#126 トラブルは立て続けに
「っそだろオイ・・!?ゴフッ・・・」
「・・・次・・」
「ぃいいっ!?グハッ・・・」
「ほい次。」
こいつら二人よりも、サーヴァンツ一体の方が厄介だった。
思えば対人戦はクルーシュス以来だったか。それも一つの要因かもしれない。どうしても、こいつらが弱く見える。
調子に乗っているわけではない。確実に成長しているのだ。死に物狂いの付け焼刃を重ねて。
今二人仕留めたが、両サイドから更に二人。武器を持って襲い掛かってくる。片方は曲刀、もう片方はナイフ。二人の表情からして、かなり焦っているようだ。
いい感じだ。『神の第六感』を使わずとも、よく見えている。
そんなことを考えていたら、例のアイツの声が脳裏によぎるが、今それは関係ない。目の前の敵に集中しろ。最短距離、最高効率で無力化する・・・!
まず来るのは曲刀の刺突・・と見せかけて・・・
「そっちぃ!」
「ぐぁ・・なぜ・・・!?」
「・・・なんとなくだよ。」
勝負勘・・というやつなのだろうか。そんなものを持っているという自覚は全くないが、それでもなぜかナイフの方が先に来ると予想できた。
「ひぃぃっ!?うわあぁぁあああ!?」
もう一人はどうやら完全に俺にビビってしまったようで、やけくそのように曲刀の大振りをこちらに放つ。だが、そんなのを食らってやるほど俺は優しくない。
「ぐぶぅ・・・・・」
「よし・・・あとは・・・・・」
「クソッたれ・・・何なんだテメェら!!」
「どうも、通りすがりの英雄です。」
「舐めたこと言ってんじゃねェ!!!ぶっっ殺してやる・・・!!!」
男は奪った金品が入っているであろう袋を床へと置き、腰に装備していた曲刀を引き抜く。
それも奪ったものなのだろうが、その曲刀の色が凄い。
美しいエメラルドグリーンの輝きを放つその刀身は、その曲刀自体のオーラを更に引き上げる。
「おいおい・・泥棒がお宝置いちゃったらダメじゃん・・・もうただの黒い一般人じゃん・・・」
「ッ・・!いちいち癇に障る野郎だ!!!クソ野郎!もう謝ったって遅ぇぞ?」
「とにかく、お前にはもったいない代物じゃねぇのっ?」
俺は奴に向かってスタートを切った。だが奴の曲刀からは、直後怪しげな光が放たれる。
「おらよっ!!『うねる樹木』!!」
「なんだ!?」
男が曲刀を地面へと突き刺すと、その場に無数の木が生え、それらはうねうねしながらこちらへと向かってくる・・・・・
エンゲージフィールドを抜けてから何回目だ?この気持ちの悪い既視感・・あーダメだ。なんかイライラしてきた・・・
「・・・だぁかぁらぁあ!?さっきから似たようなもんばっかなんだよ!!空気読め空気!!!」
「何の話だ!?」
「とっとと引っ込んどけぇぇえええ!!!!!」
「グブバァァァっ!?」
あまりにもデジャヴが連続しすぎている・・・この流れを断ち切るには、こうするしかなかったのだよ。
俺は死なない程度に顔面を思いっきり殴った。鼻も折れてるだろうし、結構やりすぎてしまった感はあるが、まぁ許したまえグブバ君(仮称)。
「タク・・流石にやりすぎなんじゃない・・・?」
「いいんだよ。どうせ悪人だし。」
「まぁそれもそうね。」
とりあえず逃げないように倒れているグブバ君の頭に足を乗せておき、ふと周囲に目を見やる。
すると目に映ったのは、驚愕する冒険者たちの面々。
「あの盗賊団を・・こんな一瞬で・・!?」
「なんてスピード・・・両隣の子たちも凄い・・・!」
「でも見ない顔だな・・一体何者なんだ?」
冒険者ではない人たちも、知らない間にぞろぞろと集まってきている。向けられる相当数の視線。これだけ派手に暴れたのだ。当然と言えば当然なのだが・・・
「・・・やば・・やりすぎちゃった・・・?」
「まずいね・・どんどん人が増えてきてるよ・・・!」
「よし・・誰か来る前に逃げ・・・ッ!?」
敵の増援・・・ではなさそうだ。
そこに突然現れたのは、十数人の同じ格好をした奴ら。
白と水色で構成された制服のようなものを身に着け、全員それぞれ武器を装備している。
中でも特に目立つのは、一人だけ全身真っ青の鎧を身に纏った若い白髪の男。
整いに整った顔、きりっとした目からはこちらへの圧を嫌というほどに感じる。他の奴と比べてもオーラが段違いである。こいつ本人のそれもあるだろうが、おそらくその鎧・・・まるでダリフの阿修羅を見ているかのような圧倒的威圧感。背中には片手剣と盾を携え、俺たち三人を睨みつける。
「・・・この辺りでは見慣れない顔だな。貴様らも仲間か?」
「いやいや・・この状況見ればどう考えても・・・」
俺が会話を終える前に、すでに奴は剣を抜いていた。両手で束を握った渾身の一振りが、気付いた頃には俺の目の前にあった。
早すぎて、全く見えなかった。集中力が切れていたというのもあるが、それにしたって早すぎる・・・!
「ッ!?何!?」
「・・・ったく・・俺じゃなかったら死んでたぞ!!」
俺は即意識を迫りくる斬撃に向け、必死で脳から体に信号を送る。
それにより動き出した腕は何とか斬撃の途中である奴の剣の腹に最大限の力を両側から加える。もちろん最大の『身体強化』と『魔晶闘波』の重ね掛けだ。
それでもギリギリ。何なら今もなお押し切られそうだが、一度弱まってしまったのならこちらのものだ。俺はそのまま斬撃の軌道を逸らせ、地面へと持ってい・・・
「・・・っつ!!」
持っていくつもりだったが、流石に技量が足りない。勢いを殺された斬撃は、ほんの一瞬の隙に再起し、俺の左指を三本刎ねた。
「・・・ってめぇ!!イケメンだからってやって良いことと悪いことがあんだぞ!!!」
(・・・こいつ・・俺の剣を受け止めた?素手で・・・?魔法を使った様子もない・・!?さっき刎ね飛ばした指が!?この男・・・何者だ・・・!?)
鎧の男は驚愕した。あるいは畏怖か。
確かにこの男の指を自分の剣で刎ね飛ばした。そして今もなおその指はそこに転がっている。
それだというのに、男の左手には五本の指がある。
何かの代償を支払っての身代わりのような魔法か?それとも単なるフェイク?そもそも刃が空を斬ったか?いや、確かに切り落とした感触があった。だが今、確かに奴の指は五本とも血液が周り、正常に動いている。
だがそんなことよりも驚くべきは、自他共に認めている神速とも呼べる剣を素手で受け止めて見せたということ。
武器を使ったのであればまだ分かる。だが、素手なのだ。明らかに人間業ではない。
「得体のしれない奴だ・・貴様を捕縛し連行する。何、簡単な取り調べだ。」
「いやいや・・指刎ね飛ばしといてどの口が言ってんだよ・・・?」
「この国の人々の平穏な生活のためだ。大人しく投降しろ。」
「話聞けよ!!」
アリヤとレルを含めた周りの民衆を差し置いて、鎧の男は剣と盾を構える。くそっ・・・これは、何をどうしても意味はないか・・・であらば・・・・・
「よし!じゃあとっとと連れていけ!」
「・・・・・は!?」
「え・・・ちょっとタク!?」
「何言っちゃってんの!?」
俺はそう言うと、両手を奴に差し出してやった。
俺の台詞があまりにも予想外だったのか、男はキャラ崩壊しない程度に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた・・・ちょっと面白かった。
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