#129 予告状
予告状
これがそちらに届いてから五日後の満月の夜、天壮月光の夜が始まる頃、セラム共和国宝物庫に存在する呪宝『黒鋼の骸骨騎士』を頂きに、我、深淵より参上す。
怪盗シムビコート
「ふーん・・・」
俺はゼローグに、例の予告状を見せてもらった。色々言いたいことはあるが、とりあえず一個づつ見ていこう。
「これが届いたのは?」
「二日前だ。」
「てことはあと三日か・・・」
日時まで指定してくるとは・・・いよいよコミックじゃねぇかよ・・・
わざわざ満月の夜を指定してくるのも、何か理由があるのだろうか?ただ単に字面が良いからという理由かもしれないが。
「黒鋼の骸骨騎士ってのは?」
「我がセラム共和国の宝物庫、その中で埃をかぶっている忌まわしき歴史を持つ代物・・・らしい。私が生まれる前からあるが、詳しいことは記録に残っていない。いつぞやに聞いた話では、その時代の呪いの儀式に用いられていたとか。」
呪宝と名乗っているのだ。その価値も能力も、きっと恐ろしいものなのだろうが、なぜそのようなものを盗むのだろうか・・・まぁ答えは簡単か。またその呪いの儀式か何かを、その怪盗シムビコートとかいうやつがやろうとしているのだろう。金銭目的であれば、それ以外にもあるであろう何の害もない普通のお宝を盗めばいいのだから。
「なるほど・・・で、この天壮月光の夜ってのは?」
「あぁ、十年に一度訪れる満月の夜の呼称だ。その日の月はその輝きをさらに増し、そのエネルギーをこの地上へ届けてくれる。それにより、作物はよく育ち、人々の心と体の傷は癒やす。どこか進むべき道を示してくれているようなあのなんとも形容しがたい感覚は、この国の人間ならではだろうな。」
「へぇ・・・」
ルナティックと聞かれれば、某シューティングゲームの・・・もあるが、直近ではダリフの我流剣技 阿修羅『破道』が記憶に新しい。何か関係があるのだろうか?
まぁそんなことは今どうでもいいか・・・問題は・・・・・
「これを送って来たこの怪盗シムビコートとやらが、『カースウォーリアーズ』、『ケラウノス』と関係が?」
「・・・・・断定は出来ん。だが、その可能性は高いだろう。特に『カースウォーリアーズ』。聞けば、これまで聞いたことのない呪属性魔法とやらを使うそうではないか。であらば奴らにとって、黒鋼の骸骨騎士はまさに宝・・・それ専門の集団であるのなら、私よりも骸骨騎士に詳しくても何らおかしくない。『ケラウノス』の方はまだまだ未知数な部分の方が遥かに多いし。この一件、もしそのどちらかが関わっているのだとしたら『カースウォーリアーズ』の方だとは思うが・・実際のところは定かではない・・・・・」
「確かに・・そりゃそうか。」
あの変態は、おそらくクルーシュスに殺された。あの組織同士が共闘するとは考えづらいし、そう言うことなら『ケラウノス』は、この件には関係ないと考えてもいいのだろうか・・・だがしかし、単に関係のない個人の可能性も十分ある。そう断言するのはまだ早いだろうか。
「・・・一通りは分かった。で、ゼローグ。俺は何をすればいい?」
「あぁ。無理にとは言わん。断ってくれても構わない。三日後、共に黒鋼の骸骨騎士の警護。そして、シムビコートの捕縛を頼みたい。場合によっては・・・殺しても構わん。」
「・・・・・殺すつもりはないが、警護には協力する。それでいいか?」
「問題ない。感謝する。」
いくら異世界とて、人を殺す度胸など持ち合わせていないし、持ち合わせるつもりもない。完全に十八禁になるような凄惨な場面も目撃、経験はしているものの、実際に俺が明確な意思を持って殺そうとしたのは、獣人やグラーケンだけ。俺はあのクルーシュスでさえも、完全に命脈を絶つつもりは無かった。もっとも、あの時点でだれか殺していたのであれば別だったかもしれないが。
人間以外なら良いのかと言われそうだが結局のところ、心の持ちようだ。俺は聖人君子じゃない。目の前でイカが何匹死のうが、別に心は痛まないし、ただの犬ならともかく、あんなやらなければこちらがやられるような化け物も、同じだ。どうやら、あの同種合成獣はそもそもが組み合わされた死体だったようではあるが。
しかし、ここは平和な日本ではない。身近なところに武器があり、身近なところに様々な魔法がある。俺もいつかその日が来てしまうのかもしれない。その瞬間が訪れた時、俺は一体どのような顔をしているのだろう?
さて、早速その黒鋼の骸骨騎士を見たかったが、運悪く今日泥棒に入られたばかりだ。流石に今日は勘弁していただきたいということだったので、現物を見せてもらえるのは明日ということになった。
もちろん無罪放免となった俺は建物をそのまま出ると、すぐに置いていってしまった二人の姿が目に入る。
アリヤとレルは急いでこちらに向かって走ってくる。
「タク!大丈夫だった!?」
「おう、なんとかな。死刑になりかけたけど。」
「「死刑!?」」
その後、俺は二人にも状況を説明した。先に勝手に引き受けたことを謝罪しながら、セラムの首相の元に届いた予告状の事について説明する。
「・・・・・というわけで、数日この国に滞在したいんだけど、二人は大丈夫か?」
「えぇ、もちろん。困っている人は見捨てられないわ。」
「リーダーは君なんだから、もっと堂々とすればいいのに。謙虚だなぁ。」
「日本人の謙虚は異世界でも通用した・・・?」
こちらとしては何ともありがたい事だが、ここまで何のストレスもなく肯定され続けるのはあまり慣れない。ならば、こちらもより一層励まねばならない。
「さて、こっからどうする?まだ日が暮れるまで時間があるけど・・・」
「・・・タク、あなたはまずその服を修繕すべきだわ・・・」
「・・・・・そうだった・・・」
グラーケン戦から一切変わっていない俺の装備・・・というより服はボロボロ。というか今気づいたのだが、胸当てとロングブーツに至っては傷一つついていない。恐ろしい耐久力だ・・・!
「ひとまず鍛冶屋を探しましょうか。」
「え?何で鍛冶屋?服屋じゃなくて?」
「服も鍛冶屋で直せるの!さ、行くわよ!」
というわけで俺たちは聞き込みを行って向かったのは、そこそこの大きさの鍛冶屋。販売スペースと作業場が連なっているようで、店内にいながらも鉄を叩く音が聞こえてくる。
「すみません。ここで装備魔修をやってるって聞いたんですけど・・・」
「はい。ここで行っておりますよ!」
「彼の装備の修繕、あと強化もお願いしたいのですが・・・」
「かしこまりました!すぐに準備いたします!」
「装備魔修・・・?」
「魔法を使って、装備の強化、修復をするんだ。もちろんアリンテルドにもあるよ。」
「さぁタク、早く服を脱ぎなさい!」
「なんで!?」
そういう店か!?そういう店なのか!?
あと三日って言ってんのに五日後警護を頼むみたいなこと言ってる意味の分からない文章があったので修正いたしました。困惑させてしまいすみません。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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