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異世界武闘譚~英雄の雛の格闘冒険録~  作者: 瀧原リュウ
第四章 怪盗は黒き骸骨と共に
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#127 規格外との出会い

 この男は何なんだ。全くもって掴めない。

 ゼローグ・スタードリアスはひどく困惑していた。黒い身なり、ただの盗賊の残党だと思っていたのだが、己の渾身の一刀を、素手で逸らしたこの男。その溢れているオーラからは、魔力の一切を感じることも出来ない。

 この世界で魔力炉が一切ない人間など存在しない。であらば、漏れ出す魔力を完全にゼロにしているということ。それができるのは、この世界にもそれほどの数存在しない()()()。数多の魔法士の先頭に立ち、最強の二文字を欲しいがままにすることなど造作もないほどの実力者。

 だが、ゼローグにはどうやってもそのような実力者には到底見えない。確実に自分より三つは下であろうこの少年が・・いや、魔法師は、年齢すらも操ってみせるというのか・・・?


「・・・どうした?」

「あ・・いや・・・・・」


 ゼローグの下についている団員も、彼のその様子には静かに驚愕せざるを得なかった。彼がここまで取り乱すことなど、これまで一切なかったのだ。武力、知力、作法、品。全てが完璧の超人とさえ思っていたゼローグが、たった一人の少年に、どこか怯えている様子を感じていたからだ。

 そうして、ゼローグはタクに手枷を付ける。




「・・・これからお前を、セラム共和国宝物庫侵入、および窃盗の疑いにより連行。首相、ゼラニオ・スタードリアスの元に連れていく。」

「った・・タク!?」

「おう、大丈夫だよ。ちょっと説明してくるだけだ。すぐ戻る。」


 こういう時は、暴れた方が後でいろいろ面倒なことになる。話し合いで穏便に済ませた方が利口というものだ。ぶっちゃけ大暴れしたいが。

 俺とてずっと脳筋なわけではない。まずはその場での最善を考え、それが大抵成功しないので結果暴れているだけで。




「・・・・・ここ、セラム共和国だったんだ・・・!ということは、僕らはエンゲージフィールドの下側・・・南の方角で抜けて来てしまったということか・・・」

「でも・・セラムってことは・・・」


 やっと現在地が分かり安堵したレリルドとアリヤは、向かい合ってニヤリと笑う。


「うん・・!タクは大丈夫だ!」

「よかったぁ~っ・・・」




 連れられてやって来たのは、なんというか・・・砂でできた神殿かのような・・・滅茶苦茶大きいわけではないが、それでも相当の大きさを誇る建物だ。

 以外にも歩く時間はそこまで長くなく、馬車で数日かけてとかじゃなくて本当によかったと安心している。


「おぉ~~っ・・・銅像でかっ・・・」

「黙れ危険人物。」

「俺のどこが危険人物だって!?」

「俺のゼロ距離の斬撃を素手で逸らし、挙句欠損した指も瞬時に再生した。明らかに危険であると、俺は判断しているのだが?」

「言い返せそうで言い返せないな・・・」

「とにかく黙っていろ。もうすぐ首相殿の前だ。」


 なんか顔色一つ変えずに淡々と返されると結構腹立つな・・・

 そうして奥へと進んでいくと、かなり広い空間へと出る。明かりは無数のランタン。どこか異国情緒あふれるその雰囲気の空間の最奥では、打って変わって外交官の制服のようなものを着た男が鎮座していた。

 年齢はぱっと見五十くらい。中々の肩幅を有しており、更には立派な顎鬚。まさに重鎮といった印象の男だった。


「・・・息子よ、其奴が宝物庫を荒らした身の程知らずの愚者か?」


 声も渋い・・!なんかのイケオジのCV担当してくれねぇかなぁ?割と戦闘するタイプのイケオジの。

 とか意味の分からない事考えている間にも、緊張感の走る会話は続く。というか親子だったのね・・・

 何はともあれ、俺は今罪人扱いなのだ。もし冤罪にでもされたら、かなりまずい。魔神討伐どころではない・・・!


「いえ、この者はまだ未確定です。宝物庫に侵入し金品を奪った愚か者共計十名は、別の団員が代わりに捕縛、そのままセラム共和国死刑確定囚最終投獄施設へと直行させました。」

「ふむ・・・まぁこの国の宝物庫、その中の金貨一枚でも盗めば即死刑・・・妥当だろうな。」


 いやいやいや!?今すっごい不穏な一文が垣間見えたのですが!?怖っ!?

 これは何としてでも切り抜けねば、「次回 英雄の雛、冤罪による処刑にて散る。」みたいなのは御免だ!どこの決闘者だよ!?


「であらば、一体その男は・・・おい貴様・・名乗ってみよ。」

「は・・はい・・・俺、じゃなくて・・・私めはタク・アイザワという者でありまして・・・」


 あ、終わったかな?これが面接だったら確実に終わってるな?なんか高校受験の面接を思い出した・・・部活について聞かれたときはマジで死を覚悟したぞ・・・・・


「タク・・・アイザワ・・・?どこかで・・・」

「む?待て・・タク・アイザワ!?ということはつまり・・・貴様があの英雄の雛!?」

「んなっ!?」

「・・・へ?」


 自己紹介は思った以上に好印象・・・ではなくて、どうやら俺の名前に聞き覚えがあったらしい。


「なるほど・・・それならいろいろと合点がいく・・・てっきり始めは高等の魔法師か何かだと勘違いしていたが・・・」

「なんでそうなんだよ!?魔法使ってないだろ!?てか使えねぇし!!逆に使いたいわこの野郎!!」

「いや・・・魔力を一切感じなかったし・・・」

「感じねぇなら尚更使える訳ねぇだろうが!!!」

「いや・・あの・・・そういう意味では・・・」

「じゃあどういう意味なんですかぁぁあああ!?」


 罪人扱いされ捕まり、挙句の果てに下手すれば死刑にされるところだったのだ。少しくらいキレても罰は当たらないだろう。

 そうして一悶着の末、ほんの少し落ち着いてきたころ、ゼラニオが咳払いをしてその場の空気をリセットする。


「・・・タク・アイザワよ。お主がここにいつということは、アリンテルドからこの地へと来たということであろう?それはつまり・・・あのエンゲージフィールドを突破してきた・・・と、考えてもよろしいのかな?」

「・・・エンゲージフィールド・・・・・」


 その単語を聞いたゼローグは、少し顔をしかめる。

 彼もまた、エンゲージフィールドに挑み、その地の支配者にしたものの、なんとか生還したという経験を持つ者なのだ。


「・・・それで・・その・・タク・・・でいいか?」

「もう一通りすっきりしたし。好きにどうぞ。」

「そうか・・・それで、その・・グラーケンは・・・あの『死掴の洞窟烏賊(グラスプ・スクイッド)』は・・・」

「あぁ、ぶっ倒して来た。」

「・・・・・は?」


 何を言っているんだ?あの化け物を、仕留めた?彼は本当にそう言ったのか?ゼローグは、そう考えることしかできなかった。しかしそれはタクの紛れもない真実であり、彼は声色を一つも変えずに淡々とそう告げる。


「グラーケンは、俺が仕留めた。」

「・・・なんと・・・・・!」


 ゼローグ、ゼラニオは共にその驚愕の顔色をすぐに変えることは無かった。しばらく、その表情を自分で動かすことすらままならなかった。

 そう告げたタクの眼光は見開いているのにもかかわらずどこか鋭く、そのオーラをひと際引き立たせる。

 英鎧騎士団団長でありながら、S()()()()()()()でもあるゼローグはこの日、一瞬ではあるものの、心の最底から恐怖する感覚を覚えた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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