは、無くなっていた袖部分が復活し、穴が開いた個所も修復されていた。
「このジャケット・・繊維は獣人系の魔物かしら?クオリティはそこまで・・量産型の安物・・付与するにはまず魔質変化させてスロットの拡張・・・いや、水平質拡張から性質反転させて組み込む方が・・・」
「専門用語ぉ・・・」
何やらぶつぶつと言っているが、その内容がサッパリ入ってこない。ガスターさんなら多分分かるのだろうが・・・
「アリヤ・・あの人は一体何者・・・?」
「多分あの人は、二種魔工職人。『繊維鍛冶師』と、『スキル付与士』。その二分野を得意としている人。つまり、今のタクの装備にぴったりな人材・・!聞き込みしまくった甲斐があったわね!」
そんなことを話すアリヤは、こちらから見てもかなり生き生きしている様子だ。レルはさっきから隣の作業場の方に入り浸ってるし、あのテンションのレルは俺でも制御できない。
いやしかし、受付の人まで職人とは・・・てっきり装備を隣の作業場に持って行って、そっちの人が何かするのかと思っていたが、イメージは頭にタオルを巻いた筋肉質なそれっぽい強面のおじいちゃん・・・とにかく、まさか店内でやるとは流石に予想外だった。
執り行ってくれている女性は未だにぶつぶつ何やら一人で呟いているが、その手は全く止まることがない。脳と体を切り離して作業しているような感じだ。一体どれ程の修業を積めば、そんな神業が出来るというのか。
見たところかなり若い。二十代前半のように見えるが、一体何歳からハンマーを握っているのだろう?
そんなことを考えている間にもハンマーは振るわれ、俺のジャケットには心なしか光が宿っているように見える。
「ほぅ・・・」
俺はその光景に感嘆の声を漏らす。違うのだ。さっきまで着ていたそれとは明らかに。
生地も心なしか滑らかになっており、袖もほんの少しだけ伸びている。服の素材が変わり、欠損した部分を復元して見せたのだ。あのハンマー一本で。
元居た世界では絶対にありえない光景。俺はこれまでにそれを何回も見てきた。でもそのほとんどは戦闘の際であり、こういった、それ以外の日常の部分に散りばめられた魔法の技術というのも、またこちらの心を刺激してくる。
派手な攻撃だけが魔法ではない。回復魔法も、強化魔法も、こういった修繕する魔法も、皆等しく魔法なのだと、改めて再認識させられた。
「・・・凄いな。」
「えぇ、そうでしょ!」
その後も複数の石が俺のジャケットに吸い込まれ、最終的に黒だった俺のジャケットはその黒をさらに深くした。そこには生半可なグレーなど一切存在しないと言わんばかりの真っ黒。
「ふぅ・・・それではここから、スキル付与に移行しますね!と言っても・・元が元なので、そこまで多くは付与出来ませんが・・・」
「構いません。どうかお願いします。」
そう答えたのは、アリヤではなく俺。あくまでも俺の装備だ。アリヤに任せっぱなしというのもあれだろう。
エンゲージフィールドから楽しみにしていたスキル付与。逸る心を抑えながらも、最低限の礼儀は弁えておかなければ。
「分かりました!それでは始めます!」
彼女は勢いよくそう答え、ハンマーを頭上に掲げる。が・・・
「ちょっと待ってください!!」
「「え?」」
俺と店員は静寂を破ったアリヤの方にびっくりしながらも振り向く。
「ど、どうされました?」
「おいおい・・今店員さんも集中してたぞ・・・?」
「・・・タク、スキル付与っていうのは、人、または装備にスキル付与士が特定のスキルを付与、それを受けた者が行使可能になる。これは知ってるわよね?」
「お、おう・・レルからも聞いた・・・」
だからその時はなぜ自分に魔力が無いかと嘆い・・・た・・・・・
「で?その装備に付与されたスキルを使う方法、覚えてる?」
「・・・・・・・」
「・・・その装備に、自身の魔力を通すことよ。」
「そぉぉだったぁぁぁあああああ!!!!!」
「え!?ちょっと!?本当にどうされたんですか!?」
思いっきり取り乱す俺に、店員はそろそろ困惑する。本当であれば怒られてもおかしくないのだろうが、優しい人で本当によかった・・・・・
というか、いつだ?それが完全に頭から抜けていたのは?
いや、あれだ・・・!アリヤに『危機離脱の陽炎』のあれこれを聞いた時・・・!
武器ではなく自分に付与されるのであれば、魔力を流すも何もないと、どこかで考えていたあれが事の発端だ。だからこうして直前まで全く何も思わなかったのだ。
というか、アリヤの先ほどまでの生き生き顔はどこへ行ったのやら?というかおそらく、アリヤもたった今それに気付いたのだろう。異国なのにも関わらず妙に慣れている様子があったし、きっといつもの自分の感じでことを進めていたのだろう。
「アリヤ・・思い出してくれてありがとう・・・」
俺がそう言うと、アリヤからはサムズアップが返って来た。当の本人は気まずい顔で汗が滝のように流れていたが・・・
そこから店員さんに事情を説明した。もちろん向こうは心底驚いたような顔をしており、どうしたものかと頭を悩ませる。
「あの、非常におこがましいとは思いますが、こういった事ってできますか?」
―――――――
「・・・なるほど。やったことはありませんが、私とてプロです!やりがいがありますね!」
「・・・ありがとうございますっ!!」
その店員の言葉を聞いたアリヤの顔には笑顔が戻り、店員に必死に感謝の意を表した。
さて、それは上手くいくのだろうか・・・とは言っても、当の俺は文字通り何もすることが出来ない。成功するにしろ失敗するにしろ、俺はただ完成を待つのみである。
スキル付与に関する文章が変だった部分を確認したので、本編一部分を修正いたしました。すみません。
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