#128 和解
「ちょっと待て・・・倒せたのか?・・・アイツを・・・?」
「あぁ。かなりヤバかったけどな。」
「・・・世界の南側に君臨する『異次元種序列』・・その一角を落としたと・・・?」
どうやらグラーケンの存在は俺が思う以上に強大であったらしく、二人からは何やら激しい動揺を感じた。
それよりも、『異次元種序列』とはいったい何なのであろうか?この世界に来てまた初めて聞く単語が出てきた。異次元とつくくらいなのだから、おそらくとんでもない化け物に分類されるようなものなのだろうが、グラーケンもそのうちの一体だった・・・ということになるのか?でも考えれば確かにラスボスと言われてもおかしくないほどの強さであった訳だしそういう風に呼ばれているのにも納得だ。
「これまで奴に・・いや、エンゲージフィールド自体に挑んだ冒険者は数知れず。ここセラムからだけではない。アリンテルド、ルクシア、そしてデトゥルース・・・何百人・・下手すれば何千人、それ以上の冒険者がその地へと身を投じ、この長い人間の歴史上、その地から生還できたのは、我が息子ゼローグを含めたたったの四人。その誰もが、Sランク級の冒険者なのだ・・・」
「たったの・・・四人!?」
だがあのグラーケンだ。納得せざるを得ない。というか、ゼローグもSランク、しかもエンゲージフィールドに足を踏み入れて生還した四人のうちの一人。それはつまり、こいつもダリフと同じレベルの実力者ということを意味している。思えば確かに、他の奴らとは明らかに次元が違っていたし、戦闘中のこいつから感じる覇気は確かにダリフのそれと少し似ていたようにも思えてくる。
「おっと、話が逸れたな・・・タク・アイザワ。君の事はダリフ君から聞いている。こちらの無礼を、どうか許していただきたい。」
そう言うとゼラニオは砂岩製の大きな椅子から立ち上がり、深々とこちらに向かって頭を下げた。それを見たゼローグもその整った顔を崩すことなくこちらへと謝罪してくる。
「タク、改めてすまない・・・だがあれは、街の人々の安全のためだと、どうか理解してほしい・・・」
「いえいえ!無事に収まったことですし・・・まぁあの盗賊集団の中に変なのがいたら怪しまれるのも分かりますけど・・・もうちょっと人の話を聞いていただきたいものだな!」
「ぜ・・善処しよう・・・」
最後の一文だけは、ゼローグに向けて言った。いきなり殺されかけたし、これくらいは言ってやってもいいだろう。
「・・・で、そろそろこれ外していい?」
「あ、あぁ・・・すまない・・少し待っていてくれ。今手枷の鍵を・・・」
「よしっ。」
ばきぃぃぃぃん!!!!!
「ふむ・・もの凄い力だな・・・」
この空間に、甲高い金属音が響く。金属製の頑強な手枷は中々の重さで、そろそろ腕が疲れてきたところだった。外す許可は貰ったので、怒られることは無いだろう。
「おい!その手枷もタダじゃないんだぞ!手元に鍵があったというのに・・・!」
「・・・ごめん。」
普通に怒られた。
で、せっかくこんなところに来たのだ。手ぶらで帰るのは少しもったいないだろう。ということで、お互いの情報を整理し合う時間を設けてくれた。この親子はかなり多忙なようで、そこまでの時間は取れないそうだが。
「・・・そういえば、君たち一行はルクシアに向かったとダリフから聞いたが?」
「あー・・・エンゲージフィールドを出る方角を間違えまして・・・」
「まぁ、あの洞窟は方向感覚を狂わされるからな。無理もない。」
「そう言えば、ダリフさんたち、元気ですか?」
なんとなく聞いたその質問に、ゼラニオは神妙な顔つきに変わる。
「・・・彼とルクシアのクラッド王とは、最近は週に一度程度国際会議を行っている・・・だから、ある程度のその二人の様子は把握している・・・」
(国際会議って、そんなグループ通話みたいな感覚でやるもんだっけ・・・?いやあんまやったことないから知らんけど・・・)
「だが、最近はかなり忙しそうにしているよ。今までにないほどに。」
「え、そうなんですか?」
「あぁ。最近活発に活動を続けている呪属性魔法士団『カースウォーリアーズ』、そして新勢力のクルーシュス・エルラーグ率いる『ケラウノス』。その二つの組織を血眼で追っているよ。私が怖いほどの気迫を感じさせながらね。そして、アリンテルドの近衛騎士団長殿も一緒のようだ・・・なんというか、今の彼はそう・・・かなりピリピリしている・・・・・」
「そうですか・・・ダリフさんが・・フレイリアさんと・・・」
『カースウォーリアーズ』。そして『ケラウノス』。その二つの組織によって、アリンテルドは俺がこの世界へやって来てからのたった数日の間に随分と搔きまわされた。俺も詳しいことはまだ全然分からないが、一つだけはっきりと言える。両方イカれている。以上。
とはいえ、知っている人たちの近況が少しでも聞けたのは素直に嬉しかった。
「・・・父さ・・首相。例の件、タクに話してみてはいかがでしょう?」
「いやしかし・・・タクらにも使命があるだろうに・・・」
「・・・・・何なりと、お聞きいたしましょう。」
俺は首相に向かい片膝をついて頭を下げる。この世界に来てまだ日は浅いが、意味の分からないトラブルに巻き込まれ過ぎてもはや慣れてきてまでいる。それに、何やら困っている様子だし、Sランクのゼローグがそう提案するほどの物なのだから、相当な危機に瀕しているのだろう。助けない理由は無い。
「・・・良いのか?」
「はい。俺たちは、もっと強くならなければなりません。肉体も、精神も。俺たちに出来る事なら、やらせていただきたい・・・!」
「・・・どうやら英雄の雛は、私が思っていた以上によくできた男だったようだ・・・ならば話させてもらおう。ゼローグ!」
「はっ!・・・実は数日前、首相の元に・・・」
うんうん。泥棒が入って来たとかか?
どうやら近頃、この国では泥棒が多いようで。おそらくさっきの奴らみたいなのが他にもいて、そいつらを探し出して捕まえるとかそういう・・・・・
「怪盗から予告状が届いたんだ・・・!」
「・・・・・え?」
予想の遥か斜め上行っちゃってるんですけど・・・・・
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